その後
茜は、隼人がいなくなった後、ヒヨコ型のリュックから包帯と、それを切る為の小さな鋏、それとスプレー式の消毒液、そして冷却スプレーに、念のためのライターとカッターをだした。
「取り合えず、傷口を見せてください」
「……お前がどういう人生を送ってるかについてまず聞きたい」
用意周到すぎる茜の治療道具に脱帽する龍馬だが、茜はそれを無視して、傷を直そうとする。
傷の浅いところは、消毒スプレーをして、間接圧迫をしながら包帯をまく。傷の深いところは、場所にもよるがカッターをライターの火で炙り、それを押し付けた。
「骨は折れてませんか?」
「あ?大丈夫だ。外れたが、これは何とかできる」
ボギッ、ゴギッと痛い音を響かせて、骨を直す。それをポー……とみながら……
「生命の神秘ですね」
この一言で全てを片付けた。
「んなことより、取り合えずは店を綺麗にするか」
龍馬は立ち上がって、喧嘩で転がったワインの瓶やグラスを拾う。しかしながら、意外にもそこまで散らかっていない。その理由を知っている茜は手伝いながらも悪態づく。
「……龍馬さんって……バカですよね」
「いきなりどうした!?」
「だって……いくら店を守りたかったからって……ほとんど無抵抗なんて……バカのすることですよ……バーカ」
そういいながら、茜は瓶の破片を拾っていく。
「別にそれだけじゃねーよ。実際、あいつは異常なほど強かったし、普通に戦っても勝てるか分からなかったのは事実だ。それに……」
「それに?」
「チビッ子が心配そうにしてたからな……ックク」
喉をならして笑った龍馬に、茜は拾った破片でぶっ刺そうとしたが、龍馬はそれを易々と奪って、ゴミ箱に捨てる。
「アホ、バカ、赤城さんの心配なんてしてないです。変なこと言わねーでください」
ポカポカと、茜は龍馬を叩く。それを受けながら、龍馬は意地悪そうに笑った。
「ククッ……俺は赤城だなんて一言もいってないぞ?」
「……あ……」
まるで雷が落ちたようにしまったという顔をした茜はゲシゲシと龍馬を蹴る。
「アホ、ちゃう、うっさい、バカバカバカ、このヒヨコ好きのチビコンがアホちゃいますか。バーカバーカ」
「ちょっ…本気で蹴るなよ。お前の本気は足を痛めるぞ。」
龍馬は取り合えず落ち着けとばかりに、茜の頭を優しく撫でた。
その姿はさながら仲のいい兄弟だった。
「私はそろそろ出ます……あと、ごめんなさい」
茜はドアを開けてペコリと頭をさげて出ていった。しかし、ドアを開ける前に、それで体と顔を少し隠して……
「……ありがと」
聞こえるか聞こえないか……そもそも、聞かそうとしてない程の音量でホゾリと言って、そのまま走っていった。
「可愛いとこもあるんだな…」
次から話が大きく始まります。




