表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/279

新たな依頼(オーダー) 3

「おお! なんだ、てめえらも探検者だったのか」


 突然後ろから声がかかり、アストールは振り向く。そこには、下品な笑みを浮かべた男達が立っていた。首には包帯が巻かれ、布からは少しだけ血が染みついていた。それを見た瞬間にアストールは思わず叫んでいた。


「うわ、マジかよ! さっきのチンピラじゃねーか!」


 彼女かれがそう叫ぶのも無理はない。声をかけてきた男達は、今朝がた少女を襲っていた男達だったのだ。

 まさか、アストールも今朝出会った男達が探検者で、なおかつこの集会場で鉢合わせするとは思ってもみなかった。


「アストール!」


 メアリーが小声で注意して、腹部を肘で小突く。だが、時既に遅し。


「ああん!? 俺達がチンピラだあ? 列記とした探検者だっての!」


 アストールの叫びを聞いた男達は、更に気分を害していた。アストールはしまったと口を開けて、片手を口の前まで持って行くが手遅れだった。


「さっきは良くもやってくれたなあ? えぇ? 小娘よお!」


 アストールが打ちのめした男が、首筋を押さえつつ横柄な態度で近寄ってくる。

 こんな所に来てまでチンピラを相手にすること自体が時間の無駄だ。アストールとしては、正直に言うと関わりあいたくない相手である。


「……えーと、あんた達だれかしら?」


 明らかに惚けた態度を取るアストール。流石のメアリーも、それは無理があると、顔を押さえる。


「ええ!? 嬢ちゃんよ! お前に付けられたこの首の傷、忘れる分けねーよな」


 男はアストールの態度に、激昂していた。顔を彼女かれの前へと近づけて、唾がかかるほどの勢いで怒鳴りつける。

 アストールは面倒なのに絡まれたと言わんばかりに、右耳に小指を突っ込み、顔をそらしていた。


「それに、テメーのせいで依頼失敗してんだよ! しかも、かなりの大金のな!」


 探検者はクライアントから依頼をこなして、資金を稼ぐのが主流だ。一攫千金の財宝を狙って見つける事に憧れを持つ者も多い。実際にそれで地位と名誉と金を思うがままにした有名人もいる。だが、現実は違う。

 古代魔法帝国時代の遺跡などは、新生の100年の間に破壊しつくされ、金目のものはほぼ残っていない。そういう遺跡で財宝を見つけることなど稀だ。

 現実はこまめに護衛や討伐依頼をこなしていかなければ、探検者は収入を得られない。未開の地や遺跡の探検などは、滅多なことがない限りは行うことはない。


 そんな大切な収入源となる仕事を、今朝、アストールは彼ら探検者の依頼の邪魔をした。向こうからすれば、商売を邪魔した商売仇となる。アストールはそれに気付いて小さく溜め息をついていた。


「いやー、小さい女の子追いかけ回す依頼なんて、知らなかったし」


 アストールはここで引き下がったら負けだと、男の前までゆっくりと歩いて強気に言い返す。


「誤解される様なやり方したあんた達がわるいんじゃないの!?」


 アストールは逆に怒りながら男に強く人差し指を突きつける。横に居たメアリーは溜息をついて首を左右に振って見せていた。

 彼女かれの態度に男はいよいよ頬をひくつかせて、頭に血を昇らせた。


「このくそ小娘が! ちょっとこっち来やがれ!」


 顔を真っ赤にした男は、突きつけられたアストールの腕を強く荒っぽく掴む。

 アストールはこれを利用しない手はないと、内心ほくそ笑んでいた。


「きゃあ」


 わざと甲高い声を上げ、周囲の反応を探る。普段ならばどこぞの男達が近寄ってきて、こういう不貞な輩を打ちのめしに来てくれるはずだ。だが、アストールのそのヨミは浅かった。


 にやついてアストールを見る奴が殆ど、他は見て見ぬふりを決め込んでいる。

 ダメもとでアストールは、わざと全員に聞こえるように叫ぶ。


「い、痛い! は、離して! お願いだから!」


 それでも、周囲の探検者からは同情や冷ややかな視線が、送られこそすれど助けにくる者はいない。


(ち、誰も助けにくる様子はなしか……。やっぱ、探検者は面倒事に関わらねえってホントらしい……。仕方ねぇ……)


 極力、騒ぎを大きくしてどさくさ紛れに逃げようとした。だが、アストールのその目論見は、狸寝入りを決めた探検者達の前ではもろくも崩れ去る。

 かくなる上は、自らの実力で脅威を排除すること。流石にこの体格差までどうにかできる自信はない。


 力で勝負すれば負けが見えている。


 そこでアストールは最近特訓を行っていたエメリナとの徒手格闘術を使うことを決断する。基本的には自分よりも力の強い相手に対して扱う格闘術だ。相手の動きと力を利用し、流動的に相手を倒したり関節を固めて動きを奪う体術だ。


 とはいえ、アストールはこの手の格闘術は苦手としている。

 近衛騎士時代にも同じような近衛組手甲冑術という徒手格闘も練習はできたが、自分に合わないと練習はほぼ行っていない。彼自身は体格を生かした本格的な格闘術の方を好んで練習していた。


(エメリナと特訓はしたが……。できるかどうかはわかんねえ。でも、今は、やるしかねえ!)


 アストールは覚悟を決めて、握られた男の手に、もう片方の手を添えていた。

 エメリナには相手の動きを最大限まで利用することを、集中して考えろと教えられた。特に重要なのは力の動きと流れを感じ取る事。


 彼女かれはその場で男の手を持って、体全体を使ってその場で踏ん張る。同時に男の動きも一瞬で止まっていた。


「て、てめえ、抵抗すんじゃねえ!」


 男が思い切り力を入れてアストールの腕を引っ張ろうとした。その時だった。

 その力を利用して、体を前に移動させる。不意に軽くなった腕は、その出来事に対応しきれず、男は勢い余って体勢を崩しかける。それを機敏に感じ取ったアストールは、瞬時に男の手首を裏手に反り返していた。


 瞬時に男の手からアストールは解放され、そのまま男の手首を捻じりあげて関節を決めていた。そして、そのまま素早く、男の関節を持ったまま背後に回る。


(おっしゃあああ! 上手くいったああ!)


 内心歓声を上げながら、アストールは背後に回って片方の手で小指を握りしめて、反り返るように曲げだす。

 いくら体を鍛えていても、関節だけはどうしても鍛え上げれない場所だ。

 エメリナに教えられたことを純粋に実行し、簡単に大の男をねじ伏せていた。


「いででで!」


男はその場で膝をついて、悲鳴をあげる。

 周囲ではジュナルが杖を構え、レニがメイスを、メアリーは短刀を手に周囲を警戒する。即座に男の取り巻きがアストール達を取り囲む。


「はぁ、何で同じ奴に二回も囲まれなきゃいけないのよ!」


 メアリーは毒づく。


「あまりこのような所で魔法は使いたくはありませぬが、仕方あるまい」


 ジュナルはすぐに魔法詠唱を開始する。


 男達はそうはさせまいと、ジュナルに斬りかかろうとした。そこへレニがメイスを振るって、一人の男を入口の方へと吹き飛ばす。


 その小柄な体からは想像もつかない威力を持った一撃に、男達の動きが一瞬で止まっていた。大の男が子どもの振るったメイスで、外へと豪快に吹き飛んでいったのだ。そう、文字通りに宙を舞い吹き飛ばされた男は、外の石畳に豪快に叩きつけられた。


「僕も伊達に神官戦士プリーストしてませんからね! 痛い目見たい人は、かかってきてくれても構いませんよ」


 レニがそういうと同時に、ジュナルは笑みを浮かべて呟く。


「さて、詠唱も完了いたしましたぞ。レグブリーク!」


 彼の言葉と共に、周囲の男達は膝砕けとなって、その場に四肢をつく。


「ふむ上手くいきましたな」


 ジュナルは魔術が周囲の人々に影響を与えていないのを見て、満足そうに笑みを浮かべていた。そして、主人であるアストールに目を向けて、静かに頷いて見せていた。アストールもまた、ジュナルに笑みを返していた。


「まあ、これだけ実力差があるんだけど、まだ、やるつもり? やるっていうなら相手しないでもないけど?」


 アストールは小指一本で男を制御しつつ、優越感に浸る笑みを浮かべて聞いていた。周囲には情けなく四肢をついた取り巻きの男達が、二人を見上げるという異様な光景を呈している。


「ち、ちきしょう!! くそ女め、いつか、ぜってー、無茶苦茶にして、あいでで!」


 男がいい終えるよりも早くに、アストールは男の小指を更に強く捻じ曲げる。


「あらぁ、何か言いまして? 糞野郎」


 アストールは顔に満面の笑みを浮かべて、男の耳元で声を低くして呟いていた。


「私も暇じゃないの、判るわよね? これ以上イラつかせないでね。次怒ったら、マジで殺るから」


 アストールの呟きに男は、背筋に冷や汗をたらす。

 彼女かれの声音からして、それは嘘ではないと分かったのだ。


「わ、分かったから……、放してくれ」


 情けない声で懇願する男に、アストールは溜め息をついていた。

 彼女かれは男を拘束したまま、入り口までいくと、後ろから背中を蹴りつける。背後から蹴られた男は無様に地面にレンガ造りの建物から転がり落ち、石畳の上に叩きつけられる。

そんな無様を晒した男は即座に立ち上が『ると』アストールを睨み付けて言い放った。


「く、くそ! 覚えてろよ! この俺に恥かかせたこと忘れねーからな!」


 男は逃げるようにして、アストールに背を向けて走り去っていく。


「あ、あにきい、ま、待ってくれええ」


 その後を取り巻きの男達が追いかけて、集会所から出ていく。

 ジュナルは魔法を解いたが、その後遺症は少し続くらしく、男達の足取りはおぼつかない。そんな情けない一団を見ながら、アストールは呟いていた。


「ほんとに、情けない。そこらにいる三下のドチンピラね」


(て言っても、俺もあんなカスを倒すのに、仲間の力を借りることになるなんてな……。情けないぜ……)


 男の体であれば、仲間の力を借りずとも、あの程度の男達の数ならば、一瞬で殴り伏せていただろう。

 だが、今は女の体だ。ジュナルやレニ、メアリーの助けがあったからこそ、こうしてここに立って居られる。アストールは自分の手を、開いたり拳を作ったりして、改めて実感する。


(俺は仲間に恵まれてるな)


 仲間たちに感謝をしながら、アストールは腰に手を当てて走り去っていく男達を遠い目で見つめていた。



前回眠くて、改稿してた1000文字ほどが操作ミスでぶっ飛び、なえました。でも、今回は何もなく投稿できました。よかったよかった。


皆さんも眠い時はご注意ですよ(笑)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ