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死闘の開幕 2

 ガリアールの街では、事件があった事が嘘の様に人でにぎわっていた。


 露店が所狭しと道の両脇に犇めき合い、そこに群がる人、人、人。この時期になると、大闘技会を目当てに世界中の海洋国家からガリアールに人が集まる。

 それからも、闘技会の規模の大きさ、知名度の高さがうかがい知れるだろう。


 ただ、ヴェルムンティア王国内では、気に留められることもない。それは一概にガリアールが王国の唯一の国際貿易港でありながら、王国民がガリアールを嫌っている節があるからだ。

 その栄華に対する憧れと同時に、長年を一都市程度の領土で、一国家としてやってきていた事への妬みも含まれている。


 だからこそ、ガリアールは大きな港でありながらも、辺境の土地として見られがちであり、王国国民はさほどガリアールをよくは思わない。


「さあさ、安いよ! よってらっしゃい見てらっしゃい! 他の店よりも三割引きだあ」


 世界各地から集めたのか、露店商の広げた布の上には、ありとあらゆる髪飾りが並べられている。


「ガリアール名物カバギーブはどうだい!?」


 串に刺して炙り焼いた巨大な豚肉の塊を目の前でナイフで切って、ギーブと呼ばれる小麦粉を使ったパンに挟んだカバギーブ。見ているだけで涎がでてきそうになる。


「世界一強いと呼ばれている傭兵ヘクラトス、それに対してベヴェル兵百人一気に襲い掛かるも、ヘクラトスはものともせずにバッタバッタと斬り倒し……」


 人だかりの先には、時事の出来事の寸劇を行う一団などがあり、街は祭り特有の賑わいをみせていた。


「凄い賑わいねえ……。ヴァイレルの国王即位式典並に人がいるわ」


 メアリーはその雰囲気に圧倒されながら、周囲を見回していた。

 地方の村落出身とはいえ、いまやヴァイレルにいる騎士の従者だ。多少規模のでかい街の祭り程度では驚きもしない。だが、ここはその規模が別格だった。


「国際貿易港だもん」


 エメリナが誇らしげに言うが、その表情は今一つ浮かない。


「事件があったなんて嘘みたいだ」


 その横にいたアストールが、周囲を不思議そうに見ていた。

 あんな凄惨な事件が起きた後にも関わらず、ここの人々はそれを気にした様子もない。


「だから、余計にみんな元気を出してるんだと思うよー」


 エメリナはそう言って、周囲を見回す。

 街の活気は最高潮の盛り上がりを感じさせるほど、喧騒になっていた。

 事件がなかったかのようにふるまうのではなく、それを乗り越えるためにガリアールの人々は、自らを奮い立たせて商いを行う。


 それがガリアール人気質というものだ。


「ま、それよりも、だ。あの闘技場で明日、大会が行われるんだよな」


 アストールはエメリナに確認するようにして、目の前に威風を醸し出して建っている建物を見つめる。

 石造りの古風な闘技場はかなり大きい。古代の魔法王国時代より建っているというこの闘技場。この闘技会、古くは第三代魔法王クレサエルが奴隷を使って殺し合いをさせた事が起源だという。それが今だに続いているのだから驚きである。

 その円形の闘技場の入口には、完全武装のガリアール騎士が四人たっていて中に人を入れるのを拒んでいた。


「あの中に、死刑囚も入ってるのね……」


「そう、リュード達もね。ただ、もう手は回しておいたから、後は明日になるのを待つだけよ」


「そうなの?」


「ええ。私のツテよ」


 アストールが笑みを浮かべて円形闘技場を見る。その中では、様々な思惑が交錯していることなど、アストールはこの時、知る由もなかった。





「さあ、でろ! 出番だぞ」


 死刑囚達を入れていた牢屋の前には、完全武装したガリアール騎士が二十人単位で立っている。厳重な警備の敷かれた中、囚人たちは手枷をはめられたまま牢屋から出ていく。


「ちぇ! 結局、何もせずに終わりかよ。クリフ」


「別になにもしていないわけじゃないんだがな……」


 意味深に何かを匂わせることを、クリフは言う。


「公正に無実を勝ち取るチャンスだ。最大限に生かして、無実を勝ち取る。今はそれだけで十分だ」


 クリフの言葉に対して、リュードはその太い腕をぐるぐると回して肩をならす。


「ま、それもそうか。やるだけやって死ぬなら、まだ、納得は行くな。てか、本当に最後まで警備は厳重だな」


 牢屋から出たリュードは、わざと騎士に聞こえるように言っていた。

 だが、リュードの言葉に対して、騎士は誰一人言葉を返さない。


「さて、行きましょう。僕たちの実力を彼らに見せてあげましょう」


 コレウスがその後ろから声をかける。

 薄暗い廊下を突き進むと、リュード達と死刑囚は縦長な部屋に連れてこられていた。


「ここが貴様たちの控え室だ。武器は好きなものを選ぶがいい」


 二十人近い死刑囚達は、それぞれに武器を見定め始める。ある者は笑みを浮かべ、ある者は泣きながら、また、ある者は無表情のまま。そんな部屋にリュード達が足を踏み入れようとした時、三人だけが呼び止められる。


「おい、お前たち」


「あんだよ?」


 リュードが不機嫌そうに騎士に向き直る。コレウスとクリフもつられて足を止めていた。


「今回は特別な配慮だ。自分達の武器と防具を使っていい」


 騎士はそう言って、三人に付いてくるように言う。三人は怪訝な表情を浮かべながらも、その騎士についていった。


 そうして連れてこられたのが、縦長の部屋の隣にある小さな控え室だ。そこには長机が有り、丁寧に三人の装備が揃えられていた。


「ほほう、粋な計らいをしてくれるんだな?」


 クリフが笑みを浮かべると、騎士は無表情のまま答えていた。


「俺からできるのは、これくらいだ。生き残ってこい」


 騎士はそう言うと、部屋から出ていっていた。コレウスとリュードはその騎士の対応を見て、怪訝な表情を浮かべていた。


「おかしくないか? 俺たちを捕まえた騎士だぜ?」


「確かに、怪しいのは怪しいですね」


 訝しむコレウスとリュードに対して、クリフは笑みを浮かべる。


「さっきの騎士は若かった。多分、俺たちを悪役に仕立て上げたことに、反感を持ったやつだろうよ」


 クリフの言葉にリュードは感慨深くうなっていた。


「う~ん、ガリアール騎士も一筋縄じゃないってことか」


「そういうことだ」


 クリフは自分の短槍を持つと、柄から刃までの隅々まで点検する。

 槍に一切の傷みはないか、それを確認し終えると次はアーマーを見ていた。

 リュードもそれに倣って、自分の装備を確認次第しだしていた。

 そんな二人よりも早くに装備を整え終えたコレウスが、杖を持って真剣な顔つきをして言う。


「どうしたもんでしょうか。相手がどんな妖魔かわからないですからね」


「対策を立てようがないな」


 クリフとコレウスの悲観的な言葉に、リュードは一人明るい表情を浮かべていた。


「ま、何が来ようと関係ねえ。ぶった斬るまで。今までだってそうだったろ?」


 脳天気でありながらも、その裏には確かな自信と腕前がある。そんなリュードに二人は元気づけられて、笑みを浮かべていた。


「確かにな。それもそうだ」


「全く、いつも猪突猛進するのはリュードですからね。計画も何もあったもんじゃない」


 クリフが笑みを浮かべて、コレウスは首を左右に振っていた。

 リュードは背中に大剣を背負い、両拳を作って合わせる。


「人生、出たとこ勝負さ!」


 この逆境の中、リュードは笑みさえ浮かべてこの状況楽しんでいる。そんな姿を見て、今まで二人が精神的に、幾度も助けられてきたのも事実だ。

 だからこそ、この敵地のど真ん中でやってこれた。ただ、その分、問題も多いのだが、それは気にしてはいけない。


「さて、行くぜ! 二人とも」


 リュードは装備を整え終えて、控え室を出ていく。それに続いてクリフとコレウスも、決意を固めて控え室から足を踏み出していた。




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