第62話 茜の恋人は…
「なんか……本当に悪いな」
「じゃあ、まずこの学ランを脱いでもいいですか?」
茜は竜が刺繍されている大きい学ランのすそをヒラヒラさせ、死んだ目をさらに腐らせてドロドロになった目で龍馬にそういった。
龍馬が茜を新しい舎弟といった瞬間、警戒モードから歓迎モードに切り替わり、茜は……『わちゃわちゃ』にされた。
「よし!まずは体を鍛えようぜ!!」
「そうだ!このチームの信条を教えてやろうか!?」
「この飴食べろよ!!ウメーぞ!!」
「よし!!学ランを着ろ!!」
口に飴を放りこまれ、腕をひっぱられ、何やらチームの信条をブツブツいわれ、挙げ句の果てにはデカイ学ランを被せられた。
まるで、新しいオモチャを手に入れた子供のようだなと茜は思った。そして、乱暴に遊ばれて壊されるオモチャの気持ちを理解した。
「(あ……何か覚えがある…)」
茜の脳裏に浮かぶは、聖火学園で迷子になったとき、お嬢様たちに『わちゃわちゃ』された記憶。
そして、今の家庭に行く前の家庭で親戚達に理不尽にヒステリーを起こされた記憶や今の母の錯乱常態。
「(話さえ出来ればまだ大丈夫なのに、何故人は話をしないのだろうか?まずは話し合いをしようぜ……)」
本格的に現実逃避を行う茜。元々光の無かった目は、最早暗黒につつまれだした時、流石にヤバイと思ったのか、龍馬はストップをかける。
「あ……ま、まて!その子は舎弟じゃない!!」
その言葉に少年たちはストップし、龍馬のほうをむいた。
「え!?でもさっきは……」
「えっとだな……その子は確かに舎弟希望だったが、俺は女子供はそういうのはやめた方がいいと思うんだ……」
よくもそんな嘘がいえたなと茜は思う。
「それに……俺は小さいものとか、弱いものは嫌いだからな!!うん、でも慈悲は必要だと思うから、今からこいつを帰しにいくわ!!」
「流石っす!!龍馬さん!!女子供をちゃんと導く心!!素晴らしいっす!!」
「流石俺たちのボスっす!!」
感激の嵐になった舎弟たちの中心にいる茜をひっぱりあげ、龍馬はそれを背負い、手を振ってその場をあとにした。
そして、冒頭に繋がる。
「あいつらもな……悪気があるわけじゃないんだ」
「あんだけ目をキラキラさせて、それで悪気があったら、私は人間不信になりますよ」
学ランを脱ぎ、バキィっと飴を噛み砕いて、茜はあきれたようそういった。
今、茜と龍馬はもう営業されてないバーにいる。壁は若干寂れてはいるものの小綺麗で、ダーツやビリヤードもあるらしく、電気も通っている。
小綺麗なのは、もうすぐ龍馬の友人が経営を始めるかららしい。
「何か……色々と悩んでたんですけど、吹っ飛びましたよ」
「そういえば……色々と訳ありっぽそうだったな……なにがあったんだ?」
龍馬は適当に白ワインを飲みながら、茜にそう聞いた。ついでに、お酒は二十歳からだ。
「恋人に龍馬さんと一緒にいるのをみられて、浮気なのかといわれました」
「ッウブ!?」
思わすワインを吹きこぼしてしまった龍馬。
「お前……彼氏とかいんのか?」
「はい、いますよ」
最近の子供はずいぶんと進んでいるんだなと龍馬は思った。龍馬からして茜は、その小柄な体格も合間って小学2か3、下手すれば少し背の高い、大人びいて可愛げのない幼稚園児だと思っている。
「(でも、小さな子供同士の恋人で、嫉妬するなんて可愛いもんだな)」
小さいもの好き、可愛いもの好きの龍馬は少しほのぼのとして考えたが……
「高校生の人と付き合ってるんですけど監禁するとか……「おい、まて。犯罪臭が凄いするぞ」」
龍馬はストップをかけた。全然可愛くない。
「お前、高校生と付き合ってるのか!?」
「はい」
アッサリとそう答えた茜に龍馬は驚き、混乱しながらも質問する。
「えっと……そいつはロリコンか?幼女愛好趣味なのか?」
「いえ、まったくないみたいです。まぁ、赤城さんの自己申告なので、本当かどうかは分かりませんが……」
「あぁ、そうか……赤城さんはロリコンじゃな……赤城?」
龍馬は聞き覚えのある名前に耳を向けた。
頭に浮かぶは、自分の最大の天敵であり、仇敵。
いや、単に名字が一緒なだけだろう。そう珍しい名前でもないし……というか、想像がつかないし、想像したくもない。
しかしながら、龍馬は質問した。
「そいつの……フルネームを教えてくれないか?」
「赤城 隼人」
サラリと溢した言葉に、龍馬は人生ではじめて目を飛び出す体験をした。
次回、隼人を出したいと思います!!




