第95話 バカじゃないの
「……っう……ガハ……」
熱い息と、生臭い血を吐き出して、私は目をさました。
目だけをギョロギョロと動かすと、使われていない倉庫のような場所であり、辺りは埃っぽい。
体育館程度の広さで、段ボールやらいろんなものが置かれている。
体を動かそうとしたが、どうやら紐で両手両足を縛られているらしく、寝転ばされているので動かない。
「これ……紐をとけても無理」
まだよく分からないが、胃へのダメージがとても大きく、指もちょっと変な方向に曲がっている。
さて、これは一体どういう状況だろうか。
父の私怨だろうか?あの父は人の不幸が密の味だから、ありえる。
赤城さんの私怨だろうか?あの人、不良のリーダーだから、敵対するチームにって……ありえる。
いや、それよりも……
「目が覚めた?」
優しい声が響いた。
まるで保育士のような、子供を安心させる暖かで心がポカポカと太陽のような声……。
しかし、この状況では心休まる訳かない。安心出来る訳がない。
けれど、何処かで聞いたことのある声だ。
私は暗闇で見れない彼の顔を見るために必死でジックリと見つめた。
雲にかかっていた月でも出てきたのか、ボンヤリとした黄色の光が枯れに徐々にかかった。
しかし、そこに現れたのは予想外の人物であった。
「……優人さん」
サラサラの黒髪、優しげな目、涼しげで整った容姿はまるで神話に出てくる天使のように優しく美しかった。
優人さんというのは、赤城さんの右腕であり、彼が率いているチームの二番目の地位に位置する。
チームのメンバー全員、赤城さん信者であるが、それでも彼は飛び抜けて忠誠心が高い赤城さんのよき親友……
のはずなんだけど……。
「あぁ、痛いよね。今すぐ手当てしてあげるね」
優しげな声で優しげな手で、優しげに折れた指の治療始めた。そえ木を何処からか出し、それにそってグルグルと包帯をまきはじめる。
「あの……助けに来たって感じでは……ないですね」
もしそうならば、先に縄をほどいてくれるだろう。
しかし、優人さんは優しげにニコニコと微笑んではいるが一向に縄をほどいてくれる気配はない。
「うん、残念ながら助けに来たわけじゃないんだ」
「では……何故?」
「君を人質に……隼人に日本に残ってもらう為……かな?」
テヘッと可愛らしく舌を出して笑った。
ふざけてんのかと聞きたいが、ふざけている態度とは裏腹に目はギラギラと覚悟を決めた目だ。
覚悟を決めたと言えば聞こえはいいが、殺人を決意した人間や自殺者のそれに近い。
「っていうか……私……で……はぁ……残らせたと……しても……またちゃんとした関係を築けると思ってんですか」
息たえたえに言ってみたものの、彼は平然とニコニコと笑っている。
「思わないよ?……多分殺されるか……よくて追放だね。でも、白虎隊のことは変わらず率いてくれると思うんだよ。俺はそれが守られてさえいればいい。」
うっとりと……少しの罪悪感を交えながらも、それが本心のように笑っている。
なるほど、白虎隊のメンバーがいないと思ったらこの人の単独か。
彼はニコニコと笑いながら窓に浮かぶ月を眺めて語りだす。
その隙に私は自分の靴下の中をまさぐり、目当てのナイフを手に取って必死で縄を気づかれないように鋸のようにして切った。
「白虎隊ってね……君には分からないけど本当に大切なんだ……」
語りだした優人さんをしり目に私は必死で動かせる指を動かしてなんとか紐を切る。
非常用のポケットナイフなのでそれなりに時間が
「俺の存在を君を犠牲にしてもいいくらいにね……。白虎隊は本当に大切なんだ……これはみんなの為で、僕はその為なんだ……」
その言葉を聞いて、ピタッと私はヒモを切る手を止めた。
「バッカじゃないですか」
トンネルの中にいるかのように、私の声が面白い程響いた。
「……なん……だって……?」
優しかった声が、冷たいものへと変わり、それはまるで私の鼓膜を突き破ろうとするナイフのようだった。
「バカだと言ったんですよ。白虎隊の為?バッカじゃないですか。自分の為でしょうよ。本当は自分が離れたくなくて仕方が無いくせに……白虎隊の為なんて大義名分ふりかざして……そのせいで自分はいなくなってもいいなんて……バカ丸出しですね」
思いっきり笑ってやった。
けなしてやった。
あまりにも滑稽なのだ彼は。私と同じ……理由がなければ動けないから。
赤城さんの将来のことを自分の我が儘で潰したくない……けど、離れて欲しくない。大義名分が欲しい。
そんなもの、子供だけが考えることだと思ってた。こんな割りきれない気持ち、大人ならちゃんと割り切れると思ってた。
なのに、私よりも大人な彼が……私と同じことで悩んでいるのだ。
滑稽以外の何でもない。
「本当に哀れで……可哀想な人ですね!!」
歳をとっても、子供と同じ考えなんて、歳を取れば大人になれば全て解決出来るなんて……
そんなの、ただの幻想だったんだ。
「クソガキ!!」
優人さんは怒りで狂ったかのように顔を歪めて私の方へと近寄ってきた。
そして私は……
「……ってい!!」
隠し持っていたナイフを彼に向けて付きだした。
「……っ……!?」
思わず防御の姿勢に入った優人さんの隙をついて、近くにあった段ボールを彼の方へと蹴りこんだ後、倉庫の奥へと隠れるように走った。
「……っ……っ……このクソガキがぁぁあ!!!」
逃げられたことに気づいた優人さんは、化け物のような怒り狂った叫び声をあげた。
さて、鬼ごっこの始まりである。
長いこと更新してなくて本当に申し訳ございませんでした。
さて、恐怖の鬼ごっこスタートです。




