第22話 好き
もっと、なんていうか……確信に迫った言葉とか言われると思ったのに、聞かれたのがこれだった。
「茜…ちゃんとご飯は食べてるのか?」
「……え?」
正直、いきなり何を言ってるんだろうと思った。
嫌々、突拍子が無さすぎでしょ。
冷房の効きすぎで、寒気を起こした私の両手を膝の下の体温で温めながらきく。
「いきなりなんですか?」
「いや…体格的に、5年生にしては余りにも小柄だと思ったんだ」
まぁ、私はたぶんとても小柄な部類に入ると思う。
未だに低学年に間違えられるし、下手したら少し大きいだけの幼稚園児にも見えるだろう。
「前に隼人さんに鍋に連れて貰ったんですから、ちゃんと食べてますよ」
「それ以外食べて無いってことか?」
「……ちゃんと食べてます。食べさせてもらってます。一杯『食べて』ます」
母に変な疑惑があっても嫌なのでちゃんと訂正する。
これは単に私の好みの問題なのだ。
基本的に、肉を除きアッサリした和食を好んでる私にとって、母の洋食重視のご飯は少し重い。
味も、不味い訳ではないのだが何故か時々、砂の味がするのだ。いや、実際に母が砂を出してる訳ではない。
「ちゃんと母は栄養を考えてますし、『周り』からしたら美味しいご飯ですし……ちゃんと『食べて』ます。この体型は、単なる個人差ですよ」
「お前自身は美味しいと思ってんのか?」
美味しい、美味しくない以前に、味が分からない時があります。
「まぁ、美味しいですよ」
目線をそらして、私はいう。
母の料理は不味くはない。とても美味しい部類だ。
何より、食べなければ母はすごく悲しむ。
「もしかして吐いてないか?」
ガシッと腕を捕まれた。
「離してください」
「何で俺が、『ご飯食べてるのか』と聞いた瞬間に手を隠した?」
「冷房が効きすぎて、手が冷えたからですよ」
「手を出せ」
赤城さんが大きな手が私の貧弱な腕を包んで、優しいながらもグッと引っ張られ、観念して手を出した。
それを見た赤城さんが、やはり……という目をしていた。
「……」
吐きダコだ。
人差し指と薬指についているタコ。
固くなっては、歯で潰してたので、少しグジュグジュになっている。
いっそ見せていればよかったかもしれない。それでいて、バレーをしてるとか、変なペンダコがあるとかそんな話をしてればまだ説明になったのかもしれない。
いや、赤城さんはそれで納得してくれないから赤城さんなのだろう。
「吐いてるのか?」
「……」
「どういう行為か分かってるのか?」
「……別に……死ぬわけじゃないし……」
たかが吐きダコだし、吐くのだって、別に死ぬわけでも、悪い訳でもない。そう思ってたら、怖い顔をされた。
「死ぬんだぞバカ!!」
いきなり、赤城さんが大声をだし、私はビクりと震えた。
「いいか!?このままだと摂食障害や味覚障害にだってなるし!栄養失調で死ぬかもしれない!!大体、今の子供の時期に栄養を取らないということは自殺に等し……」
「うっさいなボケ!!どうでもええやろ!?黙っとけや!アンタは私の保護者か何かなん!?犯罪一歩手前のロリコン男!!
メシが不味いんやーからしゃーないやろが!」
正直にいうと、私は母の料理が苦手だ。
朝に作ってくれるアップルパイも、色々な工夫をしてくれるシチューも、グラタンも、何もかもが嫌いだ。
「それを母にいったことはあるのか?」
「何で言わなきゃあかんのですか?母に何の問題もないんですよ。言ったところで何も変わらないんです」
母には何の問題もない。世間からしたら美味しい料理を作ってるだけだ。問題があるとすれば、私の方なんだ。
「ちゃんと言えばいいだろ、言わなければ分からない」
その言葉に、私は自分の中でブチりとキレた。
「うっさい!あんたは何なんやねん!アンタは親やないんやから首突っ込まんといてよ!!そういうところが大嫌いやの!素直でいれば、素直に好意を向ければ、それでいいと思ってるところが大嫌い!!」
そう言ってキレた私を赤城さんは、何だか心配そうに、されど安心したかのような顔をした。
「やっと……本音をいってくれたな」
あ……と、私は自覚し、思わず口を手で隠す。
「茜は、本音を全然いわないで、一人で自己完結するから……あの時、『大嫌い』と言ってくれたのは正直、安心した」
まぁ、すごく悲しかったがな。
と、苦笑する赤城さんは、まるで兄か親のようだった。
なんで、この人は私をこんなに気にかけてくれるのだろうか?私が一体何をしたというのだろうか?
「なんで赤城さんは、私のことをそんなに気にかけてくれるんですか?」
気になってるけど、今まで聞かなかったこと。
何となく、わかってるけど、正直聞くのが怖くて、何か裏があるんじゃないのかなって……
私のことを友達と言って好意を向けてくれた子達に後で嫌悪を向けられることなんてよくあった。
優しかった先生が、クラスのイジメ事件の責任を私に擦り付けることもあった。
あの母でさえ、普段は優しくてフワフワしてるのに、突然『本当は私のことを恨んでるでしょ?』『若菜家と私、どっちがよかった?』と卑怯な質問を執拗にせまってくる時もあった。
だから、好意を向けられることも好意を向けることも怖かった。
けれど、赤城さんはそんなの知ったことじゃないとばかりにいった。
「茜を愛してるからだ」
何のへりくだりもない、直球の言葉。
「好きだ……
だから、俺の恋人になってくれ」
よく考えれば、隼人は『恋人になって』と言ったことはなかったですね。
茜は好意と嫌悪を本人とは関係のないところで向けられすぎて、恐怖症です。
因みに、彼女の関西弁は兵庫弁です。




