第77話 肉姉さん登場
茜が一時的に赤城家に住むことになった。赤城本家は城のような大きさなので特に問題はなく、フランスに家を持っているミカもここに一時的に泊まることになっているらしい。
茜は取り合えず、幸彦にそんな説明をされながら部屋へと案内された。
「ここが、君の部屋だよ」
と、紹介されたのはドきついフリルに囲まれれた部屋だった。壁はピンク色で、更にフリルがある。テーブルや椅子にもフリルがあしらわれているし、ベッドなんて姫様が使うようなものだ。
「風呂とトイレとかも完備してるから」
ここはホテルなのだろうか。
「…………分かりました」
「うん、なんか……ごめんね」
流石の幸彦もこの部屋には色んな気持ちが沸いたのだが、それを押し込めて、取り合えず謝った。
「いえ」
茜が淡々と言えば、幸彦は苦笑して部屋から出ていった。
バタン……
「ふぅ……」
ポフン
茜はベッドに寝転がって息抜きをした。甘ったるい香りはきっとアロマだろう。ピーチかストロベリー辺りの匂いがするが、上品さが伺えるのは流石金持ちというとこだろうか。
と、茜が暇潰しに考察をしていると、いきなりドアがバン!バン!と叩かれた。
「開けなさい!美しい私が来てあげたわよ!とっても光栄なことなのよ!さぁ!開けなさい!!開けなさいってば!!」
「…………」
聞き覚えのある、体の一点が肉で出来ている人物を思いだし、茜は唖然としてしまった。何故ここにいるのだろうという疑問が頭で反復するのだが、その間にもドアは叩かれる。
「美しい私が来てるのよ!何で開けないの!?え、えーっと……もしかして、寝てるの?それともいないの?いないのよね?……無視、されてる訳じゃ……ないわよね?お、おーい」
ドンドン小さくなる声に、しまいにはクズり声が聞こえてきたので、茜は慌ててドアを開けた。
やはりというか、ドアの向こうにいたのはサラスタシア・ジョアンナ。日本名で沙羅という、胸の大きい金髪の外人だった。
沙羅は茜が出るとパァっと嬉しそうな顔をして、涙じんでいる目を擦った。
「……大丈夫ですか?」
「別に何の問題も……グズッ…ないわよ…」
目が若干赤く腫れていることに関しては深く関わらないようにし、これからは少し優しくしようと茜は思った。
「それにしても……何故、肉姉さんがいるんですか?」
茜の疑問に、沙羅は即座に答えた。
「今夜の食事会に呼ばれたのよ。婚約者じゃなくなっても、私は一国の王女だから、色々と赤城家とは会合や親睦も含めてって感じなの」
これでも沙羅は次期女王を約束された、政治的な意味でも重鎮であり、赤城家とは経済的にも政界的にも繋がりがあるのである。
赤城家の保守派があわよくば沙羅を婚約者に戻そうという動きがあるのも食事会がある理由かもしれない。
「その……色々と邪魔はいるみたいだけど……あ、茜ちゃんとご飯食べれるみたいだし……だから、呼んできてあげたのよ」
顔を赤らめながらも、生まれもっての女王気質であるが故に高圧的な態度だが、まるで初めて友達を作ろうとする子供のようで純粋さがにじみ出ている。
「……あ……「あ!サラ様!こんなところにいらしたのですね!」」
茜が返事をしようとしたら、ミカが後ろから駆け寄ってきた。
トコトコと走る姿は酷く可愛らしい。
「お姉様!いっしょに行きませんか?わたくし、サラ様と一緒に食事が出来ることになり、とても嬉しく存じます!」
茜のことなど目に入っていないとばかりにウキウキと喋る姿は、憧れの人と喋る乙女そのものであり、茜の敵対心の態度とは違い、とても好意的だった。
その反応にやや驚きながらも、沙羅の人柄や婚約者というのが無くなったから、さういうのもあるのかもと茜は思った。
「(肉姉さんも嬉しいだろうな……)」
と、茜は微笑ましく、まるで不器用で友達が出来ない娘をもつ親のような気持ちで見守っていたのだが……
「実花子さん、私は今、茜ちゃんと会話してるの邪魔しないでくださる?」
沙羅は、驚くほど冷たい態度だった。必死で喋ろうとするミカを丁寧な口調ながらも拒否を示していた。照れ隠しや不器用ゆえのものではなく、本心で面倒くさいという態度。いつもの沙羅を知ってる故に茜は驚きを隠せなかった。
「その……一緒にいってはダメですか?」
「なんで一緒にいく必要あるのよ』
普段の沙羅ならば言わないようなことをいって、『もうこれで話は終わりよね?』という態度をとっていた。
「そんな……」
ミカは沙羅の右左にいた茜をキッと睨んで『またお前か』と目で語っていた。
因みに沙羅とミカと隼人は幼馴染みです。




