09/02[羊 佳世] 通学路 15:20- 1
「見て! ロケット雲!」
わたしの隣を歩く陽菜ちゃんが、砂色のおさげを揺らしながら真っ青な空を指差した。
細い指が指し示す先に、上空へ向けてまっすぐ白い雲が伸びていた。
未だ夏の暑さの続く九月のはじめ。
今日は良く晴れていて、時折サッと建物や生徒たちの間に吹く風が滲み出る汗を拭ってくれるみたいで、気持ちが良い。
わたしは陽菜ちゃんの見つめるロケット雲を、陽菜ちゃんと同じように見上げた。
太陽光が目に染みるので、手で庇を作る。
「あのロケット、どこに行くんだろうね?」
他愛のない言葉を返す。
「きっと太陽系の中のどこかだよ。
宇宙旅行と言えば、サテライトステーションや月や火星がメジャーだから」
陽菜ちゃんもまた、他愛のない返事をした。
「もし火星行きなら、るうちゃんが乗ってるかも!」
「えっ」陽菜ちゃんが校舎の時計を見ようと振り返った。
柔らかい猫っ毛のおさげが、わたしの鼻先を掠める。
フローラル系のシャンプーの香りがした。
陽菜ちゃん、いつも良い匂いするなあ。
「佳世ちゃん、もしかしたら、本当にるうちゃんが乗ってたかもしれないよ!
ちょうどるうちゃんの言ってた発射時刻と同じくらい!」
陽菜ちゃんにブラウスの肩部分を、つんつん引っ張られた。
わたしも振り返って、校舎にかかる時計を確認する。
午後三時二十分。
「ほんとだ! あーあ、手を振ればよかったなあ」
「ふふ、佳世ちゃん、雲に手を振っても意味ないよぉ」
陽菜ちゃんが口元へ手を当てて、クスクスと笑った。