第66話 関西弁の男
「(これがどうしよかな……)」
茜は町をトボトボと歩きながら、これからのことを考えていた。隼人に別れを告げたということは、最早恋人ではない。
もう開き直ってしまおうかと考えていたとき……
茜の歩行を留めるかのように、黒いリムジンが止まった。すると、中から眼鏡をかけた男が表れる。
「君が茜くんかいな?」
関西弁っぽいものを言う男は、狐のような顔をしている美形で、いかにも怪しい感じの人だった。
年齢は20~25、つり目が特徴で、如何にも作り笑顔っぽそうな笑みを浮かべており、美形ではあるが、何処か胡散臭さが強烈に出ている男が、自分の名前を何故か知っている。
「(なんだか肉姉さんと同じようなパターンだな…)」
「で、君が茜くんよな?」
「違います。さよなら」
茜はサラリと嘘をついて、後ろへと翻して歩こうとしたが、男に肩を捕まれた。
「いやいや、君が茜くんやろ。如月 茜やろ?」
「いえいえ、私の名前は、女口月 西です。女に口に月で、じょぐちづき。西方面の西です」
ふざけたことをいいながら、茜はストラップ式の防犯ブザーを引っ張ろうと、手を伸ばしたが……
「ホンマに警戒心高いんやな~…でも、それは止めときや」
腕を捕まれてしまい、どうしようも出来なくなった。茜はスタンガンや、催涙スプレーも考えたが、リュックに詰め込んでいるので、どんなに早くても、丸め込まれてしまうだろう。
「まぁ、立ち話もなんやし……美味しい店でもいかへん?」
「横のファミレスにしましょう」
男のリムジンに乗るのは危ないし、仮に本当に店に連れていくだけだとしても、それが安全とは言えない。それならば、まだ一般人が多く、大声を上げれば助けてくれそうなファミレスがいいと考えた。
その意図を察してか、察してないのか…
「別にええけんど、君って、可愛くないってよく言われるやろ?」
「貴方は可哀想ってよく言われますよね?」
そんな下らない話をしながら、二人はファミレスに入った。普通に座って、適当に注文を頼んだ。
「で、貴方は誰ですか?」
「僕の名前は和人や」
「名字は?」
「まるで尋問にかけられてるみたいやなぁ……まぁええわ。伊集院やでよろしゅうな。 ええーと、西くん?でええの?」
「如月でいいですよ」
どうせ本名がバレてるんだろうと、ヤケクソ気味にいった。
「分かったで、茜くん」
イラッとした目で、伊集院さんを睨んだが、ニコニコと笑われるだけである。得体の知れない男に名前を呼ばれるのは、本当に不快だなと、胃がムカムカするのを抑える。
伊集院なんて、如何にも金持ちっぽそうで、何だかお嬢様っぽい名字だな~…もしかして妹とかがいたりして。と思った。
「伊集院なんて、如何にも金持ちっぽそうで、何だかお嬢様っぽい名字ですね。もしかして妹とかがいたりするんですか?」
なので口に出した。
「ん?フワフワしてる百合っぽい女の子なら従兄妹におるで?」
いるんだ。
「因みに僕は隼人くんの叔父みたいな……まぁ、親戚やねん」
あぁ、やっぱり赤城さん絡みか……。今度はなに?まさかコイツが婚約者とか言わないよね?
「単刀直入にいうな?」
「どうぞ」
「隼人と……別れろや」
彼は、キツネ目をクワッと開けて私を睨んでそういった。いつも思うけど、美形が本気で睨むと意外と怖い。
「お前みたいな庶民と、隼人が釣り合う筈がないねん。さっさと別れろや」
低い重低音の声が響く。なんだろ?赤城さんの一族は声が低いのだろうか?
まぁ、そんなことよりも。
「あの、もうすでに別れてます」
私は事実をいったら、ポカーンとした顔をされた。
「え、あ…いや……あ、別に嘘を言わんでええんやで?付き合ってるんやろ?」
「20分前に別れましたよ?」
「あ、あぁ~…なるほど。大丈夫やで?さっきな別れろやは、そこまでの権限がないし、乗り越えようかと思えば……」
「だから、別れたんだから乗り越えるとか、そんなのないです」
「……え?マジで?」
困惑気味の伊集院さんに、マジですと頷けば、凄い頭を抱えだした。
「なんでやねん!?」




