第36話 ひきづられ
散々、お嬢様たちに弄ばれた茜を隼人は抱っこして救い、学校まで歩いていた。
「……もういいです、下ろしてください」
「もうちょっと位……って、おい!危ないから暴れるな!」
お嬢様たちの恐怖から解放され、冷静になった茜は、まるで赤ん坊のように片手で抱っこされている状態を嫌がり、無理矢理に下におりる。
「仕方ねぇなぁ……せめて手を繋いで歩くぞ。まぁ、冗だ……」
どうせ、断られるか嫌がられるだろうと思って冗談のつもりで言った隼人だったが……
「ん」
茜は、ピョンと小さい手を差し出していた。
色々と大人っぽい部分や冷めた部分があるために忘れやすいが、茜は小学生である。
手をつなぐ程度ならば恥ずかしさを感じないし、茜の担任は『みんな仲良し』をモットーにしているので、未だに男女で手を繋がせるようなクラスだった。
「……お、おう」
しかし、隼人はそれを恋人としての前進だと思った。んな筈ないだろバカだなぁ。
たかが手を繋ぐだけなのに、隼人は深呼吸を繰り返し、手汗を心配してズボンに手を擦り付けて、意気込んだ。
「よし、繋ぐか!!」
茜の手を握りそのまま歩き出し、茜もそれに合わせてトテトテと歩き出した。
「(スゲェ……手が小せぇ…ちょっと力をいれたら壊れるんじゃねーか?しかもちょっと軟らけぇ……)」
今まで女の経験はそれなりにあるのに、隼人は心臓が破裂するほどバクバクと酷使し、身体中に血液を送っていた。
「(これが…恋人なのか…)」
そんなことを知らない茜はトテズルと歩きながら質問する。
「そういえば、何で私の学校と合同とか言い出したんですか?」
茜の声で冷静さを取り戻した隼人は、平静を繕って答えた。
「茜と一緒にいたかった……あと、実は柚木小の創立者と聖火学園の創立者は一緒で、そこらへんの事も色々とな」
衝撃の事実に茜はおどろく。自分の学校の創立者は不明や謎となっているので、一つの謎が解消出来た。
ズル……トテトテ……ズル…
「うちの創立者は、道楽が行きすぎてる奴でな……確か暇潰しの為に小学校を作ってたっていってたなぁ…」
トテト…ズル…トテ……ズルズル…テト
「私の学校って、暇潰しなんですかぁ~…聞きたくなかった~」
まさかの衝撃の事実に茜は泣きそうになった。それなりに誇り……はもってないが、愛着はある学校が道楽では少し嫌なのだ。
トテト…ズル…トテ…ズルズルズルズルズルズルズルズル
隼人は、振り替えって茜をフォローしようとする。
「でも、今は完全に切り離されて……」
ズルズルズルズルズルズルズルズルズ……
茜が見えない……いや、倒れてたままで動いていた。
「はぁ!?」
思わず、隼人は目を見開き、足を止めて自分の手に握っている茜の手と倒れている茜を交互にみた。
腕力のせいで、気がつかなかったが、隼人は茜を引きずっていた。小学生と高校生男子では歩幅が合わず、結果として茜は引きずられしまっていた。
茜も頑張ってはみたのだ。最初は早歩きで対抗し、途中からは走ってもみたのだが、片手は封じこめられた状態で長時間走れる訳もなく、最終的に大人しくひきづられていた。
「痛いです」
「当たり前だ!」
隼人は急いで茜を抱き上げる。途中で茜は抵抗したが、隼人に背中をポンポンと叩かれ、渋々ながらも大人しくなる。
「まぁ、室内に入ったらおろしてやるから、それまでは待っとけ」
「……うん」
諦めて素直になった茜を心底可愛いと思いながら、赤城は頭を優しく撫でた。
「安心しろ、今日の会は挨拶程度だし本格的なのは追々だ……俺も一緒に出るから大丈夫だぞ」
この挨拶がどちらの意味を表しているのかは、分からないが、なんの偏見もない茜にとっては、隼人が一緒にいるという事実の方が大切だった。
「そういえば、赤城さんも実行委員長なんですか?」
「いや、生徒会長だ」
突然の真実に、茜はまたもや驚いた。




