第55話 説教
チュルチュルと、まるで飲み物のように茜の口を吸う隼人から解放された茜は思いの外冷静だった。
キスはされたが、子供故の無知か、それともキスより隼人の怒りを抑える方が先決だと思ったのか、茜は頭を下げる。
「あのー……本当にすみません」
「……(やっちまった……)」
我に返った隼人は、シンプルにそう思った。
唯一の救いといえば、茜が意外にも冷静に対処していることだ。
本当になんでコイツは冷静になんだろうか。
「(どうしよ……茜はまだ小学生なのに、やってしまった。自首しよう、腹を切ろう、そりゃ怒りに身を任せてしまったが……これ、完全にダメだよな…)」
一応の常識をもってる隼人は、小学生にキスをしたという罪悪感や、背徳感を持ちながら、どうしようかと思った。
取り合えず、茜をおろし、頭を抱えようとする隼人だが、下から声が聞こえた。
「あの……服、直していいですか?」
という声を聞き、茜の胸元を見れば、乱暴なキスのせいでボタンが外れたらしく、白い肌が露出し、肩までズリ下がってる事にきずく。
まるで餅のように白く柔かそうなモチ肌に吸い付き、そしてそのまま服を脱がしたい衝動を抱える寸前に隼人は自分を思いっきり殴った。
ガン!!
「……っ」
「(相手は小学生、相手は幼女、結婚したら合法、しなかったら単なるロリコン、合意の上でも違法、合意じゃなかったら刑務所の実刑判決……俺はロリコンじゃねぇ、俺はロリコンじゃねぇ……)」
最早、暗示に近いながらも脳内を占めるのは、茜の肌である。服を着ればいい話だが、茜は律儀に隼人の回答をまっている。
カシュッと、茜と隼人がいる舞台袖を誰かがひいた。
「おい、誰かい……」
一樹は……絶句した。
考えても見て欲しい、自分の生徒が肌けた姿をしており、しかも横には鼻血を出しているロリコン。更に茜は若干怯えてる。
一樹の嫁は7つ年下で、好きになったのは嫁が小学生の時というロリコンだが、結婚するまでは手を出さなかったし、未成年に手を出すのは最低だと思ってる。
しかも、自分の生徒が被害者だ。
「あの……これは……」
「俺の生徒に何してんだぁぁあ!?」
思いっきり、一樹はぶん殴った。
結論から言おう、隼人はぶん殴られた。20代後半の本気パンチは思いの外強く当たり、ふっとばされた。
その後、茜を救出して控え室に送った後、隼人に対して延々と説教を繰り返した。
「つーか、そもそもお前はバカか!?なんで劇に乱入するんだよ!?小学生たち泣いてたぞ!?」
「茜がかずまといい雰囲気なのが許せなかった。将来結婚するとか抜かしてたから、大人役で出てやろうと決意した」
「こっちが見てる分にはホノボノしてたぞ?後、アレは演技だ!しかも襲うな!!」
「襲ってねぇ!!キスだけだ!それ以上はしてねぇ!!
でも、さっきは来てくれてありがとうございます。本当に感謝してます。ヤバかった」
ここだけはちゃんと感謝している。
仮にあのまま来なかったら、自分がどういう行動してたのか検討も付かなかった。
最悪、あのまま襲って警察呼ばれ、裁判で実刑判決を下されて、少しの間、外とサラバしてしまいそうだった。
「ハァ……ちゃんと節度を守れよ?後で泣くのは子供で、警察呼ばれるのは大人だ。
もういっていいぞ」
「はい」
隼人は立ち上がって、室内から出ていった。
祭りの為、賑わいが漏れる廊下で隼人は何となく今日の予定を振り替える。
この後の予定は閉会式の言葉とオーケストラの指揮だけである。勿論、問題が発生した場合は出なければならないが、そうならない時は基本的に暇だ。
「(取り合えず、ダメ元で茜を誘ってから謝罪と……)」
「あ、あの……!!」
いきなり後ろで呼ばれて何かと思えば、佐南だった。
顔を赤くさせ、オロオロとしながらもちゃんと決意を固めた目でこういった。
「話があります!ちょっと来てください」
実は死人が出る筈だった祭り編(というか目玉ボーンだった)
それを考えると平和になったなと思う。




