気ままな生活
住めば都
そんな言葉がある
最初は絶対いやだろ、と思って紹介された物件、川の近くのボロい一軒家に俺は住んでいる
これが意外と住み心地がよかったのだ
屋根裏の奥は暖かいし、風も入ってこない
そして、雨が降ってもしみ込んでこないのだ
川からは近いし、えさの木の実なんかも近くにある
「ここはめちゃ住みやすいな、ここにして正解だったぜ」
俺はうれしくてたまらなくなり、ニヤニヤしながら寝転がった
何より、他のハトと一緒に住まなくていい
俺にとっての天国はここだったんだ
羽を全開にひろげ、少し居眠りした
気が付いたら昼になっていた
「くっあ・・・そろそろ狩りに行くか」
そう言って、羽を広げ、住処から飛び立った
上空20メーターくらいのところまで飛翔し、ゆっくり旋回しながら周りを見渡す
マンションの立ち並ぶ住宅街、川、橋をまたいでまた住宅街、広めの公園、そんな景色が見える
「さって、何喰お、木の実は朝食ったし、昆虫でも探すか」
そう思い、目に力を入れた
すると、眼球が望遠鏡のような働きをし、どんどん陸の上をズームアップで映していく
俺は公園の木々が生えてる部分に注目した
葉っぱが生い茂っている
「あの辺だな」
俺は羽を寝かせ、ヒュウンっと止まり木まで滑空した
ガカッと勢いよく木の枝につかまる
そして木の上の葉っぱ、床から生えてる植物に目を凝らした
少しでも動くものがあればそれがエサだ
葉っぱ一枚一枚に目を走らせる
こういうときは俺は無心になれる
騒音とかも耳に入らないし、一種の集中状態ってやつだ
「さあ、こいこいこい」
と念じながらエサを探す
近頃、こういう狩りをさぼってるやからが結構いる
特に都会のハトには多い
ニンゲンからもらうエサに満足して全く狩りをしない
正直、そんなもらったエサってうまいか?と俺は思う
それでありえないくらいにデブになったハトを街中で見かけたことがあるが、あれはねーぜ
そして、カサ、と動く
エサの気配がした
「まて、飛びつくなよ、風だったらめちゃかっこ悪いぜ」
そう思い、じっくりその動いた箇所を凝視する
カサ・・・とカタツムリが顔を出した
「あ、ちっす」
とカタツムリは声をかけてきた
瞬間、俺は全力で体を動かし、爪でカタツムリをキャッチした
「あ、やっぱり」
カタツムリはそんなことを言っていたが、俺は聞く耳もたず、家まで飛んで行った
ヒューンと帰ってカタツムリを食す
「うーん、とろとろしててジューシーだな」
カタツムリは柔らかくてうまい
俺はこのごちそうを一瞬で平らげた
「狩りをしなきゃ味わえないもんだな、せっかく体があるのに、狩りをしないやつの気持ちがわからないぜ」
そう言って満腹感に浸り、また寝ころんだ
まだ3時である
体がなまってきたな、いったん外に出るか
そう思い俺は外に出た
適当な電線を見つけて、そこに止まる
俺はこうやってボーっとするのが好きだ
他の鳥たちが群れをなして、狩りをしているのを見ながら
「みんな忙しいなあ、あれで連携乱したら先輩にすげー怒られるんだろうな」
とか好き勝手思う
そして、今の境遇がいかに素晴らしいものかを実感するのだ
群れをなさず、好き勝手に狩りをし、好き勝手に生きる
こんな素晴らしいものはない
他の鳥の縄張りにさえ手を出さなければ、ケガをすることもないし
川の近くでエサをばらまくババアがいた
みな、そのことを知っているのか、群れをなしてそのエサに食らいついていた
「ありゃ、みっともねえなあ、あんなんだから狩りの仕方を忘れちまうんだ」
そう思って眺めていた
そんなことをしている内に夕方になった
学生がキャッキャしながら帰ってくる
「うおー、ドドドド」
とか意味不明なことを言いながら帰っている
あれはたぶん小学生だな
笛を吹きながら帰ってる子どももいる
たぶん授業で習ったんだろう
俺はそんな景色を眺め、満足して巣に帰って行った
帰った先に、この前の紹介屋がいた
「お待ちしておりました、先日の件で、そろそろ行動に移す時が来ました」
あー、しまった
忘れてた、というか、そんな面倒なことが残ってたな
と思い
「そういえば、そうでしたね 一体俺はどうすればいいんですかね?」
と聞いた
「まずは明日の集会に参加してください、場所は○○公園 時間は早朝です かならず、参加のほう、お願いしますね」
と言い残し帰って行った
翌日、仕方なく俺はその集会の場所までやってきた
そこには20羽近くのハトが集まっていた
「セイシクニ、セイシクニ」
と頭の悪そうなハトがなんか言っている
「静粛にだろ」
と一人突っ込みを入れたが、リーダーと思われるハトがバッサと飛び立ち、ベンチの背もたれにとまった
「皆の衆、よく集まってくれた」
やっぱこいつがリーダーか、なかなか言葉遣いもはっきりしてるし、戦えるだけの筋肉も持っていやがる
そんなことを思い、言葉に耳をむけた
「今日、我々ドバト連盟は、キジバト連盟の住処である○○マンションに攻撃を仕掛ける」
みな、バサバサーっと拍手した
「静粛に!これより作戦を発表する!」