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第89話 血

「死ね」


 幸彦が、隼人に向かって握りしめたナイフを向け、刺そうとした。


 通常時の隼人ならば、心配はなかったのかもしれない。

 相手が成人男性であろうと、不意打ちであろうと、所詮は素人の攻撃など、数々の修羅場を潜り抜けた隼人ならば、易々といなしていたであろう。


 しかし、隼人は動けなかった。


 まず、場所的にドアのふちにいたことで身動きが取れず、後ろに硬直したミカがいるためにかわすことも出来ないこと等、色々な要素が重なって動くことが出来なかった。


 何とかしようとする前に、正確過ぎる程正確な角度で隼人の胸へとナイフの切っ先が襲う。


「……っ……」


 これまでか……と、隼人が諦め、目を瞑った。


 ブシャリ……


 肉の切れた音と生暖かい独特の液体が、隼人に飛び散った。

 けれど、痛みは襲ってこない。


「……?」


 隼人は不自然に思い、恐る恐る目を開けると……


「……茜!?……」


 茜が間一髪のところで隼人に向かう筈だった刃を手で握りしめ止めていた。

 ポタポタと、茜の両手から血が溢れ、下へと落ちている。


「あ……あぁ……違う……違うんだ……僕は……玲二さん……玲二さん……」


 溢れる血を見、状況を理解した幸彦は、茜の父の名前を呼びながらナイフを落とし、頭を抱えて錯乱している。

 まるで、茜を玲二だと思っているかのように……


「……幸彦……さん……落ち着いて……ください。っ……!私は父さんじゃないです」


「やだ……玲二さん……ごめんなさい……役立ずでごめんなさい……嫌わないで……捨てなで……」


 涙を流し、錯乱している幸彦をなんとか正気に戻そうと茜はするが、何も聞こえていないのか、幸彦はブツブツとそういうばかりである。


「茜!大丈夫か!?スゲー血が出てるじゃねーか!」


「赤城さんも落ち着いてください!」


 とは言いつつも、茜の両手の血は止まる気配がなく、ポタポタと流れるばかりである。

 傷は手のひらと指の第一関節と第2関節の間であり、手の痺れ具合からも神経がやられている可能性はある。


 隼人は自分のハンカチを破り、止血と応急措置を取り始める。


「ミカ!すぐに医者と警備員呼んでこい!」


「……え……えと……」


 急に呼ばれたミカは驚き、硬直が溶けない。

 何が起こったのかが分からず、どうすればいいのかも分からない。


 とりあえず、言われたことはやろうと決め、医者がいる場所と警備員を呼ぼうとしたが……


「まってください!」


 茜がそれにストップをかけた。


「……え?」


「ミカ!いいから医者と警備員呼んでこい!」


「ミカさん!少しまってください!」


 隼人と茜の意見が食い違い、パニックになるミカ。ただでさえ、何が起こっているのか余り理解していないのに、更に追い討ちをかける事態である。


 しかし、そんなミカを無視して二人は言い合いをし始める。


「ふざけんな!今すぐその凶悪犯を引き渡してお前の治療しないとダメだろうが!」


「私の傷は大丈夫です!それよりも……」


「何処が大丈夫だ!?ポタポタ血を流してるじゃねーか!?」


「大丈夫や!応急措置はしてくれたし、腕を伸ばすからなんのかなる」


 鬼のような殺気にも堪えず、茜は喰ってかかる。

 そして、少しの言い合いをし終わったあと、茜は落ちつかせるようにいった。


「この人が危ないのはそうかもしれませんが、警備員に渡す前に少し、話させてください」


 そういって、茜は幸彦へと近づいた。


「うちの父が原因ですか?」


手から血を滲ませ彼女はそういった。


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