第77話 難しい人間関係
「ほら、行きましょ!茜ちゃん!」
沙羅は少し不安げに、しかし嬉しそうに茜の腕をひっぱる。その姿はさっきの冷たさはなく、いつもの少し不器用で純粋な女の子だ。
「え、あの……」
茜は流石にミカを気にして、足を止めたのだが、沙羅はハッとした顔をして、早口で弁解した。
「え?あぁ!!勢いで茜ちゃんっていったけど別にいいわよね!ね!?私に名前を呼ばれるなんて光栄なことなのよ。とても名誉あることなの!だから私は…………あ、えーとね、その……えーと……如月さん」
まったく検討違いな考えをだし、高飛車に言いながらも、目をキョロキョロと動かし、指を交差させて、終いには勝手に落ち込んで名字を呼び出した。
いや、問題はそこじゃない。
「(どうしよ……)いや、それはいいんだけど……」
「ちょっと!何ミカさんとなれなれしくしてるのよ!」
ミカはチャンスだとばかりに、茜を押しのけて、さりげなく様呼びから、さん付けに変えた。
「別にちゃん付けくらい、いいじゃない」
少しニヤケながら『あわよくばこれで好印象を与えたい』という気持ちが見え隠れしている。そして、その気持ちを茜は察したので、「ごめんなさい、朝生さんのいう通りですね」と、ミカを立てたのだが……
「ちょっと実花子さん、話に割り込まないでくれるかしら?」
何も察していない沙羅は冷たくミカにそういった。
「だって、その……ちゃん付けくらい、いいじゃないかと……」
「でも、それを決めるのは如月さんよね?なんで貴女が決めるのよ」
「それは……」
沙羅からすれば、勝手に会話に割り込んで来た邪魔者という印象でしかない。いうなれば、好きな人に告白してフラれた時に『ちょっとー!付き合ってあげなさいよ!』と割り込んでくる他人並みに苛立つのだ。
しかも、それで空気を読んだ好きな人が仕方なさそうに『う、うん』と言ってくる程の屈辱だ。
「……グスン……」
ミカは憧れの人に怒られたショックで涙目になる。涙を流すのは必死で堪えている。
「いや、私は本当に呼ばれかたに拘りはないですし、年齢的にもちゃん付け年齢ですし、それに私自身、肉呼ばわりしてるので、寧ろ私も茜のカネの部分をとってカネ虫と呼ばれるのもやぶさかではなく……」
流石に色々と哀れに思った茜は必死でミカのフォローをする。若干、言語崩壊を起こしているが、必死でミカをフォローする。
「じゃあ!あーちゃんって呼んでもいいのね!?」
「はい、もうそうです!」
目を輝かせて嬉しそうにピョンピョン跳ねる沙羅をみながら、もうどうにでもなれと、内心ヤケクソになってた。
「じゃあ、私のこともミカって呼んで下さい!」
どさくさに紛れて便乗しようとするミカ。
「は?なんでよ」
まったく空気を読まず、沙羅は疑問詞で拒否を示した。
「別に今更変える必要ないでしょ?面倒くさい」
サラと仲よくなりたいミカ。別に仲よくなりたくない沙羅。そんな二人の真ん中で必死でフォローして、仲介を勤める茜は、なんだか一番可哀想だった。
「食事会が始ま……」
来るのが遅い女性陣を迎えにきた隼人が目にしたのは、ピョンピョンと跳ねて「あーちゃん…初めてのアダ名かぁ……」と嬉しそうにしている沙羅と、裾で目を抑えながら、涙を必死で堪えているミカ。そして……
「疲れた……」
まるで人間関係のトラブルにあった、中管理職のサラリーマンみたいに疲労している茜の姿があった。
「おい、どうし……」
隼人は近くにいた茜に声をかけると、気づいた茜はガシっと隼人に抱きついた。
「……っ……!?」
突然のことに驚く隼人を無視して、茜は早口でいった。
「赤城さん来るの遅いです。大変やったんですよ!?なんですかこの濃い人たち!もうどういう関係なんですか!?っていうか、肉姉さんのキャラチェンジに恐怖を感じました……あぁ……
人間関係って難しい……」
小学生が決してださない、まるで女房、子供と上手くいってない父親のような台詞を茜はいった。
ミカ
沙羅に憧れている。沙羅なら隼人と結婚してもいい、というかそれを望んでた。なのに、いきなり表れた茜が大嫌い。
沙羅
ミカよりも茜と仲良くなりたい。そして、余り割り込んだりして欲しくないと思ってる。ミカのことは嫌いではないが、余り興味はない。
茜
二人とも、嫌いじゃないけど疲れる。




