第31話 告白
「あ、苦い」
赤城さんにキスをした後の私から出た第一声がこれだった。少しの苦さとタバコ特有の甘い香り……えっと、つまり……
私がキスしてしまったのは、赤城さんの唇でして……
あ、ヤバイ……これ自殺やわ……
「……コーヒーを飲んでいたからな」
赤城さんは状況が掴めない顔をしたままそういった。まだ、冷静にはなってないようだ。
「そうですか……」
何が、そうですかなのだろう。
いや、まだ赤城さんが冷静になってないなら後戻り出来る筈……
「茜……」
赤城さんが、私の方に目線を向けてきた。
まるで、自らよってきた頭の悪いバンビーを美味しく頂こうとしているライオンのようだった。
私の両肩をガシッと掴んだ。ヒッと、悲鳴をあげそうになる。
「俺、頑張るから……」
頑張るって何をー!?
アタフタしてきた私は、取り合えず食べていたケーキについてたフォークを赤城さんに向けた。
「ち、近寄るな!!ロリコン!!」
フォークの先で赤城さんの喉をぶっ刺そうとしたら、素晴らしき反射神経で赤城さんは後ろによけた。
「っ……あぶね~……キスしてきたのは茜だろ?」
首を傾げてそういってきた赤城さんに私は、頭がパニックになる。容量オーバーだ。
「違うもん!!キ、キスなんてしてへんもん!!さっきのは間違いで……」
「いや、完璧にキスしていました」
弁論しようとした私の言葉に聞き覚えのある中性的な声が被った。誰だ!?一体なんなんだ!?
「水城……」
赤城さんがポツリと漏らした……なんと水城さんでした…ってえぇぇ!?
なんでいるの!?いつからいたの!?どうゆうこと!?と、混乱していたら、何人か見覚えのある赤城さんの信者とカズラもいた。
何故かみんな、やっと両思いになっただの、式をあげようだの色々好き勝手にいってる。
「しっかりと、さっきの瞬間は納めましたので見てください」
そう言って、水城さんはスマホのフォルダを開いてドヤ顔で見せた。それは、紛れもなく私が赤城さんにキスをしているシーンだった。
タイムマシーンに乗って過去にもどり、今もっているフォークで自分をぶっ刺したい衝動にかられた。
「水城、後で送れ」
「勿論です」
なんで嬉しそうに笑ってるんですか貴方。え、何これやめて……
「まってください。違うんです。ちゃうんです」
「何が違うんだ?俺にキスをしたということは、恋人になってくれるということだろ?」
「いや、違っ……違わないこともないけど……さっきのは……気づいたらっていうか…」
気づいたらキスしてた。多分脳みそが若干溶けていたんだと思う。いや、でも違うんだ。
というか、まだ10歳の小学生に恋人だのキスだのそんなのは言わないで欲しい。告白は何度かされたことはあっても、受理したことのない純粋な子なんですよ。
「キスをしたってことは、つまりは隼人が好きだということなんでしょう?」
え、そうなの?そうなのかな?いや、私はぶっちゃけた話、かずま君が好きだと思ってたんだけど、それは違うのか!?
いや、キスという行為が特別であるということは理解できる。気持ちの悪い話、粘膜と粘膜の接触だから、好きじゃないと出来ないだろう。これがデブのブスだったら絶対にしない。
……助けて、私、頭が可笑しくなってきた。
「いや、そう決めつけるのは可哀想なんじゃないっすかね?ほら、茜はまだ子供っすよ?」
「黙りなさい」
「はい」
役に立たない従兄妹のカズラが助けようとしてくれたが、やはり役に立たないので、すぐに口を閉じた。
本当に役に立たないよコイツ。
「お前ら……一旦落ち着け」
パンパンパンと、赤城さんは手を叩いた。カオスな空間が一掃されていく。
私の心も少し落ち着いてきた。赤城さんはギラギラした目を辞めて、私に語りかけてきた。
「茜、もう一度いう。俺はお前が好きだ……付き合ってくれ」
多分、私はいま大きな大きなターニングポイントに立たされているだろう。この告白の答え次第で私の人生が変わるくらいに……
よく考えたら、なんで小学生の私がそんな事になってるんだろ……
選択肢が欲しいと嘆いたらことはあったけど、まさかこんな大きい選択肢をいきなり押し付けられるなんて思わなかった。
周りはとても静かで、店員さんも他の客もいないかのようにシーンと静まっている。
何もかも、状況は整っていた。
最初に、茜は隼人の告白を中断して、自分の我が儘に付き合わせてしまったという罪悪感がある。
次に、隼人に対する印象は良い方向へと向かっていた。自分の過去にけりを付けるために付き合ってくれたことに感謝している。
何より、茜はどういう心理状態であったとしても、キスをしてしまっているのである。隼人の唇にキスをしたという事実は拭えない。
「あの、えーっと……
よろしくお願いします」
茜は、この判断をしてしまった。
少しかえました。




