第54話 王子のキス
隼人が王子として劇に乱入し、目に光がなく、完璧に怒ってると思われる隼人に恐怖する。
キチンと考えれば当たり前のことだ。
茜が一緒に回れないというメールを送れば、隼人は心配する。そして、最初にいくのは、茜が見回りにいってた劇にいくのは当たり前のことだった。
「茜ちゃぁん?」
かつて、こんなに怖い茜ちゃん呼びがあっただろうか?こんなにも寒気のする茜ちゃんがあっただろうか?いや、ない。
基本的に名前呼びされている茜は、耳元で囁かれるだけでも怖くて死にそうな気分になる。
「(すんまへん、すんまへん、すんまへん、取り合えず謝ります。とにかく謝ります。この劇が終わったら、全力の土下座を思いっきりやりますんで、勘弁してください。ホンマにごめんなさい)」
茜は泣きたくなった。出来れば今すぐにでも、完全にキレている隼人の機嫌を伺いたいのだが、今は劇の途中、しかもまだ死体役なので何も出来ない。
ライオンが舌舐めずりをして近寄ってきてるのに、足を折って身動きが出来ないバンビーの気分だ。
小人たちは、いきなり王子役が変わっても、一応進行している。
「この子は、僕たちの白雪姫なんだ!悪い魔女にやられて……」
「あ゛ぁ゛?誰の白雪姫?」
余りの恐怖に、悲鳴どころか息すら出来ない哀れな小人役。ぶっちゃけ隼人、大人げない。
「……」
「……」
「……お、王子さまの白雪姫です!!白雪姫はきっと王子さまをまってました!!」
小学生頑張った。
恐怖には負けたが、ちゃんと台詞はいえた。あの隼人に睨まれて喋れただけでも凄い。
「そっか、白雪姫はどうしたら起こせるの?」
隼人は一転して、優しげな笑みを浮かべる。その笑顔に茜は泡を吹きたくなり、せめて隼人の腕から逃れられないかなと思うが、隼人はガッチリとつかんでいる。
「それを起こす方法は鏡の精に聞くんです!!」
小人の一人は、鏡をもって左右にふった。
「妖精さーん、妖精さーん来てください!!」
その台詞を聞いた瞬間、茜は少しの心配をした。
ゆかりはちゃん戻ってきたのだろうかと。佐南は、アレで説得や交渉が上手いから、なんとかなると思いながらも、それでも心配してたのだが……
「はい、なんでしょう?」
出てきたのは、たしかにゆかりだった。若干涙目で、頬が赤いのはきっとリカに平手打ちを食らったんだろうと推測する。
「どうやったら、白雪姫は眠りを覚ますのですか?」
「それは、王子様のキスです!」
茜この瞬間、(自分の寿命を半分あげるから隕石を落としてください神様)と思うくらいには錯乱した。
ぶっちゃけた話、劇とか辞めて逃げたいのだが、ガッチリホールドしている隼人に逃げれる気がしないし、逃げたとして、後が怖い。
「わかった……」
隼人はそういって、茜の頭に手を置き、王子の衣装についているマントで茜と隼人の顔を隠した。
そう、してるフリだ。
「白雪姫が目覚めたぞ!!」
隼人は茜を持ち上げて、そういった。小人たちや鏡役もよかったよかったと笑いあう。
そして、茜をおろして隼人はこういった。
「白雪姫、どうか私と結婚してください」
「はい、よころんで」
台本通りの台詞に、茜も台本通り返した。
『こうして、白雪姫と王子様は結婚することになりました』
ナレーションが入り、暗転したので、隼人と茜は舞台裏へと移動した。
舞台裏へと移動しながら、茜は隼人に謝罪の言葉をいう。
「あの、赤城さん……この度は本当に……」
茜は、キスはフリで勘弁してくれたので、きっと許してくれるんじゃないかと思ったが……
「あぁ、だって舞台じゃ流石に無理だろ」
隼人は舞台袖を掴み、茜と自分を覆った。
「え……ムグ!?」
疑問を返す前に、隼人に抱き締められ、キスをされた。いや、キスなんかではない、歯でこじ開け、舌をねじ込み、まるで酸素を貪ろうとするくらいの、ディープキスだった。
「…ちょ…まっ……ンム!!」
逃げをうとうとする茜を嘲笑うかのように後頭をしっかりと掴んで唇で声を消し、舞台袖で姿を隠す。
仮にこれを見ている優良な人間がいたとしたら、警察に連絡されていただろうと言うくらいのアウトなものだった。
「……ンン……っぷは…ハァ…ハァ…」
やっと、解放された茜は必死で酸素を肺に入れようと窒息する恐怖から必死で息をした。
トロリ……と、唇から唾液がこぼれる。
「………」
隼人は無言で、指で唾液をすくい、それを舐めずた。
「あー……うめぇ…」
あらゆる意味でアウトだった。
これって、完璧にアウトだよな……いや、ここまでならまだ大丈夫かな?相手幼女だけど。




