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第79話 覚悟

 フォークがまるでボールのように丸まっていた。いったいどんな力のかけ方をしたら、そうなるのだろうかと茜はポカーンとした顔でみていた。


「すみません。フォークが少し弱かったらしいです」


 フォークが弱いって何だよと思いながらも、全員がそれをクチニ出来ない。それなりに固い筈のフォークが丸まり、ナイフはへし折られている。


「どうぞ、食事を続けましょう」


 その言葉で、シーンとなって停止していた食事が再開され、互いに何かを話して、時にはミカや沙羅に何かを話しかけたが、茜への糾弾はなく、時折チラッとみながらも話しかけることもなかった。


「え……あの……」


 ミカは何かを喋ろうとするが、その圧倒的な雰囲気に気圧されてしまい、上手く口が動かない。そんなミカの言葉に続く形で茜は隼人を呼んだ。


「あの……赤城さん?」


 クルリと茜の方をむいた隼人の表情は、よく分からないが、周りに対する苛立ちや、完全にフォロー出来ない立場。ここで無闇に騒ぎを起こせばもっと身動きが取れないことを理解して、はがゆく思ってるのは茜は理解した。


「大丈夫です……」


 ボソりと、隼人にだけ聞こえる声でそういった。


「しかし……」


 何かを言おうとした隼人を茜は目で制した。


 こんな事は慣れている。教師や親戚から、親を引き合いに出されて悪くいうのはよくあった。親がこんなんだから、子もこれなんだと言われたことは多々ある。


 決していい思いはしないが、茜はそこまで気にしない。


 近しい人にさえ、ちゃんと分かってくれる人にだけ分かってくれるなら、それでもう充分だからだ。それは大人のような達観で、子供のような純粋な気持ちだった。


「ありがとございます」


 茜は、消える声でそういった。しかし、隼人が聞き逃す筈がない。少しの困惑と嬉しさが滲み出て、口角が上がりそうな口許を手で隠す。


「今……」


「なんでもないですってば」


 茜はプイっと顔を背けて、何かを誤魔化すように食事のスピードを上げた。


 耳かほんのりと赤かった。


 そして、それを沙羅は微笑ましそうにみつめ


 ミカは恨めしそうにみていた。







「ふぅ~」


 保守派から不躾な視線を終始送られながらも、食事を終え、茜は自分の部屋へと戻ってベッドにダイブした。寝心地の良すぎるフワフワとしたベッドは上品な桃の香りがする。


 コンコン


 ドアを叩く音がした。

 沙羅か隼人かと最初は思った茜だが、隼人ならば問答無用で開けるだろろし、沙羅ならば煩くドンドンと叩くだろう。更に足音は女性特有のしずしずとした音だった。


 となれば必然と人は限ってくる。


「入っていいですよ。ミカさん」


 キィ……とドアが開かれる。


「なんで分かったの……」


「ただの臆病癖ですよ……お茶、入れるのでその椅子に座って下さい」


 茜が差した椅子にミカは素直に座った。茜は紅茶をティーカップにいれ、一緒に座る。


 ミカは砂糖を、茜は唐辛子を入れて飲んだ。


「あの……聞きたいことがある……の……」


「はい、どうぞ」


 茜の真っ赤になった紅茶を見て驚きながらも、ミカはいった。


「アンタは……どれだけ隼人さ……隼人を知ってるの?」


 隼人様といいかけたのを止め、まるで対等な存在のようにミカはいった。ミカは良家のお嬢様の為に、尊敬する人や目上の人には様つけするよう教育されているが、それでは茜には勝てないとミカは思っている。


「どれだけって、何ですか?」


「私は隼人や沙羅さんの幼馴染みなの。だから、アンタはどれだけ知ってるの?」


 睨みつけるように、ミカはそういった。自分の方が知っていると、アナタより私の方が長い間一緒にいる年月は大きいとでもいうかのように。


「さあ?」


 そして、茜はそれに対して興味がないようにアッサリとそういった。自分は赤城(あかぎ) 隼人(はやと)という人間をまったく知らない訳ではないものの、全てを理解している訳ではない。


 彼の好物は知っているが、一番好きな物はしらない。


 彼の苦手な人間はしっているが、嫌いな人間はしらない。


 彼の嫌がることは分かるが、地雷はよく分からない。


 そんな感じなのだ。


「私の方が……隼人を理解している。ずっとずっと……傍にいたの!アナタの知らない隼人を私は知ってる!だから………沙羅さんなら仕方がないって思ってたけど、もう私は妥協しない、アンタがそんなんなら……


 私は、私は絶対に隼人と結婚する!私は隼人の為に死ねる!


 アンタはその覚悟があるの!?」


 ミカはそう宣言した。隼人と結婚したいと、隼人と結ばれたいと。本気で大好きだと、ミカはそういった。そこまで、ミカは愛しているのだ。


 そして、お前にはその覚悟があるのかと聞かれた茜は……


「ないですよ?」


 まるで当たり前のように、何を言っているんだという風にそういったのだった。茜の答えを聞いたミカは顔を赤くし、目を見開いて手を振り上げた。


 バシィン!


「アンタのそういうとこが大嫌い!!」


 平手打ちの音が、部屋に響いた。

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