第7話 この男は何処か可笑しい
途中までは普通です。
「こちらでございます」
料亭内に入り、薄化粧の浴衣をきている妙齢の女性に案内された和室の部屋は、二人で食うには大きくてきれいすぎる部屋だった。
日本のよさを取り入れた伝統的で奥ゆかしさがありながら、光の入れ加減や夕日の見える角度を完璧に綺麗と思わせる計算を施されている。
「いい部屋ですね」
ひねくれ者の茜でも、思わずそうもらした。
部屋まだ案内していた女性が上品に出ていった瞬間、中庭が見えるガラス扉の方へと行って、ペタリと引っ付いて夕日に見いっていた。
「綺麗....」
誰に呟いた訳でもなく、茜はポツリという。
池に写る、夕日の光や植物についている滴のキラキラに茜は興奮に近い思いでみていた。
「そんな風に言われたら嬉しいな」
隼人は嬉しく思う。
この部屋は『鳳凰の間』であり、一番格上の部屋である。隼人的には最早見慣れて、珍しくもない部屋だが、茜にとっては未知の領域だった。
「この部屋、よく予約できましたね」
茜は、小学生ながらも知識として、このような料亭には予約をするのが必要で、そして急にとることは極めて難しいということを知っているのだが....
「あぁ、これ俺の店だから」
何でも無いかのように、とんでもないことをサラリといった。
「まぁ、といっても親から貰ったもので、株の70%を....あー、とにかく所有権は俺ってことだ」
隼人としては、一応分かりやすく簡潔にいったつもりであったが、小学生の茜には余り理解出来なかった。
「取り合えず、座れよ」
「....うん」
隼人に促されて茜はトテトテと、座り心地のいい座布団に座り、目の前にある料理に目を奪われる。
「おぉー....!!」
旬の野菜や、給食では決して食べることの出来ない、脂ののった肉や、これまた食欲をそそる香りがするダシ等を見て、茜はここに来て初めて目を輝かせる。
「一応、鍋物なんだが....よかったか?」
少し不安げに頬をかいている隼人の方を瞬時に向いた。
「鍋、凄い大好物です!!ありがとうございます!」
茜は初めて隼人に感謝した。
「(頭の可笑しい軍団の頭の可笑しいリーダーとか思っていてすみません)」
心の中で茜は謝罪した。
これで問題なのは、茜の隼人にたいする認識は大体あっていることである。
「そうか!茜に喜んで貰えて嬉しいな!!早速食べみろ」
ニコニコと、茜の喜ぶ顔を見れて嬉しく思う隼人。
この時、仮に茜が嫌いだと答えていたら、この料亭が潰されていたのは別の話。
「はい、いただきま...うわぁあ!?」
早速食べようと、箸に手を伸ばそうとした茜であったが、いきなりの浮遊感に驚く。
「えっと....赤城さん、何をしているんですか?」
浮遊感の正体は赤城が、茜を自分の膝にヒョイっと、おいたからであった。
目が見開くとは、このことで、茜は隼人の行動の意味が分からず、ポカーンとしていた。
雰囲気がいきなり変わった訳でもない、極々自然に可笑しいとこなど何もないと…それすらも主張しない程にさっきと変わらない顔で言った。
「食べたいんだろ?口開けろ」
と、鍋の中からいい具合に煮ている野菜を箸でとり、冷ましてから茜の口元に運ぶ隼人。
「....(ジタバタ」
茜は本能で『ヤバイ』と感じとり、必死に手足を動かして、逃亡をこころみるが、ガッチリと片腕で固定され、抱き締められていい。
早い話、間接技を決め込まれているのだ。
「ハハハ、茜はお転婆だな~。野菜は嫌いだったか?」
優しく、爽やかを体現した笑顔でそういい、茜の本気の抵抗を素で受け流す。
隼人は、茜が抵抗をしているのは野菜が嫌いであるからだと、本気で思っている。
「いえ....白菜も好きです」
茜は、この腕からの脱出を諦めて、素直に食べることにした。
これ以上暴れても、打つ手がないと判断したのだ。
隼人が口元に近づけた白菜を食べて租借し、優しい味でありながら食材の味が効いているダシをすった白菜の味を噛み締めて、素直に美味しいとは認める。
「(何で普通の状況で普通に美味しく食べれないんだよ畜生....)」
「お、旨かったか!?」
ニコニコと、本気で可笑しいことなど何もないと思っている、隼人の笑顔に恐怖を覚えながら茜は嘆いた。
「(この男はやっぱり何処か可笑しい)」
茜は結構警戒心が強いんですけど、隼人は素で異常なことをするから、手遅れになります。