第25話 オカンの暴走
水の中で籠城しようとしたら、オカンに両手ですくいあげられ、そのまま和室に放り込まれ、オカンは走ってどこかへいった。
「体が冷ている!!取り合えずタオルを……」
相当焦っていたのだろう、障子をスパーンと勢いよく開けて戻ってきたかと思ったら、タオルが大量に入ってる竹籠を私の上で逆さにしたのだ。
大量のタオルが私の上に降りかかる。
「うぇっ……!!」
その重さに私が潰れそうになってしまう
天使の羽のようにフワフワとした柔らかい素材。ほんのりと香る桃のにおい……だけど死にそう助けて。
「凍えて死んでしまうじゃないか!!もうちょっとタオルを……」
いらん!!そんなんもういらん!!死ぬ!体冷えて死ぬ前に圧死で死ぬ!!
私は、それを伝えようと手をだしていう。
「落ち着きぃや…もう十分じゃけぇ」
「それは狸の置物だ、茜よ……」
そりゃタオルで視界が見えへんからな
パニクった母はようやく冷静さを取り戻し、ゴホンと咳払いをした。
「……取り合えず、浴衣は合っているか?」
「ちゃんと合ってるよ。ありがとう」
そして、6歳のころの浴衣のサイズがまだ合ってることに若干の絶望を覚えるよ。
「うむ……か、変わりはないようだな茜よ……」
「まぁ……はい、一応は……」
………
沈黙がずっと続いている。気まずい。本当に気まずい。
しかしながら、オカンは本当に綺麗だ。中性的なキリっとした顔、キメ細かな肌。
日本の美しい女性代表といえるくらいの綺麗さだ。
けれど、綺麗な長い黒髪が消えている。
「あの……髪、切ったんですか?」
「一時、仏門に入ろうと髪を剃ってな……結局、和人や周りの人間から止められたがな……千秋に至ってはビンタされた」
私のいない間に何があったんだ……和人と呼ばれている関西弁のオトンが必死で止めてたのが想像できる。
「そういえば、今日は何故……あぁ、そういうことか……」
ん?何がそういうことなの?
オカンがキョロキョロとしていたが、すぐに何か覚悟を決めた顔をした。
すごく嫌な予感がする。
「そうか……大丈夫だ、私も武家の子……!覚悟はしておる」
バッと、上の浴衣を脱いで綺麗な肌が露に……めっちゃ嫌な予感しかしない。
「散りぬべき 時知りてこそ世の中の 花も花なれ人も人なれ」
歌うようにそう言った後、滑らかな手つきで小刀を自分の腹に…ってうぉぉおおい!!!
「Gajdaオカjm577だめJtmj!!!!」
パニクり過ぎて意味の分からない、宇宙人のような声を出しながら、私は体当たりをして、その拍子に落ちた小刀を放り捨てた。
「何をするのだ茜!!」
「それはこっちのセリフや!!何してんねんオカン!!アホちゃうか!?」
「何って……切腹をしようとしただけで……」
「Want?ここは日本や!!Japan!!現代!!OK!?not切腹!!you see?」
「ワックス?……湯しー?…」
本格的に使い物にならなくなった私の言語能力にオカンもちんぷんかんぷんの顔をしている。
「茜は、私を殺しにきたのだろう?しかしながら、茜に罪をもたせるのは嫌故に、こうして切腹を……」
「オカン!あんた頭大丈夫か!?」
あぁ、忘れていた。オカンは思い込みの激しい人ってことを……
どうしたもんかと、考えていたら、不意にオカンが黙って俯いた。
「オカン……?」
フルフルと、体を震わせ、滴がポタポタと落ちて畳が濡れる。
……オカンが泣いていた。
「すまない……すまない茜……私が全部悪いんだ……何もかも私のせいだ……私は愚かで浅はかなんだ……」
こんなオカンを私はみたことがない。
ポタポタと涙を流して、今にも死にそうなオカン。
「そんなことないよ。オカンは愚かじゃない」
泣き崩れたオカンを私はずっと抱きしめていた。




