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第85話 気をつけろ

拍手喝采をあびながら、茜はペコリと頭を下げて舞台からおりた。


「いや~素晴らしい」


「いい演奏でしたよ!」


そんな賛美を浴びながらも、茜はすでに精神的にヘトヘトであり、最低限の笑みを貼りつけることしか出来ていない。


「はぁ……ありがとうございます」


うわぁ……目がクルクルする。

吐き気がヤバイ、泣きたくなってくる。

気分の悪さに思わず倒れそうになった瞬間、ガシっと腕を捕まれて引っ張られた。


「素晴らしい演奏だったね」


鷹平が、ニコリと笑いながら茜を引っ張りあげ、無理矢理立たせた。鷹平に対して信用をしていない茜は、ギロリと睨みつけ、自力で体制をたてなおす。


「大丈夫です」


「……ほぉ……」


その眼光に関心し、その強い精神力に内心で賛美を送っていたが、突如、腕の中から茜が消えた。


「茜、大丈夫か?」


隼人が、茜を奪っていた。


「うん……顔近いからやめて」


小声ど軽く拒否された隼人は若干落ち込みながらも、茜を腕の中からは解放させずに強く肩をだき、少し茜は浮いていた。


「フハハ!まさか息子がこんな風に育つとはね……時の流れとは面白い……あぁ、私は君の結婚相手が誰だろうと、どうでもいいから好きにしなさい」


映画に出てくるような悪人、もしくは懐の大きい殿様みたいに笑い、妻を待たせているからと、茜たちを通り抜けていった。


「周りに気をつけろ……」


茜とすれ違う一瞬の瞬間、耳元で微かにポツリといった。

すぐに振り返ったが、すでに鷹平は人に囲まれており姿は見えなかった。


「どうした茜?」


「いえ……」


茜は隼人の方へと向き直り、なんでもないといった。

すこしの違和感を覚えた隼人だったが、特に気にせず、二人でバルコニーにでも行かないかと誘おうとしたのだが……


「如月さん……ちょっとお話いいかしら?」


横から唐突に声が聞こえ、その声の主はミカであった。

怒ってるのか笑っているのか、それとも悲しんでるのかは分からないがわ必死で無表情を作っているのが分かる。


「ここでなら……」


茜は了承し、隼人も自分の目の前ならばと気にしなかった。


「さっきの演奏……全然ダメね!リズムはバラバラだし、早さも必死すぎて不安定だし、最後は変なアレンジやってたし……なんだか可笑しかったわ!」


いきなりの駄目だしであった。

ミカは無表情を気取るが、それは若干崩れて少し興奮していた。


「(鷹平さんが気をつけろって言ってたのは、これのことだろうか?)」


そう茜は思ったが、直感的に何か違うなと思う。

ミカは口こそ悪いものの、害があるような感じではなく、例えるならば、好きなアニメは同じだがその実写は好きかどうかで違うような、そんな感じだと思う。


しかし、害がないと感じるのは茜と駄目出しをしている本人のミカだけで、他は単なる悪口にしか見えない。


「おい……」


パァァンン!!


隼人が止めようとした瞬間、大きなティンパニーの音が響き渡る。一瞬驚いてそちらを見やれば、どうやらオーケストラの人たちが音楽の佳境でならしたものらしい。


「なんだ……」


と、少しホッとした隼人だったが……


「キャア!」


女子の声が後ろで響いた。

その声が茜の声だとすぐに気づいて振り向けば、茜は倒れて、真っ赤になっていた。


「茜!大丈夫か!?」


一瞬、血かと思ったが、匂いをかぎ、よく見ればそれは赤ワインで、横には倒れたグラスが落ち、テーブルクロスと茜の白いドレスを真っ赤に染めていた。


「うぅ……隼人さ……ん……」


どうやら、テーブルの縁に頭を強く打ったみたいで、口をパクパクさせているが、言葉は殆ど出ず意識は若干危なかった。


「その子がやった!」


誰かが、指をさした。その方向には、ミカがいた。

しかしミカは真っ青な顔で違うと泣き叫ぶようにいう。


「違う……私は……!」


「私もみたわ!確か腕をつきだしていた」


「さっきまで、言い争っていたしな……」


ティンパニーの音で決定的な瞬間を見たものは少ないが、前後の状況を加えてミカが怪しいとなる。


「ち、違うの!……信じて、隼人!!」


ミカは涙を浮かべながら、隼人にすがった。

隼人も決定的な瞬間を見ていないうちの一人なために、判断がつかなかったが、そんなことよりも自分の腕の中にある存在を優先させることが先決だと判断した。


「隼人……お願い!信じて……」


ミカは隼人の裾を指で引っ張るが、その指を優しく外された。


「茜を別室に送るからどいてくれ」


隼人は自分の意見を出さず、早急に茜を抱きかかえ、固まったミカを通り抜けた。



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