09/02[羊 佳世]校舎 15:43- 1
校舎を入ったわたしは、二階への階段を駆け上がった。
別に急ぐわけではないけれど、踊り場にある鏡には怖い逸話がある。
怖いから、なるたけ目をやらないように一気に上った。
廊下を歩きながら息を整える。
今日は部活もすべてないみたいだ。
学校はしんと静まり返っている。
先生たちも、もう帰ったの?
二年生の教室は二階にある。
一年生のときは三階まで登ってたから、二年生になって少し楽になったなあ。
階段から数えて、いち、にい。
この二番目に階段に近い教室が、二年二組。
毎朝通って、勉強したりお昼を食べたりする教室。
まだ太陽が高く出ているので、電気をつけなくても教室の中は良く見えた。
暗い緑色の黒板は毎日、日直さんが拭き掃除してるけどチョークの粉が薄い靄のように白く残っている。
教室後方の壁には、みんなの鞄を入れるための棚が均等な四角を保っている。
置き勉してるらしく、机の中に教科書やノートが入れっぱなしの机がパラパラある。
わたしの机は窓際の、黒板から見て三番目にある。
日当たりが良くてぽかぽかする、良い席。
もうすぐ席替えがあるから、この席ともお別れだと思うと少しさみしい。
入り口から自分の席へ歩く。
机へ指先が触れる寸前で、床が、というか、教室が激しく揺れた。
床が近づいてくる。
「えっ!?」
一瞬、床が斜めになったのかと錯覚したけれど、それは違った。
激しい揺れにわたしが立っていられなくなっただけだ。
受身も取れずに、床で側頭部を打った。
下の階から響く、低く大きな爆発音がわたしの耳を支配する。
自分の声すらよく聞こえないほど大きな音だった。
一階で何かが爆発した?
「痛い!」
机と椅子が二セット、わたしの上に倒れてきた。
重い!
運悪く、めいっぱい置き勉している机が、わたしの上へ乗ったみたいだ。
寮は、寮は大丈夫?
陽菜ちゃんは?
なんとか身体を起こそうとするが、机が重くて中々起きれない。
なんとか抜け出さなきゃ!
陽菜ちゃんがもっと大変な状況だったらと思うと、胸がぎゅっと苦しくなった。
早く、早くしないと!
もがくわたしにダメ押しにもう一脚椅子が倒れて、金属の椅子の足が頭を強く打ち付けた。