第50話 代役
「ゆかりが…いないんだ」
どうやら事件発生である。
「え?あ、ちょっとこっちに来てください」
一樹先生をひっぱり、隅っこの方で佐南さんと一樹先生、私で集まる。
「ゆかりちゃんが、居なくなったんですよね?」
ゆかりちゃんというのは、私のクラスメートでソバカスとボブが特徴の学童の女の子だ。
スクールカーストは、中の上でリカちゃんの次くらいの女の子。多分、敵より味方と無関心が多い子だ。
チラリと後ろの方を聞くとそれがなんとなく分かる。
「どうしたんだろ?大丈夫かな?」
「ったく本当にゆかりうざい」
「劇どうするんだろ……」
ゆかりちゃんを本心で心配する子、ゆかりちゃんに怒りを表す子、単に劇を心配する子と反応はまちまちだが、無関心さと心配の声が多い。しかし、それも無関心に変わっている。
ゆかりちゃんが居なくなった……何となく予想はしていた。
多分、リカちゃんがキツいことを言いまくったのだろうと予測する。あの子は友達には優しいけど、他の子には手厳しい。自分が女王じゃいと気がすまない。
どっかの肉姉さんと似たタイプかもしれない。
更に加えてゆかりちゃんは前の学年まではトップカーストだった。よく言えばリーダーシップ、悪く言えば我儘なリカちゃんのようなタイプだったと思う。
目立ちたがり屋でしきりたがり屋だけど、最低限の空気は読める子だったので、甘んじてたけど、ここで不満が爆発したって感じだろう。
「トイレに行くといったきり……何処にいないんだ。もうすぐ始まるんだが……
どうしたらいい?」
どうしたらいい?じゃねーよ、アンタ教師だろうが……自分でなんとかしろよ……
「多分、屋上にいると思うので迎えにいってあげて下さい」
「なんで屋上にいると思うんだ?」
「ここは聖火学園でゆかりちゃんには土地勘ないです。トイレの近くには非常階段があるので、そこをいったとしたら屋上です」
「まって!下に行って他の場所にいった可能性は?」
佐南さんが、そういったので私は更に説明を加える。
「ないですね。姿を隠したとしても、ゆかりちゃんは見つけて欲しい願望があると思います。い無いなら、ないで諦めましょう」
まぁ、その可能性はないだろう。
ゆかりちゃんの目的は自分の存在を示すことにある。後で怒られるにせよ、見つけられるにせよ、自分がいなくて困ったという証明があればいい。
「鏡役は代役をだしましょう。セリフは少ないですし、定番の言葉で事足ります」
けど、時間と配役を間違えたね。この時間帯なら探すのと説得時間を取れる筈ないし、鏡なんて代役を簡単に立てれる。
ゆかりちゃんがいなくても、誰も困らないし、戻ってもきっと怒らない、怒ってくれない、何故なら必要ないから、劇が上手くいくならどうでもいいから。
多分、ちゃんと叱ってくれる子なんてリカちゃんくらいだろう。
「取り合えず、一樹先生は説得に行って下さい」
「場所が屋上で、説得が俺なら、最悪はダイブすると思うぞ。」
「アンタ、本当に教師かいな?」
しまった、コイツ確か結構な毒舌で心の傷を抉り取る人間だった……!?
「じゃあ、私が行きます」
「いや、お前もダメだと思う」
「え?なんで、ですか?」
「ゆかりにとっては、お前もコンプレックスの一つだ 」
? ?
「あ~…なんとなく分かるかも」
佐南さんにも頷かれた……なんだろう……酷く納得いかないのに否定出来ないこの気持ち……
「じゃあ、佐南さんがいって来て下さい」
「うぇえ!?わたし?」
佐南さんは驚いて自分の方へと指を向ける。まぁ、その反応は当たり前だね、ぶっちゃけ佐南さん関係ないもん。
「はい、もう消去法で佐南さんしかいないです。先生だと毒舌すぎて自殺する可能性ありますし、私だと……」
「ゆかりは話じたい聞かないでヒステリック起こすな」
一瞬、リアルなビジョンが浮かんでしまった。
「うっさい!……とまぁ……お願いします。
劇の終盤までに戻らせて下さい」
多分、序盤はもう難しいから、終盤しかないだろう。
「わ、わかった…」
佐南さんは、覚悟をきめたように頷いて、屋上の非常階段へと向かった。
「鏡の代役を誰か立てて!」
話がまとまり、序盤に使われる鏡役を誰かにやってもらう為、みんなにそう呼び掛ける。
「はいはい!!」
元気よくそういってくれた子がいた。誰だろうと思って声の方向へと向けば…
「私!鏡役する!」
白雪姫だった。
なんでやねん\(--;)
思わずこんな絵文字が出てしまう程に少し度肝を抜かされた。
「いやいや、あのね?鏡役やるんだったら白雪姫はどうすんの?」
「茜ちゃんが白雪姫をやればいいんじゃん?」
リカちゃんはさも当たり前のようにそういって、白雪姫の衣装を私に押し付けた。




