第56話 告白
隼人は、佐南に話があると言われ、階段を登って屋上に出る。涼しい風に吹かれながら、フェンスによりかかった。
そんな隼人に見惚れていた佐南だが、口を開く。
「茜ちゃんって……凄いですよね」
何故か、すんなりとそんな言葉が出てしまっていた。機嫌とりや卑屈ではなく、本心からそう思う。
「そうか……」
「いつも冷静で……何でも出来て、小学生なのに皆から頼られて……
会長にも臆することなく発言出来るって……凄いです」
事実、ここでの隼人は不良のリーダーでは無いにしろ、手の届かない神様のような存在だった。
隼人の言うことは絶対であり、君主であるという認識が皆備わっている。
それは、佐南も一緒だ。
少しでも近くに居たくなって、生徒会に入った今も喋るのには相当な勇気がいる。れでも、佐南は意を決して言った。
「私は……会長のことが好きです。婚約者を辞めた今も……好き……です」
目に涙を蓄え、それでもしっかりと隼人から目を背けようとしない佐南は、酷くひどく魅力的だった。
そんな佐南に、隼人はいうのを戸惑った。
「……」
隼人にとって佐南は、元婚約者ということ以上に、生徒会で頑張ってくれた仲間という感じだ。
大切じゃない筈がない。大切に思わない筈がない。
けれど、隼人は答える。
「俺は茜が好きだ」
淡々と口から出した、自分以外の他者へ紡ぐ愛の言葉。余りにも簡潔すぎる回答に、予想はしていたが佐南は涙がついに溢れだす。
「なんで……ですか?なんでですか!?私の方が会長をすきなのに!!ずっと前から!!会長を尊敬して……!!」
「それでも、俺は茜が好きだ」
「会長に……茜ちゃんは何をしたっていうんですか?」
「あいつにとっては、何でもないことだ」
路地裏で、大量の敵チームに一人で戦って勝利を治めたものの、弱りきっていたとき、周りは隼人に手を伸ばさず、助けようとしなかった。
それは仕方ない。そう思いながらも、絶望していた隼人に茜は表れた。傷をハンカチで拭き、スポドリを飲ましてくれた。
多分、茜にとって何でもないことで、もう忘れているだろうし、きっと気まぐれでやったのかもしれない。
茜にとっては偶然だが、隼人にとっては必然だった。
それだけで、人は恋に落ちる。
「俺は茜が好きだ。だから付き合えない」
「もし……茜ちゃんがいなかったら、どうだったんですか?」
「沙羅と結婚していた。仮に沙羅もいなくても、俺は佐南を好きになることは無かっただろう」
「そう……ですか…」
佐南は隼人につめよるのをやめた。フラれたが、心は何故か軽い。
「ありがとう……ございまじだ!」
佐南はそういって、笑顔で礼をいった。
若干スランプ気味です(ーー;




