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第96話 涙

「出て来いクソガキャぁアア!!」


鬼である優人さんが近くに落ちていたであろう鉄パイプを振り回して倉庫内を荒らしながら私を探す。


私はというと、小柄な体格を生かし死角になりやすい場所に移動しまくって隠れている。


「(でも…コレ、あまり時間ない)」


最悪なことに私は左足を多少捻挫している上に肋骨の1本は絶対に折れている。


しかも更に最悪なことに……血液が出てしまっている。


「誰が哀れだ!?ふざけてんじゃねーぞ!」


そうこうしているうちに優人さんが近づい……ってきゃぁあああ!!


鉄パイプが近くに飛んできた!コイツこの野郎、ヤケクソ起こして適当に振り回してやがる!


「…っ…!?」


驚いた私は危険だと判断し、思わず飛び出してしまう。



それがいけなかったのだろう。



「みーつーけーたー」




優人さんに見つかった。

それに気づいた時には既に優人さんが目の前におり、肩をつかまれたと分かった1秒後には組み敷かれてしまった。


「ッグゥ…!」


背中と頭がおもいっきり床に当たり、鈍い痛みが生じる。


そして目の前に広がるのは倉庫の天井と正気を失った優人さんだ。


あぁ…怖いな…なんて冷静に考えているうちに優人さんは私の胸ぐらを掴んで叫ぶ。



「お前だって『子供』ってことをいい訳にしてんじゃねーか!」




あぁ…いわれた。


グワングワンと優人さんは私をゆする。私も人形のようにゆすられる。


優人さんは私の胸ぐらを掴んでゆすり、支離滅裂な言葉をつむぐ。


「子供だから何も出来ません?ふざけんな!!周りに助けてもらうことを前提に生きている子供が!何も出来ない子供が!その癖に大人ぶって!子供ってだけで…お前は…」


……


「もういい…俺はお前をボコる!そして赤城に死ぬ直前になったお前を見せて、そして…」



「そして…どうなるんですか?」


私は問う。そして一体どうするのだと。


まるで子供に問いかけるように、出来るだけ優しく聞く。



「私を殴って……私を排除して…もしくは私を利用して赤城さんを止めて…それで…それでどうなるんですか?」


そんなことをして、優人さんはただじゃおかれないだろう。


本末転倒もいいところだ。離れたくないのに、離れようとしているのだから。


「……」


優人さんは黙った。まるで答えようの無い意地悪なクイズを出された子供のように黙った。


そしてふと…私の頬に生暖かい液体が伝った。


その液体の出所に手をかける。


「優人さん…泣かないでくださいよ」




「みっともないって笑うか?大人が…泣きやがってって…思うか?」



「思わないです。友人と離れたくないと思って泣くことに大人も子供もないです」


誰だって別れは寂しく、出来ることならとめたい。


理解出来なくて泣く事だってあるだろう。それをみっともないとは思わない。


私は袖口を引っ張って優人さんの涙を拭うが、どういう訳か頬に伝う液体は消えてなくならない。



「ッハハ…お前も泣いてんじゃねーか」



優人さんが嘲笑した。


あぁ…そっか…。




「私…泣いてるんですね」




私も、普通に別れが嫌な子供なのだ。

もう少しだけ続きます。

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