表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/106

第53話 恐怖の王子登場

 私のせいで、一時期はどうなるかと思ったが、かずま君のお陰でなんとかなり、つつがなく舞台は進んでいく。


 猟師に逃がされ、小人たちと暮らし、そして老婆の格好をしたエリザベートの場面に入った。


「貴方はいったい誰ですか?」


「私はリンゴ売りの婆さんだ。美味しいリンゴは如何かね?ヒャッヒャッヒャ……」


 演技部の人、マジパネェっす。特殊メイクも相まって、小さい子が見たら泣き出してしまうくらい怖い。


「美味しいリンゴだよぉ……甘くて美味しい真っ赤なリンゴ……そぉ……お前の唇のようにねぇ……美味しいリンゴだよぉ……お金はいらないからお食べ……」


 リンゴを差し出す老婆を見て、ふと思った。


 こんな物を食べようと思った白雪姫ってバカだろ。


 白雪姫はバカなのか、食い意地をはっていたのか、極度のリンゴマニアだったのだろうか……というか先輩怖いです。普通に泣きたいっす。


 しかし、台本通りにしなきゃいけないので、私は台詞をいう。


「まぁ!美味しそうなリンゴ!!」


 差し出された、怪しさ満点の虹色のレインボーリンゴをかじり私は倒れる。


 さして、先輩が高笑いを始めた。


「ヒャハハハハ!!!これで私が一番の美だ!!死んだお前の血を抜き取ってる!!」


 だから、先輩怖いっす。本当に怖いっす。高校生って、本当に怖い。


 老婆は、刃物(偽物)をもちながら私の方へと向かっていく。迫真の演技すぎて、客は怯えてるし、私も怖い。


 ライトで雷のような演出をし、そして音もゴロゴロと雷の音を出している。


「殺してやる、殺してやる、私以外の美しい女なんて消えてしまえばいい。若くてピチピチした女は全員死ね……」


 これ、演技だよな?その刃は偽物だよね?目が怖い。


 私の首元に刃を立てたシーンは本当に怖い。思わず悲鳴をあげそうだった。


「あ、お前!!何をしている!!」


 しかし、小人たちが表れて老婆は退した。かけよった小人たちが悲しみにくれる。


「わー!!白雪姫が!!」


「死んじゃったよ~!!」


 子供らしい演技が、さっきの怖すぎる演技の緩和剤になってくれて、私は少し安堵する。それは、客も一緒だったみたいで、緊張がとれていた。


 ざわざわ…… ざわざわ…… ざわざわ…


「あれって、本物の死体?」「いや、人形でしょ?」


「まさか、本当に死んでるんじゃない?」「生きてる感じがしないわ…」


 緊張がとけたと同時に私が本物の死体じゃないかという声が聞こえた。ハハハ、私の迫真の演技は凄いだろ。


「でも、白雪姫は死んでないみたいに……って、うわ!死体だ!」


 下を向いて私をしっかり見た小人役に驚かれた。泣きたい。


『小人たちは死んでもなお綺麗な白雪姫を長期保存すべく、透明の棺桶にいれました』


 先生がアドリブでナレーションを入れてくれた。長期保存て……


 何はともあれ、小人たちによって、棺桶に入れられた私は横になって寝る。


「(さて、そろそろ出るか)」


 この棺桶にはとある仕掛けがされている。それは、棺桶の横が下に開くのだ。


 非常扉がついている壁と連結されている棺桶は、横がパカッと開く仕組みになっている。


 そして、大人になった白雪姫、つまりは高校生の人と入れ替わるのだ。因みに、王子役は演技部の公人さんが勤めるらしい。


 もう、そろそろ大人役の人がコンコンと鳴らしてくれ、そして入れ替わるのだが……


「(アレ?こない……)」


 一向に来ないのだ。何か問題があったんじゃないかと思って、私も横に手を押すのだが、全然ビクともしない。何故だ。


「如月…死ぬなよ…」


何故か一樹先生の声が聞こえ、不吉なことを言われた。


「「「「キャァァァアアア!!!」」」」


 そうこうしている内に場面が変わったらしく、王子が登場したらしい。甲高い観客の歓声が響き渡る。

 公人さんは演劇部として人気高いし、顔もイケメン風だから、歓声がでたのだろう。


 しかし、どうしたもんだろうか……大人役の白雪姫と入れ替われていない以上、このままでやるしかない。


「そこにいるのは白雪姫か……変わりない綺麗さだ…」


 低音ボイスの胸に寒気が起きる、聞き覚えのある声が聞こえ、目を少しだけ開ける。


「昔と出会ったままの姿だ……あの時から俺はずっと探していた」


 目に写ったのはイケメン風とかではなく、完璧な美を集結させた、男だ。


「(赤城さんがいる)」


 目をもう閉じ、もう一度開ける。


「(……赤城さんがいる)」


 私の目が可笑しくなったか、もしくは超特殊メイクでないのならば、目の前にいるのは赤城さんだ。


「昔、君がいってくれた言葉を今も覚えてる……」


 赤城さんは、優しく、優しい声をかける。けれど私は泣き叫んで今すぐ逃走したい。下手な怒りよりよっぽど怖い。


 赤城さんとの距離は近い。私を棺桶から救い上げ、お姫様抱っこのような状態になった。


「将来、成長した俺と結婚する……


 そうだよなぁ?茜ちゃぁん」


 最後の部分を何時もの10倍の低音ボイスで耳元にささやかれ、完璧に怒ってるのがわかる。


「(あ、これ死んだな)」


 私は思わず生きることを諦めた。

赤城の登場。因みに、全部見てました。

客からしたら優しげな王子、茜からしたら恐怖の魔王です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ