第21話 質問
目の前にいる、血まみれの猟奇的な美形は、何もおかしくないとばかりにいった。
「悪いな、ちょっとシャワー浴びてたら遅くなったんだ」
問題はそこでは無い気がする。というか、なんでシャワー浴びたのに、血まみれなんだ。
「え…あの…えと……ごめんない。その……ごめんなさい」
最早、意味が分からなくなった茜は取り合えず謝る。何に対してかは分からないが、とにかく謝る。
「というか、二人で何してんだ?」
いや、アンタの方が何してたんだよと、二人は思ったが冷静になって客観的に見ると、カズラが茜を押し倒しているように見える。
「ちゃうねんです。茜が帰ろうとするののでば俺は止めようとしたんげばす。やましさなんてありませんです」
最早、言語崩壊している。
「そうか」
「はい!!あ、俺はこれから用事があるんで帰りやす!!」
「気を付けて帰れよ」
「はい!」
カズラは元気よく返事し、店内を出ようとするが、茜が凄い勢いで睨み付ける。
お前、私を見捨てる気か?
「(ごめん、俺も命が欲しいんだ)」
隼人と茜はテーブルに座り直した。茜は紅茶に大量の砂糖を入れながらも、血まみれの隼人に取り合えずいう。
「あの……通報されますよ?」
というか、店内拒否はされなかったのだろうと茜は思った。
店に客が少ないからと、猟奇殺人の犯人みたいな隼人が表れたら、流石に驚くだろう。
「(というか……客がいない!?)」
茜はそのことに気がついた。いくら何でも客がいなさすぎる。
この店は、それなりの人気店で、この時間帯ならば学校帰りの学生が沢山きてもいいはずだ。
そんな茜の疑問に気がついたのか、隼人はサラリといった。
「この店は買ったから大丈夫だ」
耳が可笑しくなったのかと思った。
「あと、この血まみれはファッションだ」
いくら何でも無理があるだろうと思った。
実際のところは、店にいく途中で敵対グループの襲撃にあい、全員を肉塊にしたときの返り血でそうなったものだ。
流石に茜にいうのは気が引けたのか、そんなことをいう。
「はぁ……さよですか……」
茜も余り関わっても不幸になるだけだと判断し、深く突っ込まなかった。
「あの……いえ、なんでもないです」
茜は何かを言おうとしたが、頼んでいたヒヨコケーキをウエイトレスさんがもってきたので、やめた。
「そうか?」
怒ってないんですか?と聞こうとしてやめた。
案外、ちゃんと会話が出来たことに少し安堵する茜。
想像では、怒り狂った隼人がいると思ったが案外隼人は穏やかだ。
外見的に問題はあるが、至って自然で、寧ろ優しいくらいだ。
よく考えれば、私が誰かに向けて嫌悪を具体的に表すのは、久しぶりだった様な気がする。
親戚に嫌悪されようが、大人の都合で家を移されようが、しょうがないと受け入れてたし、軽蔑してもそれを表に出さなかった。
なのに、何故赤城さんに対してはサラッと言えてしまったのだろうか……
そこまで考えてすぐに答えは出た……が、とてつもなく認めたくないので、少しの確認でもしよう。
「今からいう質問に答えてください」
「わかった」
「赤城さんは私が好きですか?」
「愛してる」
「私と恋人になりたいんですか?」
「なる」
うん、怖い。
真顔なのがめちゃくちゃ怖い。しかも回答が予想の斜め上なのが、めちゃ怖い。
けれど……それだけでもない。
「仲間は好きですか?」
「大好きだ」
「沙羅さんのことは好きですか?」
「好きだ」
「ふ~ん……」
正直にいおう……イラっときた。
いやさ、そりゃね。婚約者だったんだからある程度好きじゃないと婚約出来ないよ?
肉姉さんは、おっぱいデカイし、性格も悪い人じゃないし、おっぱいデカイし、つーかおっぱいヤバイし。
何回おっぱい言うつもりだ私よ……
うん、きっとさ、こういう好意を伝えることに素直で迷いがない部分がカリスマ性として発揮されてるから、周りは惹かれるんだろうね。
周りが赤城隼人を好きだから、赤城さんも皆を好きなのか、赤城さんが皆を愛してるから、皆も赤城さんが好きなのかは分からないけどね。
「質問に答えてくれてありがとうございます」
ヒヨコケーキに店で備えているタバスコを全部かけて私はやけくそ気味に食べる。
それでも何か物足りなくて、隣の机に備えているタバスコを一気にかけて、赤のヒヨコにして食べる。
すると、赤城さんに話しかけられた。
「茜……俺からも質問していいか?」
コクりと私は頷く。
一体、なんの質問をされるのだろうか?ついに大嫌い発言のことだろうか?それはちょっと嫌だなと思った。
「茜…ちゃんとご飯は食べてるのか?」
「……え?」




