第93話 ミカの説得
カリカリカリ
茜は自主時間を利用して、図書室を利用し、参考書を選んで、脳に叩き込んでいた。
その図書室は茜以外誰もおらず、ペンを走らせる
カリカリカリ……カリカリカリ
「どういうことよ」
静寂の音が止まった。
カリ……
手を止めて、声のする方向に、一体誰なんだよと、殆ど睨みに近い目で視線を向けた。
「ちょっ……!そんな、睨み付けないでよ、怖いじゃない!」
ミカかよ。
何故、ミカがここにいるのか、学校のセキュリティは一体どうやっているんだとか、色々聞きたいことは、あったが、茜それらを飲み込んで、また手を動かす。
カリカリカリ……
「だーかーらー!無視しないでってば!!」
バンバン!!と、机を叩かれ、ガタガタの文字が出来上がってしまった。仕方がないので、手を止めて、ミカのほうをみた。
「何ですか?」
「聞いたのよ、隼人がどうやら留学してしまうみたいじゃない。どうして止めないのよ」
「ミカさんは、赤城さんが好きだったんじゃないんですか?」
「……あんなの、見せられたら、諦めるしかないじゃない」
俯いて、悔しそうに、けれど、何処かスッキリしたような顔でそういった。
「そう、ですか」
「そうよ。だから、私が身を引いてあげたんだから、二人には結ばれて貰わないとダメなのよ。幸せになってもらわないと……ダメなの」
泣きそうな、駄々っ子のような、まるで、離婚の危機にある夫婦の子供が、必死で繋ぎ止めようとしているようであった。
「大丈夫よ、思いっきり隼人にすがりつけばいいの。行かないでって……そしたら、大丈夫よ」
あの溺愛具合ならば、二つ返事でOKするだろう。
若干、その後の茜の身が危ない作戦ではあるのだが、それぐらい捧げろとでも言いそうな様子だ。
「仮に……赤城さんに、行かないでって、言ったとして、それで留まってくれたとして、どうなるって言うんですか?」
「本当は……行って欲しくないですよ。思いっきりすがり付きたいですよ……行かないでって、それで留まってくれるなら処女を渡してもいいと思う程です」
お前たちは赤城隼人をなんだと思っているんだ。
そして、最も厄介なのは、本当にそうなってしまう可能性が高すぎることだろうを
「だったら……」
「でも、それって赤城さんの未来を潰すってことでしょ?そんなの……嫌です」
茜が思い浮かべるのは、不良軍団でリーダーをやっている隼人。生徒会長をやっている隼人。
全ての隼人が、とても格好いいと、今は思う。
隼人には、隼人の人生がある。
「だから、赤城さんを止める真似はしません」
まっすぐと、淡々とした目でそう言った。
彼女の覚悟は大きそうで、テコでも動かなさそうだ。
「…あ…う…言っとくけど!子供が大人ぶっても、可愛くないんだから!」
負け惜しみのように、彼女は叫び、図書室を後にした。
「別に私は可愛くなくてもいいですし……大人ぶってる訳でもないんですけどね」




