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15. 僕はこうして奴隷商会を叩き潰した

残酷なシーンが少しあります。

ご注意ください。

「おじさん! 僕をどこに連れて行くんですか?」

「うるさい、黙っていろ!」


 冒険者ギルドから連れ出された僕は、一応、約束通り縛られもせず歩かされた。


「お前、どうやって生き残ったんだ?」

「気がついたら、冒険者ギルドに連れてこられていたんです」


 唯一の味方(?)のおじさんも、そこは気にかかったようで、僕に聞いてきたが、僕は適当に誤魔化しておいた。


「記憶が無いのか……そうだろうな。あそこは冒険者でもなければ生き残れないような場所だ、相当辛い目にあったんだろう」


 そんな僕の話を聞いて、同情までしてくれた。


「なぁ、ガエルの頭、この子を連れて行くのはやめないか? 会長が許してくれるとは思えないんだ」

「会長が許す? 何言っているんだ、オラス。俺たちは言われた通りに赤い鎧を会長の前に運ぶ。それだけだ。会長が許すだの、許さないだのは俺たちに関係の無い話だ」

「でも、せっかく生き残ったこの子……がっ」


 オラスさんがガエルに殴られた。


「オラス、誰に意見しているんだ? 誰もテメェの意見なんか聞いてねぇんだよ」


 僕のために申し訳ないね、オラスさん。殴られた仕返しは僕がするからね。まぁ、僕の方だけで死んじゃうんと思うけど。


「おい、ここだ。中で騒ぐなよ」


 僕の目の前には大きな建物があった。

 入り口には「ジャンユーグ商会」と書いてある。その下に取り扱い商品が書かれているみたいだが、「人、獣」くらいしか意味が解らなかった。もう少し、ちゃんと文字の勉強をしないとこの先、困るね。仕方ないので、ガエルに聞いてみる。


「ここって、何かのお店? これ、なんて書いてあるの?」

「ああ、ここは有名なジャンユーグ商会だ。主に扱っているのはお前みたいな奴隷だな」

「僕は奴隷じゃない!」

「そうかよ。まぁ、頑張って会長にもそう説明するんだな」


 奴隷商会か。

 日本人の感覚からすると、最悪の商売だな。うん、心置きなく消えてもらおう。


----- * ----- * ----- * -----


 ガエルは正面入り口から中に入っていった。こういう場合、裏口から入るんじゃないのかなとも思ったんだけど、そもそも奴隷が合法化されている社会なら、僕みたいな子供を連れて入るのも、日常的な事なんだろう。


「ほら、お前のお仲間だ」


 ドアを開けると商談用のスペースがあり、さらにそこを通り抜けると、そこには長い廊下があった。廊下の左右は木で出来た格子になっていて、格子の向こうにも通路があり、さらにもう1つ格子を挟んで何人もの大人や子供が生活をしていた。多分、あれが奴隷なんだろう。


 僕の表情が強張る。

 人身売買なんて許されるものじゃない。


 強張った僕の表情を見て、慄いたと思ったのか、ガエルがニヤニヤしながら言ってくる。


「鎧を脱げば、お友達とあそこで仲良く暮らせるぞ」

「だから、僕は奴隷じゃない!」


 僕の言葉を強がりだと思ったのか、ガエルは、今度は声を出して笑った。

 その後、格子の廊下の奥まで行き、そこから階段で上の階へ上った。4階まで上がり、再び廊下を少し歩き、


「会長、失礼します」

「入れ」

「ジャンユーグ様、赤い鎧を連れてきました」


 僕が通された部屋には、ブクブクと太った成金野郎が、大きな机の向こう側で座っていた。


「ガエル、これはどういう事だ? 中身が入っているじゃないか」

「はい、どうやら依頼を出すのが早すぎた様で……」

「馬鹿な、こんなガキが一晩、あそこで生き延びたと言うのか?」


 ガエルがペコペコと頭を下げる。


「仕方が無い、もう一回捨ててこい」

「ですよね」

「待ってください!」


 オラスさんが、堪りかねたのか思わず声を出してしまった。


「こんな子供を、もう一度ダンジョンに行かせるなんて、酷すぎます。どうか、許してやる事は出来ないでしょうか」

「おい、ガエル、こいつは何を言い出したんだ?」

「すみません、俺の教育が足りなくて。おい、オラス、テメェは黙っておけって言ったよな」

「会長、どうか、この通りですから」


 オラスさんは、とうとう机の前で土下座までしてくれた。

 僕のためにそこまで……有難くて涙が出そうになる。一方、ガエルはそんなオラスさんの横っ腹に何度も蹴りを入れた。もうそろそろ我慢の限界かな……


「えーと、僕の事を諦める気は無いんですよね」


 突然、話始めた僕を見て、ガエルの足が止まる。


「お前の事はどうでもいい、大事なのはその鎧だ!」


 会長が虫ケラを見るような目で僕の事を睨みつける。


「おい!」

「へい」


 ガエルが取巻きに指示を出した。取り巻きの一人が、麻袋を持って僕に近づく。


「縛らないって約束したじゃないか!」

「そう。約束通り、縛らないでおいてやるよ」


「ふうん、でも奴隷じゃない僕を麻袋に閉じ込める。これって誘拐だよね」

「お前は奴隷だ、クソガキっぶ!」


 僕は麻袋を持って近づいてきた取巻きの一人を蹴り飛ばした。蹴飛ばした男は壁にめり込んで動かなくなった。僕が蹴った場所を中心に上半身の右半分が消し飛んでしまっている。壁には細く千切れた真っ赤な肉片が大量に付着していた。


「え?」


 会長は突然目の前で起きた事態に付いていけずに声をあげた。


「力を入れすぎちゃった」


 反省反省。あとで片付ける人の事も考えないとね。


 そういえば僕が直接、自分の自覚を持って人を殺めたのは、これが初めてだ。海賊船でも精霊魔法で船長室ごと何人かを吹き飛ばしてはいたけど、その時は必死だったし、死体を直接見た訳では無いのでショックはなかった。でも、これはグロいね。吹き飛んだ場所から内臓がドロっとタレて来るのが見える。傷口から煙が少し出ているのは、強すぎた衝撃による摩擦熱が原因かな……何かが焼けるような匂いがする。


 でも意外とショックは無い。僕はどこか壊れちゃったんだろうか。でもいいや、今はやり切っちゃおう。


「お、おい、坊主……今、何をした?」


 ガエルが呆然と呟く。


「僕にはシャルルという立派な名前があるんですけどね」


 僕はそれに答えながら、もう一人の取り巻きを裏拳で殴った。今度は壊さないように慎重にしたおかげで、身体がバラバラになる事なく、頭から大きな音を立てて壁にめり込んだ。少しは避けるとかしてみればいいのに、呆然と僕の事を見ているだけだったね。ご愁傷様。


「さて次は……」


 オラスさんは土下座をしていた姿勢のまま、プルプルと震えている。うん、そのままそこで待っていてね。危ないから。


「会長、一体何が……」


 さすがに騒ぎを聞きつけたのか、ドアの外に人が集まってきたようだ。そしてドアを開け、中の惨状を見て動きを止めた。


「こ、これは……」

「ひでぇ……」


「お、お前ら、このガキを殺せ! 殺せー!」


 会長が僕の事を指差したけど、新しく入ってきた人達は呆然として動かない。そりゃそうだ。4歳児を指差して、こいつを殺せって言って動ける方がどうかしている。こっちも入ってきた人達が僕を痛めつけた人たちなのか判断がつかないし、関係ない人を全滅させるのはちょっと忍び無い。


「よいしょっと」


 僕は会長の大きな机を持ち上げ、そのまま入り口に投げつけた。


「うわっ!」


 何人か巻き込んでしまったみたいだけど、とりあえず入り口は塞げたかな。さて……


「くそ!」


 ガエルは判断が早い。会長後ろにある窓から外へ飛び出ようとした。


「はい、ダメ」


 僕はそれよりも早く、ガエルの首根っこを捕まえ、引き戻す。


「何、逃げようとしているんですか? 僕の話はこれからですよ」

「く、くそ!」

「はい、そこに座ってください!」

「ぐわっ」


 僕はガエルのひざを砕き、無理やり正座をさせる。変な風に曲がっているけど、仕方無いよね。


「さて、会長さん」

「な、何だ……」

「僕は奴隷じゃないですよね」

「あ、ああ、奴隷じゃない。奴隷じゃない。奴隷じゃないから、許してくれ」

「奴隷じゃない僕を、またダンジョンに投げ入れようとした会長さん達は犯罪者ですよね」

「ああ、悪かった。悪かった。だから許してくれ!」


 なんか臭うと思ったら、この会長さん、股間が大変な事になっているよ。


「大人なんだから、お漏らしとかダメですよ」


 ちょっと汚いと思ったけど、僕は椅子に座っている会長の股間を踏み抜く。


「ぎゃっ」


 椅子が壊れ股間を真っ赤に染めた会長が床に這いつくばる。


「ああ……も……もう止めてくれ……頼む」


 悶絶しながらも必死に会長は懇願してくるけど、


「僕も、やめてって泣いてお願いしましたよね。殴られて、蹴られて、剣で斬り付けられて、魔法を浴びせられて……僕がどれだけ泣き叫んでも、笑ってましたよね。だから……」


 僕は会長の右腕を蹴り飛ばす。腕は瞬間に千切れて、ただの肉片となる。


「僕も笑うんですよ。こうやってね」


 続いて、会長の左腕を蹴り飛ばす。左腕も右腕の後を追って、ただの肉片になる。ああ、楽しいな。


「ああ、ガエルさん、動かないでくださいよ。あなたの番はまだ何ですから……」

「ひ、ひぃ、ひぃ……」


 ガエルは僕の声を無視して必死に這って入り口まで移動し、机を動かそうとするけど、膝を砕いているので力が入らないみたいだ。


「会長、どうします? 助かりたいですか?」

「た、助けてくれ……」

「どうしようかなー? 僕も命乞いをしている人の命を奪うのも心苦しいし……そうだ!」


 僕は良いアイデアが浮かんだ!


「よいしょっと」


 先ほど、ガエルが逃げ出そうとした窓を窓枠ごと殴って破壊する。


「会長! 僕がダンジョンの入り口まで連れて行ってあげますよ。それで、おあいことしましょう。うん、我ながらナイスアイデア!」


 僕はそう言って入り口で机を必死に動かしているガエルの首根っこを右手で持ち、左手で両腕を失った会長の首根っこを持ち、窓から飛び出した。


「こ、ここは4階!」

「大丈夫ですよー」


 ガエルが叫んだが、僕は気にせず、隣の建物の屋根に飛び移り、屋根伝いに村を出て、そのまま僕が落とされたダンジョンの縦穴がある場所まで一気に駆け抜けた。


----- * ----- * ----- * -----


「生きてますー?」


 途中、何度か引きずっちゃったので、二人ともお尻の辺りが真っ赤に染まってしまっているけど、死んではいないみたいだ。


「僕はここに上から落とされたけど、さすがにそれをすると死んじゃうと思うので、ちゃんと抱えて降りてあげますよ。優しいでしょ」

「た、助けて……」

「よいっしょっと」


 僕は二人を抱えて縦穴に飛び降りた。

 そして丁寧に二人を降ろし、僕が一昨日潜り込んだダンジョンの入り口を指差す。


「僕はその穴から入ってダンジョンを抜けて生き残りました。お二人とも大人なんだから、きっと大丈夫ですよ。ああ、夜には竜種がここに来るんですってね。二人とも頑張って避難してくださいね。中には大きな蜘蛛が待ってると思いますけど、知性があるみたいなので、説得できるか頑張ってみてください」


「ば、化け物」

「酷いな、ガエルさん。僕はこれでも力をつける努力を必死にしたんですよ。皆さんに復讐するためにね。同じように、お二人にも生き残る術を残してあげたんだから、感謝してもらわないと! ああ、会長の腕と、ガエルさんの足はハンデですね。きっと大丈夫! 4歳の僕が生き残ったんだから!」


 僕はそう言うと、縦穴の壁を駆け上って、下を覗き込む。


「それじゃ、お元気で。お世話になりました。絶対お礼をしようと思っていたので、迎えに来てくれて本当に嬉しかったです」


 穴の上からペコリと頭を下げ、僕はダンジョンの入口を後にする。

 二人とも涙を流しこちらを見ていたので、喜んでもらえたんだろうな。


----- * ----- * ----- * -----


 帰りは、余計な荷物が無いので、何も気にせず全速力で街まで戻った。


「よいっしょ」


 僕は出て行った窓から会長の部屋に戻ると、机は退けられていて壁に突き刺さっている2人の死骸を残して、部屋には誰も残っていなかった。


「あれー、誰かいませんかー?」


 大声で叫んでみたけど、誰も出てこない。これは困った。もっと暴れようかとも思っていたんだけどなぁ……この後、どうしようか。でも、とりあえずこれで、当初の目標はクリアかな。


 そう、僕はこうして奴隷商会を叩き潰した。

ちょっとこれまでのテイストと違う展開になりました。

このまま、シャルルはダーク主人公になっちゃうんでしょうか?


次回 「僕はこうして孤児院を経営することになった(仮)」


お楽しみに!

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