俺はハト
古来より人間は鳩とともに生活をしてきた
その歴史は数千年も前から始まり、人間が建造物を作り、生活を始めたところまでさかのぼる
それから鳩と人間の関係は続く
街の中で見かけるハトは平和の象徴として愛され、また、手品のタネや、鳩レースで人々を楽しませた
しかし、近年公害としての被害のほうが注目され、鳩の生きにくい時代が始まろうとしていた
そんな時代にたくましく生きる一羽の鳩の物語である
俺はいわゆるハトってやつだ
ニンゲンのやつらの住むマンションをねぐらにしている
近頃どうも人気がない
昔はハトは平和の象徴だ、とか何とか言ってチヤホヤしてきたくせに
ニンゲンにとって俺たちはアイドルだったはずだ
それが今はどうした
昨日せっかくいいねぐらを見つけたと思ってマンションの8階のベランダにやってきたら突然そこにいたババアが騒ぎ立てて、布団をたたく棒で追っ払って来やがった
俺は慌ててそこから飛び立ち難を逃れたってわけだ
むかついたから頭の上にフンを落としてやったがな
あのババアの慌てぶりは最高だったぜ
そんなことを思いながら、俺は近くのマンションを見つけて羽ばたいた
ベランダに近づいて、足をのばし止まる
「お、ここなら誰もいなさそうだな」
マンションの6階のベランダの一室
もう少し高いほうが外敵に襲われる心配もないし、眺めもいいんだが、と思ったが、ここは仕方がない
他の鳩にケンカ売ると結構痛い目見るし
俺はそこにねぐらを作ろうと決め、材料を取りに羽ばたこうとした
だが、3回くらい羽ばたいて思わずやめてしまった
振り向いた先の室外機の中に小さいヒナがいたからだ
「おじちゃん、ここ、僕の家だよ」
ヒナはそんなことを言ってきた
「おじちゃんって、そんな風に見えるか?ちょっとショックだぜ」
「早く出てかないと、僕のお父さんが来るよ?そしたら、おじちゃん、どうなるかなあ」
全くかわいくないガキだ
「わかったよ、間違えてきちまっただけだから、じゃあな」
そう言って飛び立とうとした時、上からものすごいスピードで親の鳩がやってきた
こちらに気付いてやってきたのだ
人を殺しかねない権幕だ
思いっきり羽を寝かして、猛スピードで突っ込んでくる
「お、おっさん、落ち着けって!話せばわか・・・」
そう言い切らないうちにタックルを食らった
そしてバサバサバサっと羽による攻撃を食らいまくる
俺は慌ててその巣から飛び立った
「いってえ・・・」
顔に思いっきりアザができた
・・・気がする
結局、巣を探すのをあきらめて近くの電線に止まる
「俺が言うのもアレだけど、ハトの縄張り意識半端ねーな しかも子持ちはやばいよな」
もし彼らのテリトリーを犯したら、今見たく手痛い目に合う
「油断した・・・」
テンションがた落ちし、ふて寝しようと目をつぶったその時だった
「お住まいをお探しで?」
隣から声がした
「ん?誰?」
俺は間抜けな声で聞き返した
そこには一羽のハトがいた
俺と全く同じ種類のドバトだ
「お住まいをお探しのようでしたので」
どうやらこいつ、さっきの一部始終を見ていたらしい
俺は恥ずかしくなって思わずうつむいてしまった
そして、小声で
「まあ・・・」
と言った
すると、相手のハトは少しこちらに近づき、同じく小声でこんなことを言ってきた
「なんなら、私がおすすめの物件をお教えしますが?」
なんだと・・・
「悪いけど、あなた、何者ですか?」
俺は正直、こいつのことをうさん臭く思った
突然やってきて、住まいをあっせんする
そんな商売は聞いたこともなかった
ハトの不動産屋なんて初耳だ
「ここら辺は、マンションも大体占領されてますからね 一見いいところはみんな誰かしら住んでますよ
それより、低い建物でも意外と死角の多いところもあるんです そんな物件を私が案内差し上げますよ
新参のハトは結構私のところに頼ってくるんですよ?」
余計うさん臭い、と思ったが、これ以上ねぐらが見つからないと困るのはこっちだった
雨に降られれば体力も消耗するし、何より、俺たちハトはねぐらがあってなんぼだ
「わかったよ、物は試しだ あんたの紹介する物件を当たってみることにする だが、タダってわけじゃないんだろ?」
そこを先に聞いとかねばならない
「もちろん、条件はあります 今、この街で別の種類のハト同士の縄張り争いが激化しています そこであなたには我々ドバト連盟に加盟していただき、敵のキジバト連盟との闘いに参加してもらいたいのです」
なるほど、仲間を募って、より良質な物件の確保を狙おうというのか
しかし、キジバトにケンカを売るのか・・・
やつらも同じハト
縄張り意識の高さはハンパない
「同じハト同士で仲良くできないものなんですかね?」
俺は聞いてみた
「彼らも数がなかなか減らなくて、同種で争いがないだけまだましかもしれません」
うーん、どうしようか
俺はしばらく考えた
これは、どうなるんだろうw