12. 僕はこうしてドラゴンに出会った
更新、遅くなりました!
ダンジョンの奥へ進み始めた僕は、ふと疑問に思った事を口にした。
「スンは、どうしてずっと人の形のままでいるの?」
「主様、人の趣味に口を出すのは良くない」
「それって趣味の問題なの?」
「趣味の問題」
「そうなんだ……」
趣味の問題でいいのか?
そもそも、人型だとイザという時に困りそうなんだけど……
「主様の実力だと、武器を持っても大差無い」
「そういえば、昨日のアレって何?」
「アレ? 主様、いやらしい」
「な、何と誤解しています?」
「寝ている間に、この魅惑的な身体を……」
「幼児同士で何をするんだ!」
「ぽ……」
スンが擬音で赤面する様子を表現したけど、表情は何も変わっていない。それなりに面白い子なんだろうな。
「そうじゃなくて、僕の魔力を使ってって」
「ああ、そっちね」
「こっちの話しか無いけどね……いくら斬りつけてもビクともしなかった蜘蛛が瞬間的に蒸発しちゃったけど、あれ、僕の魔力って事?」
「主様、自己評価高すぎ」
「へ? だって……違うの?」
「あれは、着火に使わせてもらっただけ」
「着火?」
「起動する時だけ、ほんのちょっとの魔力が必要だった」
「ほんのちょっと?」
「そう。あとは私に蓄えられていた魔力」
「そ、そうなんだ……」
魔力を抜かれた時に全身に悪寒が走って、立っているのがやっとだったんだけど、それでもちょっとなんだ。父上にも特殊な力は無いと言われていたけど、魔力も無いって事なのかな。そういえば……
「僕が海賊船で魔法を使った時は、もの凄いパワーだったけど、あれでも僕の魔力って少ないの?」
「私を吹き飛ばした魔法の事?」
「そ、そう……その……ごめん」
「いい。美味しいもので手を打つ」
「解った。機会があったらご馳走するから」
食べ物で釣られる性格なのかな?
「海賊船での魔法は、魔力とは関係無い」
「どういう事」
「あれは精霊魔法。主様は精霊にお願いしただけ」
「そうなんだ……確かに自分でもどうやったか解らなかったしな……精霊魔法の使い方ってどうやればいいか知ってる?」
「説明は面倒。主様が理解する」
はぁ……またこれか。でも、今回は結構説明してくれたな。
何だか会話をしているだけで、頬が緩んでしまう。僕はこういう会話に飢えていたんだろうな。
「スンの力が長い時間続かないんだったら、襲われた時は手早く攻撃しないとね。あのピカって光る攻撃って、どのくらいの時間使えるの?」
「溜まっている魔力次第」
「そうか。それって、どのくらいで溜まる?」
「主様、私はただのショートソード。理不尽な要求に抗議する」
「へ?」
想定していなかった答えに、僕がさっきからニコニコと浮かべていた微笑みが強張るのが解った。
「スン、抗議ってどういう事かな?」
「私はただのショートソード。自分自身で魔力を溜めるなんて事は出来ない」
「じゃあ、どうやって魔力を溜めているの?」
スンが僕の事を指差す。
「僕の魔力を使うって事?」
「主様の理解で正しい」
「僕の魔力って、ほんのちょっとしか無いんだよね? それでどのくらいの時間で溜まるの?」
スンは視線を上にあげ、少し考え込むようにしてから、僕に向かって手のひらを開いて見せた。
「5……分?」
楽観しすぎだろうけど、とりあえず言うだけ言ってみるが、案の定、スンは首を横に振る。
「50分?」
出来れば、このくらいで収まって欲しい。これ以上だとショートソードを使って相手を倒すという運用が難しくなってしまう。だけど、僕のそんな願いをスンは無情にも顔を横に振って撥ね除ける。いつだって現実は世知辛いものだ。
「5時間かぁ……また昨日みたいに蜘蛛に遭遇した場合の使い所が難しくなるな。戦闘後は出来るだけ休憩をとってから移動するようにしないと難しいね」
大きく溜め息をついた僕に、スンは頭を傾げて、
「主様? 誤解している」
誤解? もしかして5秒とか50秒? だったら嬉しいけど、まさか50時間って事は無いよね
「主様の魔力だと500年は必要」
「はい?」
「主様のチリのような魔力では着火で使う以外の使い道が無い」
「はい?」
「主様のミジンコにも劣るような魔力で、一撃で敵を消滅させるような力を生み出すのは無理」
ごめんなさい。もういいです。理解しました。そこは全く想定できない単位でした。もうこれ以上、僕を詰らないで……
「じゃぁ、昨日の攻撃は……」
「造り主からの伝言。一回分サービス」
「ち、父上……」
とりあえず僕は、自分の力だけで戦う必要があるという所まで理解した。涙が止まらないけどね。
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この先、僕は自分自身の力で切り抜ける必要があるという事だ。防御力だけはあるから、身の危険という点ではなんとかなりそうだけど、例えば巨大なモンスターに襲われ、丸呑みされてしまった場合など、どう対処していいか想像もつかない。
例え消化されなかったとしても、あそこから出るのは嫌だなぁ……それだけで精神的に死んでしまいそうだ。
「スン、この後、襲われたりしたらスンはショートソードに戻ってくれるの?」
「主様、主様の腕力では、私はいらない子」
「うっ……そうだね。確かに……」
「でも、仕事。例え貧弱な主様であっても、私は働く。上司を選べないのが世の常」
「あ、あり……が……とう」
言い様はともかく、僕の武器にはなってくれるみたいだ。なんとか、ショートソードだけで勝つ方法を見つけないと。それに、父上は僕の成長速度だけ上がるような加護を与えてくれたって言っていた。それって、やっぱり修行をした結果とかなんだろうか……亀の甲羅を担いだ爺さんでも出てきてくれないかな。
「スン、僕が強くなるためにはどうすればいい?」
「戦う?」
なんで疑問系?
「モンスターと戦えばレベルアップとかするのかな?」
「主様、世界はゲームとは違う」
「そうだよね、ごめん……」
「主様、お話の時間は終了。着いた」
「え、何が?」
僕たちが歩いていた道は緩やかにカーブしていて、スンの言葉とともに奥に道が行き止まりとなっていた。ここまで入り口から一本道だったため、これは行き場を失ったかもしれない。
「スン。着いたっていう事は、この道を知っているの? あそこで行き止まりだけど、どうしたらいいのかな?」
「ノック」
え? ノック? どっかにドアなんかあるの? ダンジョンでノックして入るって、あ! 何か仕掛けがあるんだ!
僕はキョロキョロと周辺を見ながら、行き止まりまで進んだ。結局、何も見つける事が出来ず、道は終わってしまった。
「スン、行き止まりだけど……ノックをするってどういう事?」
「ノック」
スンが行き止まりの壁を指差す。
ここをノックしろって事? ただの岩肌なんだけど……そう思いながらも、僕は岩肌にノックをしてみた。ところが、僕の拳は見えていた岩肌の部分を少し通り抜け、その奥にある木のようなものを叩いてしまった。
トントン!
「え、あれ? これって幻影?」
僕のノックとともに、岩肌だと思っていた部分がぼやけ、突然目の前に、木で出来た扉が現れた。
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ギィ……
スンがドアを引いた。油の切れているような音がドアの金具から聞こえ、ドアが全開となる。僕はスンに促され、ドアの中に入った。
ドアの中は石の壁に囲まれた大きな正方形の部屋になっている。1辺が100メートルくらいはありそうだ。僕らが入ってきたドアとちょうど反対側にもドアらしきものがあるのが見える。
天井高も100メートルくらいありそうだ。これまで歩いてきた場所と同じように、天井が光っているが光量が多いのだろうか、部屋全体が明るい。
「主様、準備する」
「準備?」
突然、影が差した。それに釣られて上を見上げると……天井から何か大きなものが降りてくる。え? あれって……
「ドラゴン?」
上空から羽を広げた巨大な恐竜が降りてきた。日本にいる時に散々見たドラゴンだ。東洋的な竜ではなく、西洋ファンタジーでお馴染みのドラゴン。
それが僕のすぐ頭の上で、僕めがけて降りてくる。恐怖というよりも、現実離れしたこの状況に、僕はピクリとも動けなかった。
ドラゴンは降下してくる勢いそのままに僕の目の前に轟音を立てて着地した。全身が青っぽい鱗で覆われているのがよくわかる。そしてその目はモンスターとは思えないくらい、深い知性を感じさせるものだった。これって……いや、白い蜘蛛での反省もあるしな……いや、それにしてもドラゴンなんてものをこの目で見る機会があるとは! 転生してよかった。しかし、大きいな。あれ? 何で僕の事をじっと見ているんだろう……そういや、何で僕はこんなに落ち着いているんだ? 目の前にドラゴンがいるんだぞ……僕は襲われるんじゃ……
「うわ! ドラゴンだ!」
ようやく、脳が動き始めた結果、僕は非常に間抜けな声を出して座り込んでしまった。
『ふむ、妾を前に平然としていたので、どれほどの勇者かと思ったが、飛んだ見込み道がいか』
部屋の中に荘厳な趣のある女性の声が鳴り響いた。今って目の前のドラゴンが喋ったのか? やっぱりこのドラゴン、見た目通り知性があるのか? そして、見た目ではよくわからないけど、メス?
ドラゴンが喋った事で混乱している僕を気にもせずに、ドラゴンは、僕がたった今入ってきたドアに、その大きな爪を指してこう言った。
『まぁ、仕方ない。あの者との約束通り、試練を与えよう。汝、妾を倒さねばそこの扉を抜けてることは叶わぬ。さぁ若き冒険者よ。汝はこの蒼龍の試練に挑戦するのか?』
「蒼龍、主様はそこから入ってきた」
すかさずスンが蒼龍に対してツッコミを入れた。そうだよね。僕はそこから入ってきたから、蒼龍の試練とやらに挑戦する必要は無いんだ。
『……』
「……」
「……」
不思議な沈黙が流れ……
『……知ってたし……試しただけだし……』
先ほどの荘厳な声とはうって変わって、若い女の子といった感じの声が響いてきた。なんだよ、その返し。女子高生かよ!
これが、僕と彼女との最初の出会い。
そう、僕はこうしてドラゴンと出会った。
今回は予告タイトル通りで行けました。やれば出来るんですね(^^;
師匠は別に亀の甲羅は背負ってませんが、ようやく修行ターンか!?
次回!「僕はこうして再会した(仮)」
夕方くらいに更新予定。お楽しみに!