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「白鳥」
寮長さんの深いため息が、顔を上げたあたしの額にかかった。
「常識で考えろ。
どうしてだか、わかるはず」
「でも……」
なおも食い下がろうとするあたしの声を、寮長さんは有無を言わせぬ、高圧的で迫力のある声で遮った。
「すでに避難指示が出ている。
いいか、白鳥、団体行動を乱すな。
お前一人の勝手な行動が、全体の統率の乱れにつながるかもしれない」
騒ぎを聞きつけて集まっていた中の一人が、おずおずと手を挙げた。
「あのう、避難って、どこへ?」
「ここからそう遠くない、石鳩教会及び附属学校の関連施設へだ。
この中にも、行ったことのある者もいるだろう」
石鳩教会について、あたしは近くにある学校の敷地内にある教会、くらいにしか認識していなかった。
周りを眺めながら耳を澄ませてみると、「行ったことある」とか「知ってる」などという声がちらほらと聞き取れる。
石鳩教会へは、おそらく徒歩で三十分以内。
こっそり行き来できそうな距離ではあるけど、その間佳世ちゃんは爆発の起きた学校に一人。
今、怪我をして血を流していたりしたら、命に関わるかもしれない。
もし無傷でも、避難してからこっそり行ったのではすれ違いになるかもしれない。
もちろん佳世ちゃんはあたしたちがどこへ避難したか知らないわけで、石鳩教会まで佳世ちゃんがくる確率はとても低そうだ。
寮長さんや副寮長さんたちの指示に合わせて、みんな必要な物を取りに一度部屋に戻った。
あたしもリュックに荷物を詰め込む。
素直に避難する気はしないけど、佳世ちゃんを探すにも準備は必要だし。
これから集団で石鳩教会へ行くことになる。
寮生は多いから、寮長さんの目を盗んで佳世ちゃんを探しに行くこともできるだろう。
一分一秒も惜しかったけど、あたしは十分後の集合時間に備えた。