第8話 一体何がしたいんですか?
「ほら、あーん」
隼人に笑顔で促され、抵抗する気もなくした茜は素直に口を開いて食材を食べる。
「上手いか?一応肉はこだわりをもってるんだ」
「ええ、とても上手いです」
確かに、トロけるような柔らかさでありながら、ちゃんと歯ごたえがある肉はとても美味しいものであった。
ただ、難点をあげるならば普通に食べさせてくれないところだと茜は心の中で悲しんだ。
普通、鍋は嫌がる幼女に間接技を決め込んで、動けなくした上で、食べさせるものではない。
クーラーがきいていて、寧ろ肌寒かったのはこの為なんじゃないかと今ごろになって察した。
「ほら、こっちの肉団子も美味しいぞ!」
「(あたしゃ、赤ん坊か雛鳥か)」
頭の中で思い浮かぶのは、親鳥が雛に餌を食べさせる光景。
確かに茜は小柄で平均より体重は低いが、この扱いはあんまりなんじゃないかと思う。自分は赤ん坊じゃないし、雛鳥でもない。
そして、まるでこれは等身大の人形遊びのようにも思えた。抵抗出来ない茜はまるでおままごとに使う人形のようだ。
隼人が茜を女として、この行為に及んでいるのかもしれないが、それはそれで問題だ。
「よし、これも食べるか?」
次の食材を進めてきた隼人に茜は首をふる。
手で防ごうともしたが、生憎間接を決められてるので無理な話である。
「あの……赤城さんは、一体なにがしたいんですか?」
茜は常々疑問に思っていたことを聞く。
茜にとっては、隼人は自分に嫌がらせをしてくる、頭の可笑しい男だと思っている。
実際に脅しや嫌がらせに近いことをしたのは隼人本人ではなく、隼人の信者なのだが、茜にとっては同じこと。
「ん?なにがだ?」
しかしながら、隼人に茜の意図は理解出来ない。
勘違いしないで欲しいが、隼人は意外にちゃんと茜が好きである。変態でもなければ、ロリコンでもなく、相手に嫌がることをして喜ぶ性癖でもない。
流石に「アレ?これっていいのか?」と、疑問に思うこともあるのだが、そのたびに信者達が「いいんです」と肯定するために納得してしまうのである。
元々の独占欲の強さも関係してるのかもしれないし、実は元々こんな人間なのかもしれないが、周りの環境も確実に要因の一つだ。
「なんで、私にちょっかい出すんですか?」
もしくは、茜がちゃんと拒否を示さないのも原因の一つであるのかもしれない。
今だって茜は拒否ではなく、疑問を示している。
確かに、小学生の子供にとってあらゆる意味で大きい存在の高校生に逆らう、面と向かって嫌だと示す、等の行為は勇気が必要だということを考慮すればそれも仕方のない事なのかもしれない。
隼人は茜の問いに、自然に答えた。
「好きだからだ」
「(...は?)」
茜は一瞬、『何をいっとるんじゃこの男』と思った。
小学生の茜にとっての『好き』とは、友達に言われる好きや、母から言われる好きが殆どである。
一応、上級生や同級生にそういう意味で『好き』だと告白されることは何度かあったが、まさか高校生ほど年の離れている男に言われる等思ってもない。
もしくは、なんとなく分かってるが、心にくるのはトキメキや驚きではなく、純粋な危険信号なのだ。
「えっと...赤城さん?」
「ん?なんだ?」
茜は真意を確かめようと、隼人に目線をおくるが、やはり分からない。
うっとりと、慈愛やら情欲やら何やらが混ざり、純粋に可愛いから気に入ってるとも見えるし、異性として見られているようにも見える。
それは人の主観によって違い、経験の浅い...というか無い茜にとって判断はつけづらい。
ただ、本能と経験により安易に逆らえば痛い目をみると理解してる茜は…
「せめて、腕だけでも離してください。自分で食べます...えっと、一緒に食べましょう」
自分の中で、譲歩に譲歩をかさねてそう言うにおさまった。
「わかった」
意外とすんなり受け入れた隼人は、茜の腕を解放し、取り皿を引き寄せて食べ始めた。
茜はそれに安堵し、ホッとため息をついた。
最近、隼人がロリコンじゃないと言い張れる自信がなくなってきた………




