第64話 お願い
「茜のうしろにいる」
ネットリと、ジットリと、まるで舐めるかのように耳元でそう囁いた赤城さんが、すごく怖い。
背中を抱き締めるように……というよりかは、拘束するようにガッチリと締められてるので、赤城さんの顔が分からず、それが更に怖い。
「どうしたんだ?震えてるぞ?」
「あー……えっと、寒いからですかね?」
主に、私の後ろにいるホラー的な存在によって。いや、ホラーまだいいけど、赤城さんは生身の人間だ。それが更に怖い。
「わかった、もう少し強く抱き締める」
離れてくれたら、この悪寒も終わります。ヘルプミー
「というか、どうやって来たんですか?」
スマホのGPS機能だろうか?いや、アレは大まかな部分しか分からないし、そもそもここは営業されてないから、いるなんて分からないはずだし……
「スマホのGPSと、勘。」
これが、現代社会の闇なのだろうか?いや、現代社会で勘に頼るやつはいないだろう。そういえば、この人は勘がアホみたいにいいんだった。
私の120円を博打で大体120000円にするくらいだし。これが帝王たる威厳か……
「テメェ……隼人!!仲間のかたき!!そして茜から離れろ変態ロリコン野郎!!」
龍馬さんがナイスなタイミングで、赤城さんに飛び蹴りをした。仲間のかたきということは、過去に赤城さんのグループから襲撃を受けたのかな?とか考えてたら、赤城さんが動いた。
その拍子に私への拘束も解けたので、被害が及ばないように横へ飛び、喧嘩が行われている方へと視線を向けると……
「ウゼェ」
ただ一言、極めてシンプルで……そして、それ以上でもそれ以下の感情もなしに、そういって動いた。
「ウソ……」
その光景に思わず唖然としてしまう。
赤城さんは、不良グループのリーダーで、そりゃ確かに強いとは思っていたし、初対面の時なんてその異常性をみていた……
しかし、普段の身内に対する穏和な態度とか、生徒会長の姿とか、そんなのばかり見てたから、少し忘れていた。
いや、それだけじゃない。
龍馬さんも凄い強いはずだ。同じくグループのボスをやってたり、小学生とは言え、それなりに強烈な私の渾身の蹴りを軽く受け流してたり、チンピラを撃退したり。
だから……
龍馬さんの惨敗だなんて、想像つかなかった。
「うぅ……くそっ」
龍馬さんは悔しそうに、苦しそうにそう呻いて倒れている。そして、赤城さんはそのうえから、靴で踏んでいる。
グリグリグリと、まるで踏み潰すかのように、足でふんでいる。
「取り合えず、まずは腕と足、いっとくか?その後に顎おってやるから、遺言をいっとけ」
「死ね……!幼女好きのロリコン」
最後に発した罵倒。しかし、赤城さんは取り乱すこともなく、たんたんと……本当に、何も思ってない声で別れをつげた。
「じゃあな」
そういって赤城さんは、淡々と足を大きく振り上げ……うぁぁああああ!!!???!!??!!
「待ってええ!」
私は赤城さんの足に思わずしがみついた。勢いよく蹴ようと振り上げた足はなんとか止まってくれて、私はホッと安堵の息を洩すが、まだ安心出来ない。
「?…茜?なにやってるんだ?危ないぞ?」
赤城さんは私の行動を理解出来なさそうに、キョトンと首をかしげる。冷酷さから一転して、優しくいつもの穏和な雰囲気だけど、それと同時に、龍馬さんを人間とも思っていないのがすごく怖い。
「おいチビッ子……危ないから離れてろ」
龍馬さんはそう言うが、私は放れない。離れれない。だって、このまま放っておいたら、絶対に危ない。というか絶対に壊される!
「あ……あの!!お願いです!龍馬さんを破壊しないでください!!」
私は、両手を床について頭をさげ、物凄く必死にお願いした。




