第59話 ヒヨコ喫茶
祭りが終わり、休日に入った茜は、最近、出来たヒヨコ喫茶の店チラシを見ながら、歩いていた。
「(この世にそんな、マイナーでハッピーなものが作られたなんて、凄い)」
実はヒヨコが大好きな茜は脳内で、ヒヨコと戯れる妄想をしながら、表に出さないが、少しルンルンスキップで歩く。
「確か、この道を曲がって……」
茜がチラシに書かれている地図をみながら、道角を曲がると『ヒヨコ喫茶』という文字に、可愛らしいヒヨコを模した看板を見つたが、そこの近くに男がいた。
歳は赤城隼人と同じ位で、体格はガッシリとしており、身長は日本人離れした190辺りで、髪は金髪と赤を織り混ぜた色で、何より腕から見える竜のタトゥーが、一目で『そっち』の人間だと分かる。
「(赤城さんと同じような人か……)」
茜は対して気にはしなかったが、店に入るのにスゴく邪魔だった。男は、鬼の形相のように店を睨み付け、時折震えている。
「畜生……こんなパラダイスが……いや……くだらない……ここから」
正直にいって、関わりたくないが、ヒヨコ喫茶にいくには、この男にどいてくれなければダメだ。流石に何もしてない子供に手は出さないだろうと、思って声をかける。
「あの~…すみません」
どいて欲しいと言う前に、男はこちらを振り返り、茜の手に持っているチラシに気づき、両肩をガシっと掴む。
「チビっ子、お前は今からこの、ヒヨコ喫茶に入ろうとしているよな?」
「あ、はい」
察してくれたのかと思ったが、男は更にいった。
「しかし、一人で入るのは怖いから一緒に入って欲しいんだよな?」
「いや、違「仕方ない!実に不本意だが、幼女に頼まれては断れないから、一緒に入ってやる」」
「だから、違…」
「そうだよな?チビっ子」
大きな手が、茜の首を優しくつつんだ。
「(児童虐待反対)はい、そうです」
色々なものを諦めた茜は、素直に従う。男は満足げに笑うと、茜の手を握ってそのままヒヨコ喫茶に入った。
若い店員さんが男をみて、若干怯えたが、一瞬だけで、すぐに戻す。
「い、いらっしゃいませ、何名ですか?」
「二人だ、ドリンクバーと3時間セットで頼む」
「かしこまりました」
普通の態度と、茜という子供の緩和剤もあり、店員は安堵しながら、席へと案内した。
茜は早速ヒヨコと戯れ、優しく手にのせた。
「ここは天国ですね」
「本当だな……」
男は、ドリンクを机においてヒヨコを慈愛の眼差しでみながら、指先で戯れている。
フワフワとした触感と、時々つつかれるくちばしは、大変可愛い。
「俺の名前は、竜野 龍馬だ。龍馬って呼んでくれ」
とある歴史人物を思い浮かべる名前だなと茜は思った。
「龍馬さんですか、私は 如月 茜です」
基本的には、名字にさん付けで呼ぶ茜だが、素直に名前で呼ぶ。
「おう、チビっ子。よろしくな」
「チビっ子じゃないです」
茜は、ドリンクをすすりながら抗議したが、龍馬は無視してチビっ子と呼ぶ。
「チビっ子……お前はヒヨコが好きか?」
「それなりに、普通に、常識的には好きです。食べたりもしますし」
食す用としても、愛でる方としても、茜はヒヨコが好きだ。
というか、ヒヨコを食すことは体の一部をヒヨコにすることであり、最大の愛し方だと思ってるくらいには、茜は常識外に好きだ。
「俺は……ヒヨコはそれなりにだ。別に好きじゃない。普通に食べたりもする。」
「食べる意味とは?」
「ヒヨコを食すことは体の一部をヒヨコにすることであり、血肉がヒヨコと同体になるからだ」
淡々と気持ちの悪いことを平気な顔をしていった龍馬だが、茜は頷いた。
「分かります……ヒヨコが体の一部になるのではなく、体の一部がヒヨコになるんです」
幼女と男が二人して気持ちの悪いことをいってる風景は余りにもシュールで気持ち悪く、危ない新興宗教のようだった。




