第72話 なんだこれ
なんだか、スゴいフワフワしてて、無重力のような、まるで海の中に溺れたような感覚に見舞われながら、きっと私は眠っていたと思う。
「う……んんっ……痛い」
ズキズキと痛む頭を押さえながら、私は目が覚めた。お菓子のような、花のような甘ったるい匂いがたちこめていた。
あまり私の好きではなく、不快で胸がムカムカとくる匂いは母が好みそうな香りだなと思いながら周りを見渡せば、見たことのない風景があった。
「なに……ここ」
一言でいえば、乙女チックで小学校の低学年の金持ちのお嬢様が好みそうな、可愛いを無理矢理に詰め込んだ、フリルやリボンをふんだんに使った部屋だった。
私が寝ていたのは、ザ・プリンセスが寝るような大きいベッドで、物凄いフワフワした素材だった。
何だコレ……と、私が呆然としていると……
「ウフフ……目が覚めた?」
ゆるふわっとした髪をした、少女ふうの女性が座っていた。白と青を基調とした、エプロンドレスを着ている。
少女っぽいが、どこか気品にあふれており、若いといえば聞こえはいいが、どこか子供っぽく、無邪気そうといえば聞こえはいいが、笑顔で人を殺すことを何とも思っていない……
そんな……少し危なげそうな、母と同じ系統の『可愛い』人だった。
「えっと……こんにちわ」
「こんにちわ。はーちゃんが言う通り、本当に綺麗な子ねぇ~……こんな娘、欲しかったのよ~」
カラコロと笑いながら、紅茶を飲む彼女は、まさしく不思議の国のアリスだ。甘ったるい匂いとまだフワフワとする頭も合間って、もう本当に不思議の国に迷い混んだんじゃねーのかと思ってきた。
「あの……はーちゃんって?」
「隼人のことよ~」
「あぁ、なるほど……赤城さんですか……えぇーっとここは?」
「私の部屋よ~」
「あぁ、なーる……」
いや、意味わからん。いや、どういうこと?なんじゃそりゃ?は?え?どういうこと?
昨日の記憶を必死でかき集めてみよう……うん、死にたい。
とてつもなく恥ずかしいことをしたというのは、覚えているけど、酔って、赤城さんに謝って……それ以上思い出せない。何があったんだ。
「ねぇ!日本の法律を変えるのと5年まつの、どっちが早いかしら?父様なら出来ると思うのだけれど、もう隠居した人に頼むのは……どうかしらウフフ?」
「アハハ……」
アハハじゃねーよ。何だこの状況?なんだコレ?頭はお豆腐だし体はコンニャクでヘロヘロパーだ。
どうしよ、コレが夢なら今すぐ現実で寝ている私の口の中にハバネロを誰か突っ込んでくださいウフフ……
「目が覚めたか?茜」
本格的に現実逃避を行いかけていたら、赤城さんがドアを開いて表れてくれた。よかった。何も事態は変わってないけど、とにかくよかったぁ……
「茜は神社と教会、どっちがいいんだ?」
なにもよくなかった。
「ちょっと本当に待ってください!もう、何がなんだか分からないんですけど!?これ一体なんなんですか?この空間、頭可笑しくなりそうだし、なにいってるかもよく分からないんですけど……」
コメカミを押さえながら、私が質問すれば赤城さんはキョトンとした顔でいった。
「ん?俺たち結婚するんだろ?」
少し照れながら、しかしそれが決定事項だとばかりな雰囲気をもつ赤城さんのせいで、頭がパニクる。
「は!?なにいって……」
「今、親父がいねーから、取り合えずはお袋に紹介しようと思ってな」
「本当に待ってくださ……え?お袋?」
お袋?お母さんのことだろうか?古風な呼び方だな~とか、考えていたら……
「どうも~はーちゃんの母の花梨よ~」
例のアリス風の女性が手をヒラヒラさせてそういった。
「……」
最早、私は声が出ないほど絶句した。
母さん……若すぎだろ……




