第17話 とあるモブ視点
俺の名前はカズラ。
赤城 隼人がリーダーをしている不良グループのしたっぱだ。
最近、アニキが荒れている。
いや、元々荒れている人だったけど、最近は結構大人しくしてた筈だ。
というか、昨日までご機嫌な人だったのに、今は何もかもを怖そうとする勢いで暴れている。
「あ、あの……水城さん。アニキは一体どうしたんすか?」
あの冷酷な目をしていて、敵対するグループを狂ったように笑いながら暴れまわるアニキに話しかける勇気なんて無いので、まだ話せそうな水城さんに話しかける。
「茜という少女に、大嫌いと言われたそうですよ」
女子のショートカット程度に伸びているサラサラの髪を弄りながら、淡々と水城さんはいった。
実は尾行をしていたらしく、その場面をみていたらしい。
いきなり、唐突に大嫌いだといい放ったらしい。
「本当は今すぐにでも隼人を侮辱した罪で、彼女の家を消滅させてやりたい所ですが、隼人に止められたんです」
何やら不穏な言葉をサラリといった水城さんが、とてもとても怖いです。
でも、まぁ……何となく予想はついていた。
大嫌いだと言われはしないまでも、アニキは茜ちゃんと結ばれることは無いだろうと考えていた。
「それにしても、何で彼女はあの場面で大嫌いだと…」
「溜まっていた劣等感だと思うっすよ」
茜ちゃんは、冷たいように見えて、他人なんてどうでもいい様に見えて、実は結構気にしていたりする。
まぁ、家庭環境もあるんだと思う。
彼女の家庭は多分、理想的で幸せを絵に描いたものだが、どこか、おままごとのような場所だ。
それに、最終的に理想で幸せな環境になっただけで、最初っから幸せだった訳でもない。
そして、幸せなのは環境だけであり、彼女は幸せじゃない。
「(なんて言ったら、茜ちゃんはキレるだろうな~)」
頭がいい茜ちゃんは、自分の環境が恵まれたもので、どれだけ恩義があるかをちゃんと理解してる。それ故に、幸せに思えないのは自分のせいだと攻めるだろう。
「随分と彼女を理解しているみたいですね」
「まぁ、従兄妹っすから」
「……は?……」
水城さんは意味が分からないといった顔をした。水城さんのデータに、俺と茜ちゃんが従兄妹であることはないのだろう。
まぁ……『広い範囲』では従兄妹になる。
昔、まだ茜ちゃんが如月では無かった頃は一応は従姉妹だった。
「あ、気にしないで下さい。それより、アニキがすげー血塗れなんすけど、大丈夫っすか?」
「アレは返り血だよ。本当は僕が隼人に返り血を浴びせないように配慮するんだけど……」
言い淀む水城さんの心情はよく分かる。
最早、獣どころか化け物状態のアニキに近づくのは、自殺に等しい。いや、仲間を傷つける人ではないので、いつもはその辺の心配はいらないが、今はちとヤバイ。
敵対グループは、多分死んでるんじゃないかとさえ思ってきた。
しかし、ついに一人となってしまう。腕は変な方向に曲がり、顎は歪な形となってガクガクしている。
「ぁあ?テメー何生きてんだよ?さっさと死ね」
アニキは冷たい目でそういいながら、髪の毛を右手いっぱいにつかんで思いっきり引き剥がした。ベリベリと嫌な音が聞こえる。
地肌ごと引っ張られ、血飛沫が散した。
多分、軽く指でつつけば血の膜は剥がれて脳みそが出ると思う位に『ベリベリ』だった。
それを理解したらしい男は、断末魔の叫びをあげながら、目を真っ白にして倒れた。
「……あの人、生きてますかね?」
俺の問いに水城さんはスマホを弄りながら答えた。
「大丈夫、今僕の家の救急部隊を派遣したから死ぬことはないよ」
いつも思うけど、この人の家は何をしているんだろうか?
「それより、隼人を何とかしないとね。まぁ、どんな隼人でも素晴らしいけど、隼人の体が凄く心配だ。ずっと喧嘩をし続けたら疲労がヤバくなるだろう」
この人の頭の中は、アニキしかないのか?
腕を変な方向に曲げてる男や、足がブラブラになってる人や、頭から血を流してる人より、アニキの疲労を心配するとか……
少し呆れそうになった時……
「アニキ!!如月から連絡がありました!!」
一人の仲間が、アニキのスマホを持ち出して表れた。
「返せ」
アニキは瞬間移動を使ったかのように、コンマ一秒でそれを奪って、録音再生ボタンを押した。
ッピ
『茜です。この前のカフェで待ってます。来れないなら大丈夫です』
カズラ
赤城を尊敬してはいるものの、一応常識人のレベル。
茜の役立たずな兄的存在。
一応は従姉妹だったが、現在は接点が少ない。顔を見れば思い出す程度に茜はカズラを忘れている。




