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第80話 前夜

「…………(あ、叩かれちゃった)」


 茜はジンジンと痛む頬を感じながら、自分が平手打ちされたことに気がつく。しかし、これといった感情はなく、ただポーっとしていた。


 そして、まぁ平手打ちされても仕方がないなとは思った。自分はこの手の感情を上手く伝えることが出来ない。子供であることもそうではあるが、根本的にこういうのが苦手なのだ。


 だから、まぁ頬の一つくらい叩かれても別にいいかと思っていたのだが……


「……う…うぅ…」


 叩いた筈のミカが一番傷ついた顔をしていた。


「なんで……なんでアンタなのよ!?なんでいつもアナタはそんな風にしているの!?なんで認めてくれないのよ……」


 涙を流してミカはそういった。

 色々な思いが溢れ、コンプレックスや苦しさが滲み出ていた。


「私は隼人が好きなの!なのに、なんでいい加減なアナタが……」


 まるで幼い子供を泣かせてしまったような気持ちを陥り、茜はどうしようかと困った。


 何かを言おうと思ったのだが……


「アンタなんか、私は認めない!」


 ミカは涙を流しながら、そう宣言し、部屋を出ていった。






「茜、入るぞ」


「入んないでくださーい」


 ガチャっと、赤城さんが入ってきた。入ってくんなって言ったじゃんかと思ったが、口には出さずに少し睨み付ける。


「その眼……どうしたんだ?」


 私のまぶたについているガーゼをみて赤城さんがいった。

 ミカさんに叩かれた時、どうやら爪がカスってしまったらしく、少し傷つき熱をもってしまっていたのだが、私は適当に誤魔化す。


「別に、少しぶつけただけですよ」


「成る程……ミカがやったのか……」


 この人に、人を信じるという事と、会話を成り立たせる大切さについて深く話し合いたいと思った。


「……モテる人は凄いですね」


 この妖怪サトリみたいな奴に誤魔化しは効かないのだと分かったので暗に肯定すると、赤城さんは後ろから抱き締めながら、大きな手で私の顔を自分に向けてきた。


「痛くないか?」


「この体制があらゆる意味で痛いですね」


「……」


 少し黙った後、赤城さんは椅子に座り、私を持ち上げて、自分の膝の上にのせた。まるで人形のように私はスッポリとおさまる。


「ミカさん……赤城さんのことが好きらしいですよ。よかったですね」


「あんまり意地悪いわないでくれ……」


「でも、幼馴染みなんでしょ?しかも可愛くて従順で、何より赤城さん本気で愛してるんですよ……」


 いっそ、もう結婚してしまえば……


 と、いいかけそうになった時、赤城さんのだきしめる力が強まった。後ろで抱き締めているので、どんな表情をしているのかは、分からないが、その力がまるで心中するかのようだった。


「茜……お前だけは……その言葉はいうな」


「はい、赤城さん」


 素直にそういえば、赤城さんの腕の力がスッと抜ける。何故かは分からないが、酷く冷や汗をかいてしまった。暖房の効きすぎだろう。


「茜……愛してる」


 何故、この人は私をここまで執着するのだろうか?こんな小学生に、しかも本当に愛しているのか疑問に思っている私を……


 赤城さんは凄い人だ。頭がよく、品があり、喧嘩もつよくて、カリスマ性も溢れている。何もかも満たされている彼が……


 私には、その愛は大きすぎる。胃もたれを起こしてしまうのだ。受け止めるほどの器がないにも関わらず、赤城さんはそれすらも関係がないとばかりに、いっそ潰れてしまえとばかりに私に与えてくるのだ。


「明日のパーティー……うまくいくといいですね」


 私は誤魔化すようにそうこぼした。


「そうだな」


 赤城さんは、私のまぶたに張り付けているガーゼごとキスをして微笑んだ。

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