第46話 失望
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なんとなく、なんとなく予想はついていた。
私は小生意気で、可愛げがなくて、小学生というには扱いづらくて……赤城さんの恋人だから。
でも、何事にも一生懸命で、可愛くて、優しい佐南さんはきっとそんなことしないと……
純粋な子供ぶって言っても、予想してた時点でやはり私は可愛くないのだろう。
私が無くしたのは、予算案とその許可証である。これは最重要書類に認定され、金の水回しを防ぐ為に再発行はかなり難しいのである。
しかし、私が感じたのはそれについての焦りではなく……
「あ、茜ちゃんが大切な書類を無くしちゃった!」
焦りと罪悪感でいっぱいになりながらも、それでも良心より、私への嫌悪が上回ってしまった佐南さんに対する……
失望感だった。
いや、失望というのは可笑しいかもしれない。単に私が勝手に佐南さんを可愛いと思い、何事にも一生懸命な優しい人だと、勝手に評価していただけだ。
佐南さんが、書類を取ったと私は理解した。何となく予想はついていたから。
つまりは、予想していた時点で私は佐南さんを信用してなかったのかもしれない。
「(でも……いいもんじゃないね)」
「どうしたの!?如月さんが何をなくしたの!?」
佐南さんの声に驚き、早急に対処をしようとしている生徒会メンバーに、佐南さんが少しビクついて答えた。
「あ、あの…予算案と判つきの許可証です」
「ぇえ!?どうすんの!?」
周りは驚き、どうしようと叫んでいる。佐南さんそれをみて、悲しそうに苦しそうにしていた。
なんで、佐南さんが傷ついた顔をしてるんだよ。
せめて、正当化してほしい。自分に間違いなんてないという態度をとって欲しい。けど、佐南さんはオロオロしている。
「どうすんの!?茜ちゃんに責任が取れる筈ないし…!」
「誰だよ!如月さんに書類を渡したやつ!」
みんな、私に責任を負わせようとはしない。
それは、そもそも私に責任能力がないことも関係するが、私が小学生ということを最低限理解してる、もしくは思い出したのどっちかだ。
「ま、まって!無くしたのは茜ちゃんで…」
「バカか!?小学生に責任おしつけれるかよ!」
そうなれば当然、私に…… 小学生に大事な書類管理を任せた 高校生に責任を取らなければならない。
「ごめんなさい……私が、如月さんに書類を…!」
今にも自殺しそうな姉さんは、私に書類を渡した人だ。ハッキリいって、佐南さんにとっては無関係の人なのだろう。
その証拠に、佐南さんは青白い顔をして冷や汗をダラダラと流している。
こんなことになるなんて……。といった感じだろう。
「(だったら、最初っからするな)」
佐南さん……人を陥れるというのは、こういう事なんです。嫌いな人間を陥れたところで、その人だけが被害を受ける訳じゃないんです。
別の……無関係の人間が被害を被ることだってあるし、なんだったら自分が好意を向ける人間が被害を被ることだってある。
人はそれを正当化させて罪悪感から逃げる。
こうなったのは自分のせいじゃないと、ここまで追い詰めたアイツが悪いんだと、そうやって自分は正しいと思い込む。
「(でも、佐南さんはそれが出来てない)」
自分がやったことは間違いだと認識し、正当化したくても出来ない。少なくとも、私以外の人が迷惑を被ってることに関しては責任を感じてると思う。
「だ、大丈夫だから!如月さんは悪くないからね!私がなんとかするから!!」
終止無言でいる私を落ち込んでいると感じたらしい、書類を渡したお姉さんが、汗をかきながらも私を励ましていた。
ふと、佐南さんと目があった。
「……っ」
口を結ばせ、一番泣きそうな佐南さんは私より幼くみえた。
それでも、周りがパニックになり、書類を渡したお姉さんが青ざめてる光景は、佐南さんにとって苦しいものだったのだろう。
「み、みんな!!」
佐南さんが再び大声をだし、皆がそちらの方をみた。
目をクルクルと回し、冷や汗をかき、指を震わせてる佐南さんはまるで、学級会で糾弾に撃たれている子供みたいだ。
その昔、学級会で謝れコールをされた記憶が甦ったが、関係ないので蓋をしめる。
「どうしたの?」
「大丈夫?」
この場に佐南さんを攻撃しようとする人なんていない。寧ろみんな、心配している。
そりゃそうだ。笑顔が可愛くて一生懸命で優しい佐南さんに人望が無いなんてことはない。慕われてない筈がない。
「佑実ー!大丈夫?」
「どうしたの!?そんなに心配なの!?」
「何か苦しい?」
ここにいる人たち……少なくとも同じ生徒会メンバーは佐南さんを心配し、信頼し、大切に思ってる。
それを見なかったのは、佐南さんが悪い。恋は盲目だったとしても、周りを見れば簡単だった筈だ。
いや、人間は主観で生きるものだからそれは難しいのかもしれない。今だって佐南さんは、罪悪感やら良心で周りが見えてない。というか、聴こえてないだろう。
「あの…!責任をおう必要は…ないです…!」
そう、誰かが責任をおうことはない。
「何故なら…!」
そして、佐南さんが責任や罪悪感や悲しみを背負うこともない。
「何故なら、そもそも書類を無くしてませんから」
佐南さんの言葉を被せるようにいい、ランドセルの別のポケットから本物の書類を出した。
茜が大人っぽく考えているのは、必死で心に保険をかけて、傷つかないにしてるんです。
実はそれなりにショックで、周りの目が無かったら泣いてました。




