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10. 僕はこうして全裸の幼女を手に入れた

 すみません。予告タイトルの場面まで、またもや届きませんでしたm(_ _)m

 そこは2メートルくらいの深さの傾斜のある縦穴だった。


 後ろから罵詈雑言を浴びせてくる成金の声を無視して、僕はその穴に飛び込んだ。つい先ほど、もっと高いところから突き落とされても無傷だったから大丈夫だろうという計算はあったけど、それ以上にモタモタしている姿を成金に見せたくなかったという気持ちが強かった。


「よいしょっと」


 膝で衝撃を吸収して着地。我ながら華麗な姿勢だったと思う。うん、オリンピックを目指せるかも……異世界だし、そんなものは無いか……いや、父上の事だから作ってそうだな。


 なんとなく身体の埃を払い気持ちを切り替える。

 成金の声はもう聞こえない。


 よく考えたら、こうやって拘束や監禁もされていない状態で一人になったのは、旅に出てから初めてだ。まぁ、旅立ちの翌日に攫われたのが原因なんだけど……でも、もう売られてたり、殴られたりするのは沢山だ。たとえこのダンジョンで死ぬ事になったとしても、僕は僕の意思で前へ……


 少し溢れてきた涙を振り払い、僕は強張る顔に無理矢理笑みを浮かべた。


「さて、進みますか」


 ダンジョンの中は、外から見たとおり明かりがある。仕組みは解らないけど、天井全体が淡く光っていて、その光が通路全体を照らし出してくれていた。ここは岩をくり抜いて作った坑道のような下り道になっている。これ、人の手が入っているのかな? 少なくとも僕が入り口の雰囲気からイメージをしていた鍾乳洞のような洞窟ではない。


 僕は周囲を警戒しつつ歩き始めた。何かは出てくるだろうと覚悟はしていたけど、まさかたった10歩で襲われる事になるとは……


 僕の目の前で突然、右側の壁に裂け目が生まれ、そこから大人くらいの大きさはある巨大な白い蜘蛛が姿を現した。


「え?」

「シャー!」


 シュバ!っという音とともに蜘蛛の口から白い粘液のようなものが飛び出してきた。それが僕の身体にまとわりつく。捕まった! そう思ったけど、粘液が鎧に触れると同時に、鎧が赤く光り、鎧や僕の顔などに付着した粘液が蒸発した。


「ええ?」

「シャー! シャー!」


 その様子を見たからなのか、蜘蛛は不気味な唸り声をあげた。攻撃に対して抵抗をした僕に怒りを感じたのか、蜘蛛の巨大な8つの黒い目が赤く染まり、再び僕に向けて白い粘液を飛ばしてきた。


「わ、わわ」


 僕は颯爽と避ける。避けきれずに粘液が当たる。粘液が蒸発する。


「ええー、ちょ、ちょっと、待って……」


 僕は華麗に身を躱す。躱しきれずに粘液が当たる。粘液が蒸発する。


「どうしよう、どうしよう」


 蜘蛛は何度か粘液を飛ばしたあと、僕を警戒するように一歩下がった。身体が大きい分、多少なりとも知性があるのかな? とりあえず僕も粘液が当たっても鎧の加護で大丈夫だという事が分かったので、少し冷静になって、


「蜘蛛さん! 待ってください! ここは平和的に話し合いましょう!」

「シャー?」


 蜘蛛の目の色がゆっくりと元の黒へ戻っていく。これはいけるか?


「僕は何もしません。ただ、ここを通り抜けたいだけなんです」


 僕の呼びかけに応えるように蜘蛛が少し頷き、ゆっくりとお尻から自分が出てきた隙間に入っていった。


 よし、もう大丈夫だ。やっぱり知性があったんだね。そんな気がしたよ。白い蜘蛛って何だか神の使いっぽいもんね。何事も平和が一番。それでもモンスターを相手に油断はしないように……と、僕は警戒しつつ蜘蛛が入り込んだ隙間の前をゆっくりと通り抜ける。


「ありがとう。君とは友達……ブベッ」


 隙間から白と灰色の縞々の足が2本伸びてきて、僕の顔面と腰を引き込み、そのままダンジョンの壁にホールドされた。蜘蛛の足って毛がびっしりと生えているんだね……


「ま、待って? あれ? 今、僕ら分かり合えたよね? 友達になったよね」

「シャー!」


 白い蜘蛛は、背中や首に牙を立てようとしているのか、肩のあたりに何度も衝撃が走る。ヘルメット……じゃない、鎧の加護がなかったら、即死していた!


「食べるの? 僕をたべちゃうの? 美味しくないって! うわー! やめてー!」


 幸いにも手と足に自由があったので、なんとか引き剥がそうとするけど、必死に動いたけど、蜘蛛の足をピクリとも動かす事はできない。


「どうしよう! 助けを呼ぶ? って、たった今、ここに突き落とされたばかりじゃん。そ、そうだ、何か武器に……武器……?」


 僕が旅に出る時に父上からもらったショートソード! あれを使えば……!


「って、海賊に取り上げられていたんだ! 忘れてた!」


 あー、あれがあれば! 僕は悔しさのあまりに手足をバタバタと動かす。蜘蛛はそれを見て、僕を固定する足の力をさらに強める。


 やばい、本格的にやばい!

 どうしよう! そういえば確か、父上がくれたショートソードは、盗まれても呼べば戻ってくるような事を言ってたような……よし、今こそ、父上のチートスキルに期待する時だ!


「ショートソード来い! えーと、来れショートソード! 僕の剣よ、ここに来い! 来い!」


 僕は心の底からショートソードを求めた。意識を右手に集中し、僕の手の中にショートソードが生まれるイメージをする……き、きた! 手の平が熱くなるのを感じる……! 来い、俺のショートソードよ! 今こそ!


「!」


 僕は自分の心に従い、声にならない声をあげ、右手を天に掲げた……


「……」

「……」

「……」

「……」

「シャー」


 うわー! 何も出てこない! 蜘蛛も僕に合わせてしばらく動きを止めてくれていたよ。乗せられて恥ずかしかったのか、牙を立てようとする速度と強さが上がった!


「父上ー! ショートソードが出てきません! たーすーけーてー! うえーん!」


 僕はとうとう泣き出してしまった。


----- * ----- * ----- * -----


「……」

「……」

「シャー!」

「わっ!」


 蜘蛛にホールドされた状態のまま、牙でガシガシやられる事、数十分。その衝撃がマッサージ効果を生み、泣き疲れていた僕はうつらうつらしていた。だが、それもとうとう限界がやってきて……


 蜘蛛が、僕の事を放り出した。


「なんか、ごめん……」


 僕はゆっくりと立ち上がり、裂け目から離れる。


「シャー」


 力の無い唸り声が聞こえた後、何かが擦れるような音がしばらく続き、やがて蜘蛛の気配が全くしなくなった。


「助かった……って言っていいのかな?」


 後半は寝ていたのでよく解らないけど、とりあえず僕は蜘蛛に食べられずに済んだみたいだ。昼寝とマッサージ効果でむしろ体調は良くなった。人間、何が幸いするか解らないね。


「ふー、今回だけは見逃してやる」


 すっかりコリのほぐれた肩を回し、決め台詞もバッチリ。なんか、色々続いた事もあって、すっかり恐怖耐性が振り切れてしまった。もう何が出てきても恐れる事はないぜ!


 そう思いダンジョンの奥へ視線を移した瞬間。


 ペタ……


「ひぃ」


 何か水に濡れた足で歩くような音が聞こえた!


 ペタ…… ペタ……


「どこから……」


 前後を見回す。誰も見当たらない。


 ペタ…… ペタ…… ペタ……


 近い! 近い! これ周り中から聞こえない? でも、どこか解らない! 何これ、怖えー!


「うわぁ!」


 突然、肩に何かが置かれた。それに驚き僕は腰を抜かしてしまった。


「ひ、ひぇ……ひぇ……」


 怖くて立ち上がれない。絶対、アレな奴だ。四つん這いで坑道の奥へ進む。


 ペタ…… ペタ…… ペタ……


「ひぃ! 付いてくる!」


 見ちゃダメだ! 見ちゃダメだ!


「ひっ! ひっ! ひっ……ぶっ!」


 恐怖に目を閉じて進んでいたために、顔を湿った何かにぶつけてしまった。僕は慌てて、目を開け、ぶつかった何かを見上げる。


「え? 何にぶつかった!」

「わっ!」


 僕は意識を気持ち良く手放した。


----- * ----- * ----- * -----


 パチン! パチン!


 何かの音が聞こえる……ああ……これは肌を叩く音だな……叩かれているのは……


「僕だ!」


 頬を何度も叩かれていた事に気がつき、僕は飛び起きた。

 僕の目の前には……


「誰?」


 全裸の幼女が僕に跨っていました。


 幼女の全身には、まるで海から上がったばかりですとばかりに、水滴と砂が付いていた。綺麗に切り揃えられている黒髪の上には、ご丁寧に昆布が乗っかっている。この幼女が僕に跨り、何度も頬を叩いていたみたいだ。


「とりあえず、どいてくれるかな」


 幼女は僕の上から動かずに、文句を言い始めた。


主様(ぬしさま)、いきなり私の顔を見て倒れるとは、失礼な話」

「はい?」


 全裸の女の子と言っても、僕と歳も変わらないくらいの子供なので、何も感じないのだが、さすがに気まずい。僕はできるだけ見ないようにしながら、


「えーと、主様?」

「そう。そもそも、私を呼んだのは主様」

「えーと、君は誰?」

「私は私」


 どうも、話が通じない。


「えーと、僕は君の事を知らないんだけど……説明してくれるかな?」

「私は話すのが苦手。主様が自分で理解すべき」

「そんな無茶な? だいたい君は、どこから来たの?」

「あっち」


 僕が入ってきた方を指差す。


「名前は?」

「無い」

「お父さんは? お母さんは?」

「いない」


 いくら何でも情報がなさすぎでしょ。


「さっきのペタペタという音は君が?」

「これ?」


 幼女はようやく僕の上から降りて、その場で行進をするような仕草をした。


 ペタ…… ペタ…… ペタ……


 ああ、それだ。でもさっきは全方位から音がしていたような……そう思って見ていると幼女の姿が消え、再び僕の全方位から音が聞こえ始めた。


「え、何? 消えた? え?」

「ここにいる」

 

 幼女が再び僕の目の前に姿を現した。


「さっきは反応が面白かったので、からかった。ゴメンなさい」

「い、いや、それはいいけど……」


 一体どう言う仕組みで……


「シャー!」「シャー!」

「シャー!」


 その時、僕たちが立っていた通路の両側の壁にまた隙間が生まれ、再び巨大な蜘蛛が出てきた。今度は黒いのが2匹。そして僕が先ほど襲われていた隙間からも白い蜘蛛も奥の隙間から顔を出してきた。


「やばい、隠れて!」


 慌てて僕の背中に幼女を隠す。いくら何でも3匹はマズイだろう。僕は平気でもこの子が危ない。


「大丈夫」


 幼女は僕の手をゆっくりと払いのけ僕の前に進み出る。


「ここからは主様の仕事。頑張って」

「え?」


 女の子が突然光に包まれ……


 カシャン!


 たたいま僕の目の前にいたはずの全裸の女の子が忽然と消え、目の前には見覚えのあるショートソードが転がっていた?


「え、え、えええ?」


 ……僕はこうして全裸の幼女(ショートソード)を手に入れた。



 フフ! 前回の予告はこれを見越して(仮)をつけていたのだ! はい、すみません。単にプロットの詰めが甘かったんです。原稿用紙10枚前後では収まりきらない話を詰め込んでいました。反省しています。またやっちゃうと思いますが……


 幼女が突然、ショートソードに? 蜘蛛に襲われたシャルルの運命は!

 次回、「僕はこうして冒険者となった」 (仮)無し!


 今度こそシャルルは冒険者になれるのか?

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