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王都政変 2

 ハラルドの住まう王宮はヴァイレル城の東側に位置しており、その敷地は広大だ。現トルア以外の王族の人間も多くがこの王宮に住んでいる。

 王宮の中庭は石畳であり、誰もが武の鍛錬が出来るように武具が備えられている。

 それはヴェルムンティア王国の王家ならば、嗜みとして当然の事として受け入れられていた。

 当然、ハラルドも王宮の中庭では王族従騎士達と共に剣を交えて、己を鍛える事を忘れてはいない。


 ハラルドはそんな武人としての一面を持ちつつも、普段は王城内の美人な侍女や、高級な娼婦、男娼、貴族の悪友を呼んで酒池肉林の宴を催していた。

 勿論、それに対して周囲は良い目をしてはいない。

 ただ、現王の嫡子と言う理由で、誰も何も言わないのだ。

 そんな堕落したハラルドだったが、今日の彼は違っていた。


 彼に当てがわれた広い一室、そこには貴族や男娼、娼婦の姿はない。

 重装甲のフルプレートアーマーに身を包み、表情を引き締めた屈強な男たちが、ハラルドの前に建ち並んでいるのだ。

 その数50名、覚悟を決めた精鋭、王族従騎士達の顔に迷いはない。

 ハラルドは戦闘着と呼ぶにふさわしい白銀の甲冑に身を包み、騎士達の前をゆっくりと歩く。

 これから行おうとしている事への覚悟で、一同の目つきは据わっている。


「諸君、よくぞ私の言葉を信じて集まってくれた。声をかけた者の半数ではあるが、それでもこれだけの数の従騎士達が私の言う事を信じてくれた事、素直に感謝する」


 ハラルドは真剣な顔つきのまま50名の騎士達の顔を見据える。


「私が独自に掴んだ情報では、今日、これよりここに王立騎士達が私を殺さんと殺到する。それを私は栄えあるヴァルムンティア王家の嫡子として迎え撃つつもりだ」


 一同は全く微動だにしない。

 騎士の国として立ち上がり、早700年以上続く国、それがヴァルムンティア王国だ。

 その間、男系男子のヴァルムンティア王家が、ずっと玉座に着いてきたのだ。

 ハラルドはその栄光を守る為に、立ち上がったのだ。


「我らがヴァルムンティア王国の誇りを穢すもの、それを赦すわけにはいかない! 戦いは数ではない。我々がどれだけ強固な意志をぶつけられるかだ! 諸君! 父王を救いに向かうぞ!」


 ハラルドは剣を引き抜いて、天井に向かって振り上げる。

 それと同時に一同全員が右こぶしを掲げて叫ぶ。


「ヴェルムンティア王家に栄光を!!!」


 ハラルドは一同を引き連れて部屋を出ていく。

 そして、王宮の扉を開けて外に出ていた。

 外に出た瞬間にいつも鍛錬を行っている王宮の中庭に出る。そして、その中庭には王宮の敷地を囲む城壁の城門を越えた王立騎士達がすでに迫っていた。

 その数おおよそ200名だ。

 倍以上居る王立騎士隊を前に、ハラルドは剣を振り上げていた。


「先手必勝! 相手はなまくら騎士の王立騎士だ! この程度の数、造作もないぞ!」


 ハラルドはそう言うなり駆け出していた。

 それに続いて一斉に王立騎士達が駆け出す。

 襲撃を想定していなかった王立騎士隊は、隊列を乱していた。

 明らかに動揺しているのが、ハラルドには手に取るように分かった。

 まさか王族自らが少数精鋭を率いて、戦いを挑んでくることなど想像していなかっただろう。


 それが、あのハラルドであれば尚の事だ。

 普段は自堕落な生活をしていて、決していい噂を効かない王族の一人なのだ。


 王族従騎士はすぐに王立騎士隊に襲い掛かっていた。

 横列の腹を食い破られるかの如く、あっさりと陣形は崩れる。

 乱戦ではなく一方的な殺戮ショーの始まりだった。


 先頭に居た馬に跨る騎士は、突撃を受けて馬から引きずり降ろされて殺される。

 王族に率いられた王族従騎士隊の士気は最高潮に達しており、嫌々ながらも覚悟を決めてやってきた王立騎士達を斬り散らかしていく。


 王宮前の広場はあっという間に王立騎士達の死体が積み重なり山となる。

 ある者は斧で頭を割られ、ある者は卓越した技量を持つ従騎士に意図も容易くこかされて首に剣を突き立てられる。


 正に王族従騎士は殺戮機械と化していた。

 王立騎士隊の半数が即座にやられ、残りの部隊は門まで撤退を始める。

 城門の前で密集隊形をとって盾を構える王立騎士達、完全な守りの体制に入っていた。

 しかし、ハラルドはそれが虚しい抵抗であることを知っている。


「全員、この勢いのまま、あの密集隊形を突き崩すぞ! 我に続けえ!」


 馬を奪ったハラルドは、勇敢にも単騎で密集隊形に向かって走っていく。

 王族従騎士達を引き連れて突撃を開始していた。

 その異様な士気の高さを前に、王立騎士達は戦慄していた。


「こ、これがヴェルムンティア王家……。本当の騎士の力か……」


 ハラルドは巧みな馬術を駆使して、盾を持っている騎士を吹き飛ばし、戦列に穴をあける。

 彼は乱れた陣形の中でロングソードを振るって手当たり次第に、目の前の騎士や兵士を斬りつけていく。

 そうしている内に、すぐに王族従騎士が追いついてきて、再び殺戮が再開されていた。

 盾を掴んで引き倒して、騎士を刺し殺すさまは、正にバーサーカーと言うにふさわしい。

 防御陣形はあっという間に崩壊していた。


 ハラルドは城門前で大きく剣を振りかざすと、王族従騎士が勝利の雄たけびを上げていた。


「このまま近衛騎士の開放を行う。我々が近衛騎士を開放すれば、敵は賊軍となろう!」


 ハラルドは王宮より撤退していく王立騎士達を見ながら叫び声をあげる。

 王族従騎士達はそれに呼応していた。


 クーデターで最も重要なのは、迅速に政権中枢の掌握を行う事である。

 同時に権力者の打倒を行う事だ。

 国王トルアとその直系嫡子のハラルドの殺害だ。ハラルドはそれを実力で阻止したものの、トルアが普段通りの生活をしているならば、その命は危うい。


 ハラルドはルードリヒの動向の詳細を掴んでいたのだが、いかんせん普段の振る舞いから信用がない。

 それでも王族従騎士が50人も彼に付いて来てくれたことは、ある種、彼の人望でもあった。

 ハラルドは馬に跨ったまま、王族従騎士達と共に近衛騎士隊の開放に向かう。


「ハラルド王太子殿下! 王宮より増援の王族従騎士隊が来ています」


 一人の従騎士がそう告げるも、ハラルドは後続を待つことはなかった。

 今最も大事なのは時間だ。

 時間が経てば経つほどに、ルードリヒはこの国を掌握してしまい、自分の命すら危ういのだ。

 ハラルドはそれが分っているからこそ、後続の増援を待つことはしなかった。


 相手がどの規模でクーデターを起こしているのか、その数までは把握できてない。

 それでも近衛騎士隊を開放して自分の指揮下に置けば、状況の打開は十分に可能だ。

 ハラルドは近衛騎士隊の総司令部となる建物前まで来ていた。


 途中で幾ばくかの抵抗はあったものの、王族従騎士隊と共に容易くねじ伏せて居た。

 近衛騎士隊の隊舎と司令部前には、大勢の王立騎士達が闊歩している。


 ハラルドを見て王立騎士達は唖然としていた。

 血塗れの殺戮者たる王族従騎士が、近衛騎士総司令部前まできていたのだ。

 打合せにはない状況に対して、王立騎士は出遅れていた。


 ハラルドは機を読んで、早々に司令部へと向かう。

 入り口前に居る王立騎士達を倒し、王族従騎士達と共に建物内へと突入していた。

 王立騎士達は突然の襲撃に対応を追われ、混乱した部隊の状況を治める事が出来なかった。

 ハラルドは難なく近衛騎士隊総司令の居る部屋へとくる。


 軟禁状態にあるのか王立騎士が部屋の入り口前にいたが、ハラルドはその二人を早急に切り伏せていた。部屋に入れば近衛騎士隊総司令官のレオニードが、外に目を向けて窓の前に立っていた。

 彼は物憂げな表情でハラルドに目を向ける。


「レオニード殿! お助けに参った」

「これはハラルド王太子殿下」


 レオニードは彼を確認するなり、跪いていた。


「礼などいい! 今は近衛騎士隊を開放して、早急に賊軍の企みを阻止するときだ!」


 ハラルドはそう言ってレオニードの肩に手を置いて、彼を勇気づけていた。


「は! 殿下! トルア陛下をお救いに参りましょう!」

「ああ!」


 ハラルドとレオニードが互いの目標を確認し合い、近衛騎士の開放に動こうとした時だ。

 ヴァイレル城本丸より、けたたましい爆発音が響き渡る。

 ハラルドとレオニードは目を慟哭させながら、音の方向へと顔を向ける。

 そこは王が執務を行う一室のある場所だった。

 わずかに煙立っている執務室を目に、二人は拳をぎゅっと握りしめる。


 一回目の爆発音の後に、続けて同じ音が響いていた。

 これは紛れもなく大砲が使われた音だ。


 ハラルドとレオニードは顔を見合わせた後、互いに覚悟を決めて声をかけることなく駆け出していた。

 トルアを護る。

 その思いが二人の足を動かしていたのだ。

 二人は持ちうる戦力を集結させて、早々にトルアの元へと急ぎ向かうのだった。



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― 新着の感想 ―
強……!? 本人はそんなつもりは無いのかもしれませんが見事に裏をかいたかの様な強さですね
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