第40話 赤城。茜と再会
俺はオーケストラの打ち合わせが終わり、急ぎ足で東校舎の会議室に向かっていた。
「茜に会いてぇ…」
気がつけば無意識に願望を口に出していた。近くにいると思うからこそ、茜に会えないいというのは結構な打撃で、若干禁断症状が出ながら、廊下を急いでいると…
「はぁ~やっと終わったよ……」
廊下をトテトテと歩く無防備で危機感のない天使がいた。
「よし」
ぎゅうぅぅうううう!!!
「ぶぎゅっ…!!」
最早あらゆる意味で限界だった俺はこちらに気づいていない茜を力いっぱいに抱き締め、抱き上げ、終いにはクルクルと廻った。スゲー柔らかい。スゲー冷たい、まるで死体だ。しかもスゲー軽い。
「離してください!目が回ります!内蔵的なもんがでるわアホ……ホンマにやめて……うぇ…」
ジタバタしていた茜が大人しくなったことに気づき、俺は取り合えず解放する。
「殺す…気…で……うぉえ…すか?」
「……(可愛い)」
腕の中でグッタリしている茜を見て、再び抱き締め、頬擦りをしまくれば、流石にキレた茜に肘鉄をくらいかけたので、少し反省し茜を地面に下ろした。
「悪いな、色々と限界突破してしちまった。大丈夫か?」
「頭痛いですよよ……」
絵文字表わすなら、(/´△`\)な感じの茜。しかし、数秒すると立ち直ったようで、元のポーカーフェイスに戻った。
俺もキリっと、会長モードになる。
「それより赤城さん、打ち合わせはどうだったんですか?」
「ん?あぁ、あっちもプロだし、スケジュール的な問題やギャラ的な打ち合わせだったんだが、でも、あっちから『俺/私たちは貴方に従います!』って言ってくれたから早く終わらせた。」
「流石の赤城さんだ~」
若干、遠い目をされた。
「茜はどうなんだ?会議は大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫ですよ。今一段落して休憩です」
小学生の茜が高校生相手に会議が出来るか心配だったが、茜は頭の使い方が小学生にしてはいい方なので最低限のことは出来てるのだろうと安心する。
それでも心配はあるのでいっそ、水城かカズラ辺りを忍ばせようか……
「だから、私はジュースを買おうと思い……アレ?」
茜は近くの自動販売機に行き、小銭を入れようとしていたが、小銭を入れる場所がないことに気づき、首をひねる。
「あぁ、これはカードしか入れられないんだ」
元々、特待生や奨学生が気軽に使えるように設定した自動販売機だ。
しかし、それにハマったお嬢様や坊っちゃんが大量に買い占めだしたので、今は数量限定になっている校内限定カードで無ければ買えない。
ピッと、カードを照らしどれが欲しいかを聞く。
「コーヒー。ブラックでお願いします」
余りにも小学生らしくない注文がきた。
「あ、そのヒヨコのストラップがついてる奴です」
と、指をさしたのは何故か可愛らしいヒヨコのストラップがついてるコーヒーだ。
「わかった」
取り合えず、ボタンを押すと、茜は光の早さでヒヨコのストラップついたブラックの缶コーヒーを手に取り、ストラップを手にした後、勢いよくゴクゴクと飲んだ。
プハーと、可愛らしい音が茜から聞こえる。
「ヒヨコ、好きなのか?」
そういえば、髪留めがヒヨコだなと思って質問したが、茜は無表情で「別に……」といった。
「はい、返します」
茜は右手でギュッと握りしめていた小銭を俺の手に置いたので、俺は小銭を財布にいれた。
家宝にしよう。
「じゃあ、もうすぐ会議再開なので赤城さんも行きますか?」
「そうだな」
俺は賛同し、茜の後ろに歩きながら、財布から適当に万札を一握り取り出して茜のポケットにコッソリ入れた。
最初に茜に抱きついた分や頬擦りした分、後、どさぐさに紛れて頬っぺたにキスした分とか我慢できなくなって胸を少し触った分だ。
一瞬、援助交際をしたような気分になって若干後悔した。
そして仮に茜を金で買えるなら、いくらでも金を出して絶対に購入して、幸福してやろうとも思った。
「なんか今、スゴい寒気がしたんですけど」
「安心しろ、想像の中なら罪じゃない」
茜がまるで食される寸前のヒヨコのように一瞬だけビクりと体をふるわせ、さりげなく離れてしまった。
(それ以上離れたら追いかけて食うぞ)
隼人は動物で例えるならライオンとかチーターですね。




