バレンタイン後編
「リカから聞いたんだけど、ようってなに?」
「…え!?」
カズマから、予想だにしない答えが返ってきて、茜は驚く。
一瞬、何が起こっているか分からずにポカーンとしてしまうが、すぐに検討がついた。
「(リカちゃん…勘違いしたんだろうな)」
小学生で好きな子といえば、同級…そうでないくても、同じ学年の子という考えに結びつくのは自然な事であり、更に言えば、茜が仲良くするのはカズマだけである。
以上の事をふまえると、リカが勘違いを起こしたのも、不思議なことではない。
「あのさ、それは…」
勘違いだったと言いかけて、止めた。止まってしまった。
持っているチョコを…渡してもいいのでは?と、考えてしまったのだ。
「ん?」
思案し始めた茜を、カズマは不思議そうにみるが、一応待ってくれている。
「えっとね…」
隠してあるチョコを手で触りながら、茜は更に考えた。
別に渡してもいいのではないか?と、今持っているチョコを渡して、隼人には市販で買ったのでもいいかもしれない。
そう考える程に…茜にとって、カズマとは特別な存在なのだ。
茜がまだ、容姿や独特の性格から、周りに孤立し、嫌がらせを受けていた頃、カズマはそんな周りの空気も読まずに、自分に話しかけてくれた。
正義感や、可哀想といった同情ではなく、『話したいから話した。遊びたいと思ったから誘った』と、断言してくれたのだ。
「(…もし、赤城さんに会わなかったら…)」
考えなかった訳ではない。
この気持ちが『そういう類』だったのかは、まだ幼く経験の少ない茜も…カズマも分からない。
だが、もしも隼人に会わずに、ゆっくりとこの気持ちを育てていたとしたら。
もしも隼人の気持ちをちゃんと断り、いっしょに過ごしていたならば…
「あ…あのさ!」
茜は意を決したように、鞄から何かを取り出し、カズマに手渡した。
「この限定版、ヒヨコ船隊ピョレンジャーのストラップが二つ手に入ったから、一つあげる」
そう言って渡したのは、ご当地キャラと融合した、ヒヨコのストラップである。
「マジか!?やったー!!」
それを受け取り、無邪気にカズマは喜んだ。
その笑顔に、自分はどれほど救われたであろうか、その無邪気さが…
「ねえ、カズマくん」
「何だ?」
茜は微笑をはりつけ、何処をみているのか、何も見ていないのか、分からない目で、しかしカズマを見据えて言った。
「ううん…なんでもないよ…また明日」
茜はランドセルを背負い、教室を後にした。
「はい、赤城さん」
ランドセルからチョコレートを取り出し、赤城に渡した。
「めっちゃ嬉しいマジで嬉しい。大好きだ茜こんにゃろう…!」
チョコを溶ける勢いで抱きしめ、泣く勢いで嬉しがっている。
そんな隼人を、物陰から見つめている白虎隊は、『俺たちの総長まじ天使!』と、熱烈な目で見ていた。
「赤城さん…」
茜はそっと、赤城に抱きついた。
「おいおい…どうしたんだ今日は…」
いつもならば、抱き付こうとすれば、本気で嫌がり、防犯ブザーを鳴らそうとし、それでも力技で抱きしめると、最終的に力尽き、死んだ目で睨みつけながら耳元で呪詛を呟く茜が、今日は自分から抱きしめてくれている。
「ん~…もうね、結果論として諦めようっていうか、私の脳味噌じゃ無理というか…うん、もう仕方がないかなっていうか…もういいや」
そんな事を言いながら、茜は力を込めて抱きしめた。
色んな過程はあったにしろ『コレ』を選んだのは、最終的に自分の意思であり、誰の責任でもない。
『コレ』を選ぶという事は、この年齢にして未来を決定付けるようなものであり、隼人はこれから先、余程のことが無い限り、茜を手放さずに、仮に本当に茜が別の誰かを本気で好きになったとしても、隼人は絶対に許さないだろう。
それを愛と言えば、聞こえはいいが…
そこまで、分かっているのかは、疑問ではあるが、彼女なりに全てを受け入れて、こう言った。
「赤城さん…好きだよ」
その言葉の意味を、隼人は分からない。
「俺も…大好きだ!」
茜を抱きしめ返し、隼人は最大級の愛を茜に注いだ。
茜の隼人への思いは、諦めに限りなく近いです。過程や仮定はともかくとして、好きになったんだから、仕方がない。って感じです。
カズマへの思いは、初恋もどきです。仮に隼人と出会わなければ、その思いを育てて恋になってました。多分、最も平和で幸せなルートです。




