表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
301/301

簒奪者 4


 暗雲立ち込めて暗くなった空の下、吐く息が白くなる昼下がりにウェインは外套を頭から被り、城門前で静かに佇んでいた。

 街の中の人通りは相変わらず疎らで、王都は活気がなく鎮まりかえっていた。


 ウェインはここ3日程城門前で張っているが、一度たりともこの門が動いたことはない。だが、この日は違った。


 これまで固く閉ざされていた城門が、突如として大きく口を開ける。

 そして、その城門から中に駐屯していたはずの近衛騎士達が、隊列をなして出てきていた。


(あれは、第2近衛騎士団か?)


 ウェインは出てくる一団を見据えて、幾らか見知った顔が有ることに気づく。

 

 第2近衛騎士団が城門より出ていくのを察知したウェインは、大胆にも城門に近づいていた。

 大規模な部隊が移動する時ほど、衛兵は気が散りやすい。


 案の定ウェインの近衛騎士のメダルを見た衛兵は、何も言わずに城門をすんなり通す。

 どさくさに紛れて外城郭内に潜入することに成功していた。


 ヴァイレル城の外城郭内には貴族達の住居があり、各所で王立騎士や城兵が立哨している。

 彼らの表情は固く緊張しており、そこからただ事でないことが起きている事を察する。


 ウェインは外套のフードをとると、そんな中を敢えて隠れることなく、堂々と歩きだしていた。

 ここでは顔を隠して歩く方が、逆に怪しまれる。


 暫く王城を目指して歩いていると、重要貴族議員邸宅と思われる家の前まできていた。

 そこでウェインは異常事態を目の当たりにする。


「やめろ! 私は無実だ! 今回の件には関与していない!」


 その議員宅から拘束されて、兵士に荒々しく連れ出される議員を目の当たりにする。 その顔は見知った顔だった。


 彼はトルア王の下で海軍大臣を担っていた者だ。北方貴族から選出されており、西方戦域では艦隊で兵士達を運び多大な活躍をした。


 そんな国に貢献した貴族議員が拘束されて、連れ出されているのだ。


 ウェインはそれを止めることも出来ず、ただ見送ることしかできなかった。

 それ以外にも、議員達が王城へと連行されていくのが見受けられた。


 ウェインは確信する。

 これは何者かが政権を掌握して、現在は政敵を粛清しているのだと。


 同時に彼は外城郭が閉ざされた理由を理解する。王位を簒奪した者が戒厳令を敷き、政敵を逃がさないための、言わば城壁を使った軟禁だ。

 だが、その首謀者が誰なのかは見当もつかない。


 万に一つにもハラルドならば、彼は王位につく事は決まっているので、クーデターを起こすメリットはない。


(一体何のために……?)


 ウェインは疑問を持ちつつ、近しい貴族がいないかを探して歩いていた。

 

 どこを見ても武装した兵士が歩き回っていて、とても事情が聞けるような状況ではない。


 そんな厳戒態勢の街を歩き回っていると、そこに一人の兵士が近づいてきていた。 


「あなたはウェイン殿とお見受けするが」

「如何にも」


 ウェインは少しだけ身構えるも、兵士はそれに対して敵意なく話しかける。


「すこし歩きましょう」


 近付いてきた兵士はそう促して、ウェインと共に歩を進める。

 二人は周囲の様子を伺いながら、街の中を歩き出す。


「私は先日の盗賊討伐で貴方の下で働いた者です」


 兵士の言葉にウェインは思い出す。

 先月のこと、王都から東に歩いて一週間ほどの所に拠点を置く盗賊達の征伐に向かったのだ。

 ウェインはその討伐部隊の一部隊の指揮をしており、その時に配下にいた兵士だった。


「あの時、君には助けられたな」

「いえいえ、それは私の方です。ウェイン殿は我らを良く鼓舞してくれました」


 兵士は少しだけ表情を緩めつつ、周囲を見渡していた。


 所々で貴族達が連行されていたり、かとおもえば、指揮官同士が笑顔で話をしながら路上を歩く姿も見える。

 そんな状況に合わせるように、ウェインと兵士は違和感なく会話を続けていた。


「ウェイン殿、現状貴族爵位を持つ者が出歩くのは、いくら近衛騎士といえども危険が伴います」

「どういうことだ?」


 兵士とウェインは歩きながら会話を続ける。


「ハラルド王が政権を掌握しようと、政敵を次々に粛清拘束しています」

「そうなのか?」


 自分の予想していない答えに、ウェインは唖然とする。


「ええ。ルードリヒ国務大臣のクーデターを阻止したものの、トルア王は死亡、代わりにハラルド王が王権を掌握しつつあるというのが現状です」

「あのルードリヒ国務大臣がクーデターだと!?」


 ウェインの取り乱しようを見て、兵士は怪訝な顔をする。


「知らなかったのですか?」

「私も3日前に王都に来たばかりなんだ」

「そうでしたか……。箝口令も敷かれています。くれぐれもこの事はご内密に」


 兵士からの言葉を聞いて、ウェインは頷いてみせる。

 ウェインはあまりの衝撃の大きさに、暫し言葉を口にする事ができなかった。


 既にトルアは死亡しているという衝撃と共に、ハラルドがそれに乗じて王権を武力で掌握しつつある事実。これは由々しき事態である。


 クーデターを利用して王位を奪取した上に、自分の近しい者を要職に就けるため、武力で徹底して弾圧していく。


 何よりもクーデターが起きた今、疑惑があろうとなかろうとクーデターの共謀者という疑いという免罪符の下、徹底して拘束、弾圧ができるのだ。


 それが終わるまでは、トルアは病に伏せているという事にしておけばいい。


 ウェインは動揺して逸る気持ちを落ち着かせ、兵士に話しかける。


「……ハラルド王は中々やり手だな」

「ええ、徹底しています。父親が死んだとは思えないほどの行動力です」

「まるで最初からこの事を知っていたかのようだな」


 ウェインはそう呟くと兵士を見ながら聞いていた。


「それで政権の掌握はどこまで進んでいる?」

「もう既に8割がた終わっています。今は政敵となる者の粛清をしているのみです」


 その言葉を聞いて、ウェインは深くため息を吐いていた。

 もはや、自分一人の力ではどうしようもない所まで事が進んでいるのだ。

 もう後一日もあれば、ハラルドは完全にこの国を掌握するだろう。


「君は怖くないのか?」


 ウェインは兵士に静かに聞いていた。


「怖い?」

「そうだ。これからこの国は大きく方針を変えることになるぞ」


 ウェインの言葉に対して、兵士は静かに答える。


「我々は上が誰に変わろうと、それに従うだけです」


 兵士としては完璧な解答で、実際、彼らはハラルドの手駒として動いている。


 昨日まで何も罪を犯していない者まで、クーデター共謀者という疑いのもと、一網打尽にされている。


 とても赦されるべき行為ではないが、ハラルドの強権的なやり口は、この切迫した状況では正しい方法でもあった。


 政権をスムーズに運営するなら、政敵は少ないに越したことはない。

 命こそ奪わねど、監獄に投獄するだけでその影響力は失われるのだ。


「因みに聞くが、どういった人が捕まってる?」

「は、ルードリヒ元大臣に近しい者を中心に、西方遠征で利益を得ていた者や、トルア王の忠臣でもハラルド様に敵対する議員といったところです……」


 王国一の忠臣による謀反、それがこの王国に与える影響は計り知れない。

 そして、その影響力がどこまで及んでいるのかは予想もできないのだ。

 ハラルドが反対勢力議員を片っ端から粛清している理由にも納得がいく。


「色々と情報をありがとう」 

「いえ、それよりもこれからどこへ?」

「本城に向かおうかと」

「今はお止めください」


 ウェインの申し出に兵士は彼を気遣って忠告していた。


「なぜだ?」

「あらぬ疑いをかけられて拘禁される可能性があります」


 兵士の言葉を聞いてウェインは立ち止まる。


「忠告はありがたいが、私も任務を帯びてここにいる。行かないわけには……」

「今お話した事では十分ではないのですか?」


 兵士はウェインを心配しつつ問いかける。ウェインはふと少し冷静になって考えた。兵士からはグラナに報告するには充分すぎる程の情報を得たのだ。


「それもそうだな。君の忠告を受け入れるとしよう」

「良かったです。北側の城郭は警備も薄く、騎士身分であれば出やすいかと思います」

「ありがとう。協力感謝する」

「いえ、私の命の恩人ですから、当然のことですよ」

「それでは自分はここから一度出るとするよ。君も気を付けるんだぞ」

「御武運を……」


 兵士とウェインはそう言って互いの身を案じながら、混沌の街の中で歩を別にするのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ