第26話 その頃の隼人
「茜は大丈夫か~?」
隼人は、屋敷の外で茜をまっていた。
日本昔ばなしに出てきそうな典型的な和風の屋敷で、回りの田舎風景と合わさって、まるでここだけ時代に取り残されたようである。
横に車をおき、時おり通りすぎる町の人に不信な目を向けられるが、ニコリと微笑めば顔を赤らめて何処かへ行ってくれるのを知ってるので、苦ではなかった。
時々、出てくる屋敷の使用人の人たちには観光客だなんだといったので、大丈夫だった。
「ヤベー、タバコ切れてきた」
茜の心配をしすぎて、無心で吸っていたタバコは切れ始め、車の中の灰皿も、携帯灰皿も気がつけばタバコの山が出来ている。
「(肺が真っ黒になってるだろうな……本格的に禁煙でもしようか……?いや、茜はタバコの匂いは好きだって言ってたしな……)
ここら辺でタバコとか売ってねーかな……」
「ここら辺にはない。車で30分かけての都心になるだろう」
「そうk………テメー誰だ?」
いつのまにか、横にいた男に隼人は目を向けた。
「……茜……?」
思わず、本当に無意識にいってしまった。
それほどまでに、茜にソックリなのである。
「(いや、違う。これは茜じゃない。茜はここまで手遅れな程目が腐ってないし、こんなに身長は高くない。こんな世界をバカにした態度じゃないし、こんな死神みたいな雰囲気の男じゃない)」
「私の娘を知ってるのか……
というか今、凄く失礼なことを言われた気がしたが……」
「気のせいだ……って、やっぱりアンタは茜の父親か?」
「そうだ。敬語つかえガキ」
そういって、男はタバコに火をつけた。
年は30前半といった感じで、茜によく似た美形だ。
しかし、一目で手遅れだと分かる腐敗している目と、まるで死神のようなドロドロした雰囲気が特徴的で、せっかくの美形が台無しだ。
「で?赤城財閥の御曹司さんが、こんなところで何してんだ?」
男は、まるで隼人を知ってるかのような口ぶりでそういった。
知ってるかのような、というより、知ってるのだ。
弁護士という仕事上、大企業に頼まれることは多々ある。何度か、合法的に目障りな幹部を消してくれという依頼もこなしていた。
勿論、その辺の事情を知っている隼人はうろたえない。
「義理父さんこそ、ここで何してるんですか?」
「誰が義理父だ?やっぱり気色悪いから敬語はしなくていい」
顔色1つ変えずに男は、早々に吸い終わったタバコを携帯灰皿に押し付けて、隼人の質問に答える。
「鶴美が、不安がってたからアレを迎いに来ただけだ」
鶴美とは、茜の母であり、男の妻である。
迎えに来たと言えば、聞こえはいいが、隼人には迎えに来たというより、連れ戻しにきたと言ったように聞こえた。
事実、男は話が終わったとばかりに門の中に入ろうとしている。
隼人は、男を引き留めなくては。と本能で思った。
「まてよ、茜はまだ母親にあってないかも知れないだろ?」
男は屋敷の中へ入ろうとする足を止めて、隼人に向き合う。
「アレの母は鶴美だ、それ以外はいない」
「茜にとっては、ここの人も母親だ」
「……」
ギロリと、男は隼人を睨み付けた。それはきっと、触れてほしくない部分だったんだろう。
「鶴美が心配しているんだ、アレが帰ってこないかもしれないってな……
もう行っていいか?アレを迎えにいく」
「茜を『アレ』呼ばわりすんな……オッサンの娘だろ…」
まるで、物や道具のように呼んでいる男に隼人は苛立った。
「鶴美の娘だ、俺にとっては……
アレは鶴美の精神を安定させる道具でしかない」
それをいった瞬間、隼人の拳が男を襲った……
はい、やっと茜の父さんが登場しました!
この人は、ハッキリいって妻に対してヤバイ程の愛情をもってます。
結構酷いことは言ってますけど、普通の生活では茜との仲は案外いいですよ~。




