第30話 仲直り
そういえば、誰かに怒りを素直にぶつけたのは、一体何年ぶりだろうか?
「お父さんなんて大っ嫌い!!」
私は、気がつけば大声でそんなことをいっていた。子供の出来ないオカンにそのことをつけこんだ事とか、悩んでるオカンに酷いことをいったこととか。
「大人たちの事情に子供を巻き込むなよ!!勝手にそっちで適当に勝負しとけ!!子供欲しいなら養子でももらっとけよ!!こっちは幸せだったのに!!ふざけんな!!」
その他もろもろの不満が爆発した結果なんだろうけど、それでも私は理解してしまった。
あ、やっぱりどうやっても父を嫌えないんだ。
その事実は私にとって、結構、絶望的なことでもあった。
「はぁ……はぁ……」
「………」
一頻り叫んだが、父さんは何もいわない。私もそんな父を見ることは出来なくて、思わず顔を背けた。
「でも……オカンに……医者を紹介してくれたことには……感謝してる。
オカン……自分の子供が出来て…幸せそうやった……ちゃんと幸せやった…」
血の繋がらない子より、実子の方がいいだなんて考えはしていない。きっとオカンからしたら、私もお腹の子も変わらない愛をそそいでいるだろう。
まだ10歳の私は分からないけど、きっと実子が出来て、凄く嬉しかったと思うし、安心したのだとも思う。
もう私のせいで、親戚に厄介者扱いを受けることない。跡目争いなんて下らないことも起こらない。
私がいなくても、ちゃんとオカンは幸せになれる。
「茜……本当にごめんな……」
父は、痛いくらいに力強く私を抱き締めた。なんというか、凄くレアな体験かもしれない。
それなりに上手く行っている親子関係だけど、父さんの性格は最低だし、過去にそのせいで何度か刃物もったオッサンに刺されかけてたと思う。
そんな父に罪悪感を抱かせて、抱き締められる体験なんて、もうないんじゃないだろうか……
「ップ……アハハ…父さん痛いよ…」
私は思わず笑ってしまった。さっきまで確実に怒っていた筈なのに、ふと冷静になってみると、少し笑える。
「痛いくらいが調度いいんだよ」
父さんはそういって、私を再びだきしめていた。
「赤城さん、今回は本当にすみませんでした」
父の車で、家まで送ってもらった後、荷物をおいて、赤城さんの所へ向かった。
前に来ていた喫茶店で、赤城さんは優雅にコーヒーを飲んでいる。これだけで芸術的な価値がありそうで面白い。
「別にいいぜ、ただの親子喧嘩だろ?俺こそ拳銃で射とうとして悪かったな」
「……はい、それに関しては何とも言えないです」
銃刀法って言葉を知っているかの確認をしたかったが、怖かったのでやめた。
きっと知ったところでいいことなんて、一つもない。
「親子喧嘩は出来るうちにやっといた方がいいぜ」
「赤城さんは、喧嘩とかしないんですか?」
「一度殴り合いの大喧嘩をして、左腕複雑骨折とあばら骨2本折れてから、もう親父とは喧嘩しないようにしてる」
この人の家系は一体どうなっているんだ。というか、子が子なら親も親か……ヤバイ、この人の家マジヤバイ。
「だから……強くなりたかったんだ……親父に憧れて」
「……そうですか」
少し誇らしげに話す赤城さんは、少し可愛く見えた。
色んな人に色々な人生がある。赤城さんも理想の人間にみえて、ちゃんと挫折したことだってあるし、悔しい思いもしたことあるのだろう。
悲劇のヒロインを気取るのはもう辞めよう。
愛されていなかった訳ではない。恵めれていなかった訳でもない。ちゃんと守られてたし、愛されていた。
「……赤城さん…」
「ん?なんだ?」
再度、礼を言おうと思って呼んだ私に赤城さんは耳を傾けながら、コーヒーから口を離す。
わ~…綺麗な唇だな~なんでこんなにこの人って綺麗なんだろう?
私は前屈みになって、少しだけ背伸びをした。
ッフニュ
「……」
石のように固まった赤城さんをみて、自分が何をしたのかを認識した。
キス……しちゃってた。
「あ……苦い」
最初に出た言葉が、何故かそれだった。
ついにやっちゃった~…どうしよっかな……




