第74話 顔だけ
隼人に強く抱き締められ、内蔵が潰れる感覚に見舞われて意識を飛ばした後、茜は執務室みたいな部屋で目覚めた。
ここは一体何処なのだろうと、そして何回自分は気絶しているんだよと思いながら辺りを見回していると……
「目覚めたんだねわアールグレイは好きかい?」
黒い髪をオールバックにし、髭を少し生やしている。妙齢ながらも、まだ若く……いや、年を重ねたからこそ溢れでる魅力を兼ね備えた、男性が微笑んでいた。
「はぁ、まぁ……嫌いではないです」
事態が飲み込めない茜は、取り合えずそう返事をすると、男性はニッコリと微笑んで入れた紅茶を茜に差し出した。
老若男女魅了する微笑みを浮かべられて、どうしていいのか分からず、ただジッと紅茶を見つめていたわ、
「フフ……飲んでいいんだよ?」
「はい」
疑問系にしながらも、飲めと促す男性に逆らうのは怖いので、茜はティーカップに口をつけた。
「(それにしても、ここは何処だろうか?)」
もはや、目覚めたら別の場所という事態に慣れきった茜は冷静に辺りを見回した。
シンプルで品のある、部屋は学校の応接室みたいな場所であり、仕事をするのだというのが分かる。まぁ、隼人の家だろうと判断し、危険がないかとは思う。
「(まぁ、気絶した後に悪党が乗り込んで拉致されたとかじゃなければですけどね)」
突拍子もない可能性が否定できないのが悲しいとこである。
「……なんですか?」
ふと、自分に向ける視線に気づいた茜が目線をむければ、男性は何かを含んだ笑みを浮かべて自分をみていた。
「ん~?綺麗なお顔をしてるなーって」
「ありがとうございます」
何故か褒められた気が全然しないのだが、それは自分がひねくれているだけだろうと結論を促して、ティーカップから口を離す。
「その顔だけで人生を得したって感じがスゴいするね。可愛くなくて綺麗なだけって長期的に見れば物凄く得だね。顔で色んなことが許されるってスゴいことだと思うよ」
「別に得なことだけじゃないですよ」
カチンときた茜はそう言い返した。なんで初対面の男にこんだけのことを言われなきゃならんのだという苛立ちが出る。
そもそも、綺麗な顔と言われるが、それなりにコンプレックスもあるのだ。
しかし、そんな心情を見透かしているのかいないのか、男性は『笑った』
「いや、得だろう。君がそんなに失礼な程警戒心剥き出しでも、綺麗な顔をしてるのならば、必要だと思う。これがブスなら単なる自意識過剰で笑える。
顔がいいというだけで、好かれることがあっただろう?周りから得別扱いを受けていただろう?
綺麗な顔のお陰でそのヨレヨレTシャツもある意味ファッションに見える。
君のお父さんである令二くんも、見た目が綺麗だからアレだけのことをしても格好よくみえるしね。
ぶっちゃけ私は君と隼人が結婚するかどうかには反対だったのだが、まぁ顔がいいなら別にいいやとさえ思ってる。うん、顔がいいからね。
私から見えば、君は顔の価値が大分あるよ。他の価値はしらないけどね。
ついでに言えば、それだけの価値があるのに、それを利用しない。被害者づらして、周りが勝手にやっているだけだと言ってるのは嫌いだ。
あぁ、でも中途半端に頭がよくて綺麗な顔があるから全体的には君は嫌いじゃないよ」
「…………(…………)……」
茜は絶句した。意味不明で結構失礼なことを喋る、そしてただよう変態臭がヤバイ。ハッキリと顔がいいから別にいいやという言葉も訳が分からない。
口でも心でも絶句していた時、男性はまたクスリと笑ってこういった。
「あぁ、もうすぐ君のライバルの子がくるから絶句している暇はないと思うよ」
その意味を深く考えようとする前に……
バタンと、ドアが開く音が聞こえた。誰か入ってきたのかと思って振り向けば、正統派美少女かいた。
姫カットされた髪に、クリクリとした目、しろいながらも赤い頬は健康的で、絵に書いたような可愛い美少女がいた。
「あ……えっと……」
突然の少女の状況に何を言えばいいのか分からず、口をあけ茜だったが、それより早く、少女が喋った。
「あなたが、如月 茜?」
何処か責めるような口調で、半分決めつけるようにそういった。茜がコクンと首を縦にふれば、少女はまるで勝ち誇ったように、されど怒りをもったようにこう言った。
「ふーん……綺麗っておだてられて調子にのってる、可愛くない子って感じね。あーあ、隼人が可哀想だわ」
まるで責めるように、自分の優位性を示すように言い放つ少女は俯いた茜を見て、自分の勝利を確信した。
しかし、茜は顔をあげて冷静な諭すようにいった。
「まずは名前を名乗ってください。大丈夫です、この世界は怖くないです、どんなに非常識で可哀想でも落ち着いて冷静に深呼吸をしてください。まぁ、何が言いたいかといいますと……
頭、大丈夫ですか?……あぁ、大丈夫じゃないんですね。可哀想に……」
指で頭をつつき、真面目な顔と声で最大限に相手をバカにした。如月 茜 は単なる罵倒で泣くほど弱くもなければ、黙ってるほど優しくもない。
「(散々、人のコンプレックスいいやがって……)」
そして、自分が本当に気にしている部分を言われ続けて穏便に済ませるほど、彼女は大人ではなのだ。
そういえば婚約者の名前を作ってません。どないしよ……




