第65話 別れて
「あ……あの!!お願いです!龍馬さんを破壊しないでください!!」
茜は、両手を床につき、必死で頭をさげた。いわゆる土下座のような姿勢に近いだろう。
破壊しないで欲しいなんて、普通は人にたいしては言わないが、隼人が普通でないために、茜は口走ってしまう。
「……??なにいってんだ?」
隼人にとっては、意味の分からない行動にみえるだろう。彼にとって、身内以外はどうでもいい存在で、壊しても何も思わず、しかも周りからも肯定され続けていた。
「…この人を壊さないで……」
茜は必死で懇願する。まるで、世界を破壊しようとする大魔王を必死で止めようとするあわれな人間のようだ。
「そいつは、俺の仲間たちを襲撃した奴だ。それに、コイツが壊れてもどうでもいいだろ?」
それは、あくまでも建前なのではあるが、実際にそのこともある。隼人のグループと敵対しているし、襲撃にあったのも事実だ。
殆どは嫉妬心の方が強くとも、グループのリーダーとしての判断もたしかにそんざいする。
これが、単なる他人ならば破壊しようとまでは考えなかったかもしれない。例えば……茜の同級である、かずまとかならば、まだ何もしなかっただろう。
しかし、これが敵対する不良グループのリーダーという事実が『破壊』の二文字を彼に与えてしまったのだ。
「こいつは……敵だからな」
隼人だって、野生ではないので何もかも破壊したい訳ではない。身内以外はどうでもよく、そのへんにある石と同じレベルでみているが、ちゃんと理性はある。
しかし嫉妬心、そして理性を崩壊させてもいい正当化できる理由。これほど揃えば迷うことはない。
「そんな汚い場所で両手をついてたらよごれるぞ?ほら、おいで」
取り合えずは、土下座をしている茜を持ち上げて、いつものように抱っこしようとしたのだが……
「や……いや…」
小さくも……ハッキリと拒絶のことばをいう。
龍馬を守るように、彼を背に隼人に正面きって、立ち上がった。身長差があるが、それでも負けないくらいに彼女は隼人を睨み付ける。
「おい……ゲボッ……チビッ子……お前…」
「龍馬さんは黙っていてください」
文句を言おうとしている龍馬を茜は制する。たおれている龍馬を隠すように立ち、隼人に向かって宣言した。
「別れてください」
短くも……ハッキリと何を意味するのかが理解できる言葉で、隼人にそういった。
「んな……茜……」
「別れてください。私の友人を壊そうとするのは許せませんから……」
これ以上、話すことは無いとばかりに茜は、龍馬の方へとむく。それを隼人は手で止めようとするが……
バシンと、茜は隼人の手を振り払った。
本当は、茜だって怖い。隼人の異常なまでのカリスマ性やその破壊性は恐怖の対象だ。基本的に、自分より上の人間や厄介な相手には従う茜だが、それでも……それよりも……
「帰ってください!」
(ちゃんと、拒絶しないと……そっちの方が危うい。)
無意識に……それが龍馬にたいしてなのか、隼人自身のことかは分からないが、そうおもったのだ。
「私の世界は、あなたで作られてません」
茜は、隼人の仲間でもなければ信者でもない。何もかもを信頼している訳ではない。それなりに恐怖するし、警戒もするし、けれど好意も存在する。
茜は……隼人の側にいるが、世界は隼人で作られていない。優先順位も隼人が全て一番ではない。
側にいながらも、そのカリスマ性をみながらも、破壊性を見ながらも、愛をささやかれながらも、彼女は心酔することも、恐怖心だけになることも、愛に溺れることもせず……
茜は……残酷なまでに、隼人の恋人だったのだ。
「……っ」
まるで、迷子になった子供のように……生まれて初めて叱られた子供のように……隼人は泣きそうな顔をしながら、帰っていった。
茜って、アレでバランス取るのが上手い。
隼人は時々暴走。今まで止める人間が存在しなかった。




