第49話 始まった祭り
柚木小と聖火学園の合同祭。略して聖柚祭。
色々なことはあったが、ついに当日を迎えた。
聖柚祭は聖火学園の敷地内で行われ、広すぎる体育館を暗くし、緊張が走る。
『開演3分前、準備いいです』
『こちら水城、ライトの準備いいです』
無線ごしにみんながそういった。コツコツという足音が舞台の真ん中で止まった。
『五秒前』
『4』
『3』
『2』
『1』
一つのスポットライトが光る。
「今から、聖柚祭の式典を始める。俺はこの学園の生徒会長を勤める、赤城隼人だ。今日は天気にも恵まれ……」
赤城さんは慣れたように舞台挨拶をしている。綺麗すぎる容姿もあいまって、回りは息を忘れたように聞いていた。
赤城さんは、普通に挨拶をしていたがいきなりマイクを手に持ち、上着を脱ぎ捨てた。
ライトは赤や青のレーザーが、まるでライブのように動き始める。
「固いことは言わねぇ!!小学生のガキも高校生も関係ねぇ!!俺からいうことはこれだけだ!!
死ぬまで楽しみやがれ愚民共!!!!」
「「キャァァアアアアア!!!」」「「ウォォオオオオオオ!!!」」
まるで地震のように大きな歓声が舞台を覆った。赤城さんの圧倒的なカリスマ性で何もかも支配した。女子生徒も男子生徒も教師も保護者もみんなが心酔している。
「柚木小の幕開けだぁぁああ!!やりつくせ!!」
「ウォォオオオ!!!!」
その後、コール&スポンス、そして何故か歌まで披露して、観客を煽りに煽って舞台裏に戻ってきた赤城さんに、私はすぐにドリンクとタオルを渡す。
「どうぞ」
「サンキュー」
赤城さんはゴクゴクと飲み干した後、タオルを受け取ったかと思うと、私に被せて引き寄せられた。
「っえ?ちょ……ムグ」
タオルごしにキスされた。
柔らかい感触とほのかな暖かさがタオルごしに伝わる。
「この後、何がなんでも時間作るから一緒に回ろうぜ」
耳元で、そう囁き赤城さんは立ち去った。
「……むー…」
タオルを外し、赤城さんが出ていった方を睨みつける。誰もいなかったからよかったものの、誰かいたら通報されてたぞ。
いや、タオルごしだからまだ許されるのか?
「茜ちゃん……」
ビクゥッ!!と思わず震えてしまいながらも、急いで後ろを振り返ると佐南さんがいた。
「あ、えっと……もうすぐ合同イベントの劇が始まるから、その見回りにそろそろ……」
そう言えば、劇に問題がないかを調べる為に私と佐南さんで、見回りにいくんだった。
「分かりました、伝えてくれてありがとうございます」
ニコッと、一応は最大限の笑みを浮かべれば、佐南さんは安心したような顔になった。
「では、行きましょう」
「うん」
佐南さんと一緒に体育館から出て、劇が行われる舞台の方へと歩く。
劇は演劇部が使っている800人は軽く入る舞台ホールで行われ、後20分くらいで開演が始まる。
「茜ちゃんってさ……赤城さんのこと、どれくらい好きなの?」
廊下を歩いていると、佐南さんにそう聞かれた。
私のひねくれでないならば、『私の方が好き』と言ってるようだ。
「まぁ、恋人になる位には好きで、佐南さんよりは好きじゃないと思いますよ」
佐南さんは目を見開く、私の回答はきっと予想外だったんだろう。
「私の方が好きって……分かってるなら……」
「多分、私より佐南さんの方がお似合いだと思いますし、赤城さんをサポート出来るでしょう。佐南さんは可愛いですしね」
「そんな言うんだったら別れてよ!私より好きじゃないなら!……譲ってよ……」
手を握りしめて、佐南さんは泣きそうな顔でそういった。切羽詰まったように、それだけ分かってるならと……
涙を浮かべ、泣きそうな顔をし、まるで悲劇のヒロインのような……きっとそれで許されてきた……
私が最も嫌う、善良で優しい、いい子なんだろう。
「それは、私じゃなくて赤城さんに言ってください
今の貴女は……被害者づらして許しを強要させる卑怯ものです」
それ以上、私と佐南さんは何も言わずに歩き、柚子小の方の舞台袖にいく。
「茜ちゃんマジ遅いし!」
「キャア!!やっと来たんだ茜ちゃん!」
「ちょっと助けて!!」
舞台裏に入れば、みんなから思いっきり抱きつかれ、こづかれ、ベタベタと触られる。
「茜ちゃんって……本当に人気者だね……」
後ろから佐南さんがそんなことをいったが、私が何かをいう前に、一樹先生がいった。
「ゆかりが…いないんだ」
どうやら事件発生である。
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