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第70話 会いたい

 茜は外に出たのはいいが、顔は赤いし喉はヒリヒリする。しかも涙は止まらないことに苛立っていた。


「どうしよ……涙も止まんないし、頭はポー…っとするし…」


 茜はもしかしてこのまま死ぬのではないかという突拍子のないことまで考え初めてしまった。普段の冷静な彼女ならば、それはちがうと思うがわ酔って冷静さを失ってしまった茜は、本気で死んでしまうのだと思っていた。


「せめて、最後は赤城さんの声が聞きたい……」


 混乱に混乱を極めた茜は、自分が死ぬことを前提として考え始めだし、最後に隼人の声を聞きたくなって、リュックからスマホを取り出す。


 通話機能を使い、電話帳に赤城さんと表示されているのをつたない指で押した。


 プルル……プルル……


 とシンプルなベルが鳴る。何時もならワンコールで出るのだが、中々出てくれない。やはり、怒っているのかと思って諦めかけたとき……


 ピッと、電話に出る音がした。


『もしもし?水城だけど』


「赤城さんに変わってもらえますか?」


 隼人ではない水城が出たので、茜は少し震えながらも必死で敬語をだして、そういった。


『隼人……電話だよ』


『そんなもん切っとけ、俺は仕事で忙しい。どうせくだらない事だろ』


 隼人は冷徹にそう言い放つ声が聞こえ、茜の涙腺は決壊した。いつもは砂糖のような甘ったるい声しか聞いたことの無かった茜は、酔った影響もあり、半狂乱になる。


「ウワァ~ん!!くだらない事って、らんれすか~!?」


 呂律の回っていない言葉で茜は泣きじゃくりながらそう言えば、外からは唖然とした無言が響いた。


『………』


 それすらも恐怖となっている茜は更に続ける。


「わかっれましゅよ~!わたしが悪いんれす!」


『茜…酔ってるのか?』


 いつもの優しく、砂糖のような優しい声が、電話越しに聞こえるが、それすらも茜が泣く理由となってしまう。


「酔っれませーん!!……本当にごめんらさ~い!!らから…嫌わらいで…ヒック…うぇ~ん…ッグズ…あやまるからぁ…頭痛い…



 …会いたい」


 ブッ……


 言い終わると通話が切れた。何故だろうと思ってスマホを見れば、涙のせいでビジョビショになりシャウトしてしまったらしい。


「……」


 そこで、一旦茜は少しこ冷静さを取り戻す。


「……水……飲もう」


 茜は公園にいって、蛇口をひねって水を出して、ゴクゴクゴクと飲み干す。ついでに顔にも冷水を当てた後、ハンカチで顔をふいてベンチに座る。


「…………じにだい……!」


 唐突に恥ずかしさが込み上げ、ハンカチに顔を当てながら私は足をパタパタと動かして、羞恥との戦いが始まる。


 酔った勢いとはいえ、あんなことを言ってしまうなんて、どんだけバカなんだろうか、というか小学生の分際で酒ってヤバイだろ。


 流石の赤城さんも困ったに違いない。別れた女から会いたいなんて都合が良すぎるし、なにより会えるわけないだろう。


「もう…赤城さんに会うのはやめよう」


「それは困る」


 聞き覚えのありすぎる声が後ろから聞こえた。いや、でも、ありえない。


 だって、私はもう別れた仲で……って、それ以前に物理的に有り得ない、さっき電話してから5分もたってないのだから、これで本人なら最早その人は人間止めてる……


「……会いに来た」


 でも、聞き間違えることの無いこの声はまさしく、私が聞きたかった声で間違いなかった。


「来るの、速すぎなんですよ」


 まだ、気まずさやら恥ずかしさやらでそんな憎まれ口を叩いてしまいながら、私は後ろを振り返ればやはり赤城さんがいた。


「せめて、涙が乾くまで待ってくださいよ」


 チラリと赤城さんの方を見つめれば、赤城さんは苦笑しながら笑った。


「そりゃあ、悪かった。でもな……涙が乾くまでに会えてよかった」


 赤城さんは私の身長に会わせてかがみ、そして自分の上着で私の涙をぬぐった。少し固いけど、とても優しく拭ってくれる優しさが暖かかった。



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