第68話 その頃の隼人
聖火学園の、生徒会室。ここは、会長や特権をもつ生徒のみが使える場所であり、生徒会の実務をこなす場所である。
生徒会は絶大な権力を誇り、条件さえ整えば、もしくは上手く使えば理事会とも渡り合える力をもつが、それ故に仕事は多岐にわたる。とは言っても、上手く役割分担をしているので、自分から仕事を取るか、もしくは怠けすぎてない限りは激務にならないのだが……
「大丈夫かい?」
水城は書類に埋もれている隼人にそう問いかけた。
周りにある大量の資料とプリントやファイルに目を通し、左手はキーボード、右手はペンをもって動かしている。
「大丈夫だ。問題ない」
隼人は端末てきにそういって、また動かしていた。
水城は、生徒会で仕事をしていた。仕事といっても、単なる計算であり、すぐに終わるものだったのだが、いきなり隼人が表れた。
来たかと思ったら、いきなり生徒会の全ての仕事をしはじめて、予算整備やら目安箱やらと多岐に渡る全ての仕事をしはじめだしたのである。
既に自分の仕事は終わったが、尊敬であり心酔の対象である隼人が仕事をしているならばと、水城も仕事を手伝っている。
ストレス発散モードの隼人には及ばないが、水城も優秀なので早いスピードで仕事を終らせている。
「……なにか、あったのかい?」
水城は、資料に目を通しながら隼人に質問した。隼人は相当なストレスをもつと、異常なほど暴れまくるか、仕事をするかのどっちかであるからだ。
隼人は少しだけ動きを止め……
「茜と……別れた」
水城にとって、衝撃的なことをそういったのだ。
「え?」
水城がどういうことだと聞く前に、隼人はまた専念した。どうやら、聞かれたくは無いらしい。
気になることではある。水城からしたら、隼人の茜への溺愛っぷりは勿論、茜が隼人をそれなりに思っているのは知っているので、それなりに衝撃的なことであったが、隼人が聞かれたくないならば、聞かない方がいいだろう。
「(すれ違いかケンカでしょうか…)」
水城はそんなところだろうと、推測する。隼人の独占欲の強さを考え、その辺の絡みでケンカをしたのだろうか。
「(まったく、あの小娘は大人しく隼人に愛されていればいいのに。いっそのこと、四肢を切断してしまったらどうでしょう?)」
冗談半分で考えたが、いいかもしれないと水城は思った。
四肢を切断し、人がいないと何も出来ない体にし、生活の全てを自分が支える。精神がやられる可能性はあるが、隼人ならば、喜んでするだろう。
醜いかもしれないがこの間、隼人は茜の顔面が抉れても、その肉塊ごと愛せるといっていたので、問題はないだろう。
「(……仮に隼人が嫌だったとしたら、私が面倒見れば良いわけですしね…)」
腕のいい外科手術の先生や、介護の知識を反復。かなりアウトゾーンなことを考えていたら、着信音がなった。
何処の携帯かと思えば、隼人の携帯で、画面には『茜』の文字がある。
しかし、隼人は仕事に集中しているのでそのことには気づいていない。
ッピ
「もしもし?水城だけど」
『赤城さんに変わってもらえますか?』
いつも通りの、冷静な敬語が耳に届く。少し震えているのはノイズのせいだろうか。
「隼人……電話だよ」
「そんなもん切っとけ、俺は仕事で忙しい。どうせくだらない事だろ」
隼人は冷徹にそう言い放つと……
『ウワァ~ん!!くだらない事って、らんれすか~!?』
聞き覚えのある声で、聞き覚えのない口調が響いた。
ようやく茜からの電話だと知り、隼人の時が止まる。
「………」
水城も唖然とした様子で携帯を持ち続ける。制止の空間がしはいするが、茜はそれを壊す。
『わかっれましゅよ~!わたしが悪いんれす!』
「茜…酔ってるのか?」
明らかに不安定な口調、時々聞こえるしゃっくり音がそれを物語っていた。
『酔っれませーん!!……本当にごめんらさ~い!!らから…嫌わらいで…ヒック…うぇ~ん…ッグズ…あやまるからぁ…頭痛い…』
完璧に酔っている。
「(一体、何故、どうして。茜が泣いている。疑問、どういうこと泣いてる嫌わないで?そんなでも泣いて悲しんで酔ってる急性アルコール中毒で死んでそれで消えてでも泣いて過呼吸の危険救急車いやもう恋人じゃない死ぬ死体でも良いいや死ぬなら泣いてる……)」
突然のことに、混乱し、色々な感情が渦巻き、ゴチャゴチャになっていた隼人だが……
『…会いたい』
この一言で全てを吹き飛ばした。
ブツっと、通話が切れた。
「水城、悪ぃが抜ける。後は任せた」
水城にそう言い残し、隼人は三階もある高さがあるにもかかわらず、窓から飛び降りていった。
何故、茜が酔っぱらってたのかは、次話で分かると思います!




